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●お祭りと地元の生産活動が結びつく
 
長谷川 岳氏
 
 長谷川―実はこの祭りが一番大事にしているのは、「街は舞台だ」というテーマなのです。映画でもない、劇場でもない、自分の街を舞台にするところにテーマがあります。
 日頃の街をどういうふうに舞台作りするか、それに対してどういう仕掛けが必要かということになります。Yosakoi ソーラン祭りの開催地である札幌は180万人の都市ですから、これだけの都市をお祭り一色にするのは非常に難しいです。
 そこで、今年は市内25会場を運営しておりますが、全ての会場をJRや地下鉄の駅から歩いて10分以内の場所にしました。
 Yosakoi ソーラン祭りの当日になりますと、4万人近い踊り子さんは全員、Yosakoi ソーランパスという1日乗車券を持って、JRあるいは地下鉄で会場に移動していきます。それによって都市全体にお祭りの雰囲気を作ることができますし、公共交通機関を使うことでスケジュールも遅れません。札幌市の交通局も大変喜んでいます。
 つまり、街を舞台にしていくために、JRや地下鉄を移動手段として利用して、かつ、お祭りの雰囲気がでるように、この日だけは法被で、あるいは衣装を着たままで公共機関に乗れる環境を作ったのが、1つの仕掛けとして良かったのではないかと思います。
 近年、Yosakoi ソーラン祭りが盛り上がってきて、インターネットのアクセスも増えてきました。半年で2千万ページビューぐらいです。ところでYosakoi ソーランに参加する多くの人たちが、農業、漁業生産者の方です。そこで、「Yosakoi ソーラン厳選100選」として、Yosakoi ソーラン参加者の生産したもののネット販売を、株式会社yosanetで始めました。
 これにより単なるお祭りから、年間販売できるビジネスが発生しました。今年はまた、Yosakoi ソーラン祭りのフードパークとして、採れたてのアスパラや市町村の農産物を販売する屋台村を実施することができました。このようにお祭りと日頃の農家の生産活動との結びつきを考えることによって、札幌を上手くマーケットとして活用していくという新しい意味合いが出てきたと思います。
 先ほど日下会長が言われたので、私も言わせてもらいますが、実は私も朝、市内を10キロぐらいランニングをして回ったのですけれど、唐津は商店街も含めて歩きやすいですね。高低差がなく歩きやすい場所だと思いました。私もいろいろな商店街を見た中で、これだけ駅に集中した商店街で、しかも歩いて味わいのあるところはなかなかないと思いました。ところが、実際に歩いている人は少ない。
 そこで歩いて買い物をする人にマイレージがつくようなシステムはできないかと考えました。飛行機でやっているマイレージは、マイレージが貯まると空港のサロンのような待合室ですごせる特典があるのですが、こちらはそういうサロンを空き店舗の上に作って、お茶のサービスもあって、歩いて買い物に来た人にはマイレージポイントを付けて、ここで休憩できるようなことを組み合わせると、面白いと思います。
 大きな車でのショッピングが広がっているからこそ、逆に商店街は歩いて買い物に来る、そして買い物をしたあとに休憩できる場所もあるというように、歩くことに力を入れると、非常に面白い街作りができるのではないかと思いました。
 
 日下―いや、今のお話でなるほどと思ったのですけれど、東京の巣鴨という街は、おじいさん、おばあさんたちの原宿と呼ばれています。そこで同じようなことがありまして、巣鴨信用金庫が、おじいさん、おばあさんが歩き回ってくたびれているのを見て、2階を無料休憩所にしたのです。そして、ちょっとでも預金してくれる人には100円ぐらいの煎餅を渡した。100人、200人もおじいさん、おばあさんが座って休んでいるのです。それを見て落語家の卵が、ただで噺をやらせてくれと言ってきた。それで落語、漫才の練習をやると、ますます人が集まる。そういうことがありました。やりだすといろいろなことが起こるんですね。
 
 後藤―ありがとうございました。長谷川さんからは、唐津えんやマイレージともいうべき、地域振興課が明日にでも企画書を作れるような非常に具体的な提案をいただきました。
 それでは小山さんにお伺いしたいと思います。小山さんは曳山を曳いたことがないそうですが、Yosakoi ソーランの場合は出発が参加型のお祭りということで、女性のお祭りへの心意気を聞かせてください。
 
 小山―Yosakoiでは、曲とか振り付けを業者に頼んだりすることが多いと聞いているのですが、私たちはそういうことも知らないで始めてしまったので、曲も振り付けも自分たちで用意しました。去年はソーラン節が入った曲を使いましたが、札幌だからソーラン節で踊っているのだろうけれど、私たちは唐津で踊るのだから、やはり曳山囃子の音楽を使った曲で踊りたいと、漠然と考えていました。
 お正月に大阪から帰ってきた友人にYosakoiをやっていると言ったら、彼女も是非やりたいというので、曲づくりを頼んだのですけれど、途中で彼女が忙しくなり、結局曲はできあがらなかったのです。商店街の楽器屋さんで、どうしようかななどと言っていたら、宮崎さんをご紹介いただきました。そこで宮崎さんに、唐津の盆踊りがなくなってしまったので、私たちで何かできないかと考えてYosakoiを踊るのですけれど、曲を作っていただけないでしょうかとお話をしたら、「地域のためなら自分も是非ともやりたい」と快く引き受けてくださいました。それが、この後に踊る「エンヤ」という曲なのです。
 
