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●なぜやっているのか、を決めることが商売の始まり
 
 
 日下―商売するのは何のためですか。お金儲けのためです。でも、これは経済学部の考え方なのです。経済学部のほかに文学部もあれば法学部もあれば商学部もあるのですけれどね。なぜか日本中経済学部だらけになりまして、みんな商売は金儲けのためだと言いだした。
 だったらたくさん儲けた人が偉い人だということになります。そのためには手抜きが一番良い。これを効率化と言うのですよね。実は効率化には、お客様のための効率化と、自分のための効率化があるのです。今世界で広がっている経済学は、ユダヤ人が作った経済学ですから、自分のための効率化ばかりです。
 お客にばれなきゃ良いだろう。儲けがたくさん増えたら賢い経営。そんなことお客に必ずばれますよ。ユダヤ人は、ぱっぱっと儲けたら別の街に行くんです。でも日本人は、ここで聖徳太子以来1400年くらしているのですから、手抜きしたらお客はすぐわかってしまいますよ。だから短期的な効率化はやらない方が良いのです。やるとすれば大都会でやればいいわけですね。大都会は同じ人はあまり来ませんから、その場その場の勝負で手抜きでもなんでもして利ざやをとればいい。
 逆に心を込めてやれば、これもわかってくれますよ。経済学でも、幅広く考えれば心を込めてやると結局必ず儲かるよというのもあるのですけれどね。実際の知恵として、町が発展すれば自分も儲かる。町のためになることならやるという考えは昔からありました。曳山でも昔はみんな町の人が寄付したのでしょう。べつに公的補助金はなかった。そのかわり所得税もなかったんです。そういう、もっと広い、深い経済学を作らなければいけないのです。
 ここの商店街の大きな特徴は、和菓子屋さんが多いことですね。これはそういう城下町の文化があり、お互いにプレゼントを贈る暮らしがあるのだろうと思います。店先に小さな羊羹があり、1口食べてもいいですよと並んでいましたけれども、あの1口羊羹は誰が発明したのかご存知ですか。これは大阪で丁稚羊羹を売り出した人がいるのです。大阪の店で働く小僧さんが、1年に盆暮れだけ休みがあって街へ繰り出してくる。甘い物を食いたいなという時に、お小遣いの少ない丁稚さんでも食べられる羊羹を作ってあげようといって、安くするために小さくなったんです。結局はそれで儲けたのですけれど、心は丁稚さんでもたまには羊羹を食べたいだろうという気持ちから出た商品なんですね。こういう気持ちを持って商売をしなければいけない。新商品開発はお客が喜ぶところから考えないといけませんね。
 
 
 サンデーサン(Sunday's sun)というファミリーレストランがあります。これは山口県の人が創業者で、話を聞いて感動したのですが、もともとこの人はカローラを売って成功したのです。それで、カローラを買った人は、乗って何をしているかと考えてみたら、ほとんど使っていない。遊びに行くところがない。だけど、みんななんとなく自動車を買った。これはかわいそうだ。
 では、カローラに乗って楽しく行ける場所を作ってあげよう。家族揃って晩ご飯を食べるようなレストランを作ろう、と考えたのです。そうすればまたカローラが売れるというのもあるのですけれど、それよりも買ってくれたお客さんが楽しく行ける場所を作ろうという気持ちがあったのです。一家4人が1000円でおさまるようにしよう。そうすると土地の安いところで作らないといけない。山の峠の上なら土地代は安い。景色は良い。自動車はもう持っている。
 ということでサンデーサンというファミリーレストランを山の上に作ったわけです。まさにそういう人たちが喜んで行くようになって、実はそういう人たちは山口県だけでなく、ほかにいっぱいいたから全国展開したわけです。大成功したわけですが、成功しようと思って考えたわけじゃないんです。
 こういう話が商売にはいろいろあります。そういう目で見ると、ここの商店街の人は、自分の効率ばかりを考えているのじゃないかなと思います。そうするとお客はちゃんとわかってしまう。そんな気がしますね。
 