 
 実は私は踊りが大好きというわけではないのですが、この曲を聴いたとき自然にリズムを取っていたんです。それは曳山囃子のリズムなので、私にとっては体に染みついているからなんですね。ほかの方から、同じメロディばかり出てくると言われたのですけれど、私は全然気になりませんでした。曳山囃子を聞くのが楽しいだけなんですよ。だからリズムも自然にとりますし、たぶんこの曲は1日聴いていても飽きないと思います。
 メンバーにエアロビクスインストラクターがいますので、彼女が振り付けをしてくれました。きょう踊るメンバー35人のうち、25人は商店街に関係のある人たちです。残念ながら唐津くんちのときは、おくんちの接待で忙しくて、踊るのはかなり無理があります。それはちょっと残念だと思っています。
 今度、小学生や幼稚園生が来て踊ってくれるのですけれど、そういう風に子どもの頃に商店街、中心地区で踊って、そのことが楽しい思い出として残っていれば、大人になっても商店街に足を運んでくれるのではないか、という考えを持ってやっています。
 
 
 後藤―まさに手作りで唐津のYosakoi ソーランをお造りになったということで、この後が大変楽しみです。
 香瑠鼓さんは通常のメジャーなお仕事のほかに、パラリンピックや障害のある方の車いすを使ったままの踊りなどにも、大変力を入れていらっしゃいますね。きょうのテーマとはダイレクトには関係ないですけれども、そのへんの経緯と指導に対する思いをお話いただければと思います。
 
 香瑠鼓―8年ぐらい前から障害のある方たちを教えています。弟子入りしたいという障害のある女の子がいて、言葉も上手く話せず、目の焦点も合っていないような感じの子だったんですが、私は個性的な子だと思って始めたのがきっかけです。
 ところが、やってみて初めてわかったんですが、学習障害で全然覚えてくれない。「みなさん、聞いて下さい!」と言っても、みんないろいろな方向にそっぽ向くんです。
 どうしようかなと思いながら1年ぐらいやって、とにかく舞台に出しちゃおうと思ったんですね。舞台に出してもこの子たちは叫び声を上げてどこか行っちゃうんじゃないかと、どきどきしながら、舞台の袖で手を合わせて拝んでいたんです。そうしたら、踊ったんですよね。そして、お客様の拍手に、みんな鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、まるで人生の一大事のような様子で踊り終えたんです。
 その次の日、子どもたちは、「おはようございます」と生まれて初めて、自分から挨拶してくれたんですね。それはお客様の拍手が温かかったからです。障害のある子は、自分の中だけで生きていて、外に人がいるというのがわからないのです。でも拍手をもらうことによって、社会があるのだな、周りの人によって自分たちは生かされているのだなとわかったみたいです。それで、おはようございますって。
 さっき申し上げたように、音に合わせてビートと一体化することによってエネルギーが得られ、自我をなくしてその中で自分を出していくということをやっているわけです。自我をなくして音と一体化すると、お客様とも一体化ができて、それで自分の周りにこれだけ人がいて、自分は生かされているのがわかったんじゃないかと思います。
 そして、お客様の中でなぜか泣いていらっしゃる方がいました。私もすごく頑張っているんですけれど、障害のある子どもたちを見ていると、負けると思うんですね。というのは、私は46歳で、いろいろなものをくっつけていますが、あの子たちは何もつけずに、すかーんと舞台に出ているからです。
 私は、人間には深いところに魂のようなものが平等にあって、私が振り付けしている木村拓哉さんにしろ、障害のある子にしろ、ここにいらっしゃる方もみんな同じだと思っています。でも、私には、今の地位も捨てる、お金も洋服も捨てる、状況を捨てることは、できないのです。だけど、障害のある子たちはすぐさま捨てて、踊ることができます。生まれて初めての「私はここで生きているんだ。私ここにいるんだよ、見て!」というすごい素直な喜びが伝わるんですね。
 踊りは滅茶苦茶ひどくても、お客様に本当にダイレクトに伝わるというのが、私は本当に嬉しいと思いました。
 たぶん私たちには一人一人可能性があり、肉体にもいろいろな可能性があると思うのですけれど、Yosakoi ソーランにしても曳山のお祭りにしても、その肉体の可能性というのがすごくわかる。それは、この仕事を選んで良かったと一番思うことだし、この場にいられて良かったと思うことです。
 
 後藤―踊りの力、素になって踊る人たちの強さというか、そういった意味では商店街の商売も原点に戻るというか、ゼロからスタートすることも1つの手ではないかというヒントをいただいたと思います。
 
 後藤―それでは、日下さん、先ほどすでに唐津商店街にご提案をいただきましたけれど、再び唐津の商店街が元気になる応援歌をいただきたいのですけれども。







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