 
 私の趣味は碁です。全国、全世界、碁会所と見れば必ず探し当てて入ります。ですから碁会所の経営者は何を考えているか、わかります。東京の盛り場にある碁会所の経営者は、サラリーマンを辞めて碁会所の経営者になって、毎月2、30万円の生活費をなんとか出そうとする人です。こういう人は一生懸命商売をします。広告もするし、店の掃除もする。お客さんの顔は覚えるし、次から次へとイベントをする。今度の日曜日は何とか大会をするから来て下さい、と一人一人に言うのです。
 地方へ行きますと、ほとんど自分の趣味のためにやっている人がいるわけですね。自分も碁が好きで、友達が遊びに来るから碁会所の看板を出しておけと。お金は払ってくれても、くれなくてもいい。それから、晩年になって、こんなに面白いものをみんなに教えたい、儲けなくてもいいという、文部科学省から表彰されるような人もいるのです。あるいは古い碁会所になると、固定客がいまして、ほかに行くところがないおじいさんが必ず来る。ここを閉鎖したら、あの人は死んじゃう。あの人が死ぬまでは閉鎖できない(笑)、というのもある。
 最近の碁会所で流行っているところは、することがないので碁でも覚えようかというご婦人がたくさんいて、ご婦人教室をやっている。そこへ今度は「ヒカルの碁」というマンガが出ましたから、小学生がやたら碁を打つわけです。小学生教室、婦人教室をやっている碁会所は満員です。これ、私たちは迷惑するんですよ。行くと10歳ぐらいの子どもが待っていて、私より強いんですから(笑)。でも、それはなかなか賑やかな碁会所ができております。ここにも碁会所が1つあるようですが、どうなっているか知らずに言っているのですから、怒らないで下さい。
 これはどの商売でも、自分はいったいなぜこれをやっているのかを決めたら、それに応じた商売のやり方があるということです。ただ儲けるだけが目的とは決まっていません。実は回り道をした方が儲かるんですよ。まずは何が何でも人間がたくさん来てくれたら、いつか自然と儲かるものです。
 
 後藤―4人のパネリストの皆さんからそれぞれ示唆に富んだお話をお伺いすることができました。これだけのメンバーの方が唐津に集まる機会は、そう滅多にあるものではございませんので、会場の皆さんからパネリストの皆さんに、ご質問なりご意見をいただきたいと思います。
 
 質問者1―北海道のお祭りだからソーラン祭りだけで十分だったんじゃないでしょうか、長谷川さんはどうしてYosakoiをつけたのでしょうか。
 
 長谷川―自分が高知に行ってよさこい祭りを見て感激したのが、全ての原動力なのです。ルーツは大事にしたいと思っています。
 高知のよさこい節を作った武政英策さんという作曲家がいます。よさこい節のよさこい鳴子踊りも作った方です。その人が、この曲がどんなに変化しても、どんなに変わっても構わない、芸能は民衆の心の躍動である、誰が作ったか元がわからなくても変化しても、地元・地域に馴染めばそれでいい、とおっしゃっているんですね。私はこの発想の広さ、スケールの大きさに感激しました。そこで、どんなにYosakoi ソーランが大きくなってもそのルーツは高知にあると明確にしておきたいと思っています。
 もう1つは、よさこいは四国、そーらんは北海道で、どちらも本州ではない。地域と地域が東京を介さずに結びついたことが面白いと思っていまして、そういうふうに地域と地域のつながりができる、行き来ができるという部分で、2つの名前を入れたのは非常に意味があるのではないかと思っています。
 
 
 後藤―ありがとうございました。次のご質問ございますか。
 
 質問者2―日下先生に質問です。日本全体もそうですが、唐津も経済的に停滞しています。これから地方分権の時代になって、どういう形で地方は考えていかなければいけないか、展望をお話しいただければと思います。
 
 日下―日本は今、ものすごく変わりかけているのです。今まで通りのことを考えていてもだめですね。例えば道路予算は、今までは細かく分けてつけていたわけですが、塩川正十郎さんは、そんな細かく分けることない、どうせ佐賀県に100億円渡すのなら全部まとめて渡して後は佐賀県の自由に使わせれば、100億が80億に減ってもよほど良い仕事ができると言います。これは日本中の人が30年前から言っていたことですけれど、ようやく来年から実現できるようですね。
 まとめてやるけど少し減らしてもいいかと言うと、ありがとうと言う人と、ありがたくないと言う人がいます。県民のために道路を造ろうとする人はありがとうと言う。土建屋さんを儲けさせようという人は、お金はたくさんある方が良いと言いますが、そんなことをやるところはだめになります。そういう時代が始まっています。
 役に立つ道路とはなんですか。子どものために役に立つ学校とはなんですか。何もかも原点から考えて、いらない物はいらないと言えばいいのです。でも、そうすると自分がクビになるとか、月給が下がるとかするので、それは辛いから誰も言わない。
 でも、世の中の役に立っていないなら、商売替えをしなければいけないです。不景気のせいだとか、そんなことを言っている場合ではないのです。目の前にいる人が喜ぶ仕事に商売替えをしなさい。官庁もそうですよ。文部科学省を廃止してくれ。外務省なんていらない。大使館は100もいらない、50あればいい。そういうことをみんなが言うようになってきた。道路公団だってやめちまえと。無料開放した方がよほど役に立つ。料金所もなくしてしまえ。道路公団の人は全部失業して下さい。あんたらが働けば働くほど、みんなが迷惑する。
 そういう議論がいっせいに出ている。こういうことが言えるようになったし、言えばわりと通るようになってきた。これは不景気のおかげなのです。不景気になったおかげで、真っ当な話が通るようになった。レーガンのときがそうです。サッチャーのときもそうでした。それでアメリカもイギリスも生まれ変わったのです。しばらくは苦しかったのですけれどね。だから日本もしばらくは苦しいのはしょうがない。総論はこうなのです。
 では地方はどうすればいいか。簡単に言えば、まだ誰もやっていないことをやりなさい。誰もやっていないことを日本で一番最初にやりなさい。そうすると大変な儲けもあるし、名誉もある。でも、だいたい今までやってないことは、いくら勧めてもやりません。
 例えば、杉の木を植えすぎたために花粉症がありますね。これは杉の木を手入れすればいいのです。杉の木の枝落としをするとか、伐採するとか。しかし、それをするには人件費が高いという。この頃は人件費ではなく、みんな年をとったから仕事ができないと言います。本気でやるなら、枝落としのロボットぐらいすぐ作れますし、まとめて買えばものすごく安くなります。
 また、私は杉の木問題の解決にロシアの兵隊を連れてくればよいと考えました。いくら寒くても平気ですし、ひと冬山奥で働いてもらって、1人4万円もやれば大喜びで帰ります。ロシアの軍司令官に聞いたら、「私が一個大隊引き連れてすぐ行きます」と言うんですよ。そういうことをすれば、労働力はあるんです。20歳の透き通るような美しい少年が来ますよ。それが2000人も来て働けば、日本の女性は差し入れに行くと思います。
 このアイディアをある村に薦めました。おたくの村は有名になりますから、観光立村なんて簡単です、と言うと村長さんは「それは本当に名案だ」と言います。「おやりなさい」「いや、やらない。どこかの村がやったら2番目にやる」。これもごもっともとは思いますが、花粉症で苦しんでいる大都会の人を助けてやろうという気が、全然ないのですよ。
 これは日本のためだということに、腰を上げるかどうか。それは原始的エネルギーが足らないのです。どうか唐津が何か良い模範を示してくれるとありがたいと思っています。
 
 後藤―もっともっとパネリストのみなさんにもお話を聞きたいのですけれど、予定の5時を過ぎてしまいました。これでパネルディスカッションを終わらせていただきたいと思います。
 私が予想していた以上に、パネリストの皆さんから唐津の街について、非常に具体的な、検討に値する提言もいただきました。なんとか唐津の街を元気にするために、きょうのパネルディスカッションをヒントにしていただければありがたいと思います。(了)
 
(文責 東京財団 田原一矢)







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