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◎「新規範発見塾」特別編・ロサンゼルス講演
第87回 日本から見たイラク戦争
 編集部注・この講演は十月一日(現地時間)、「ロサンゼルス日米協会(Japan America Society of Los Angeles)」にて行われた。出席者はアメリカ人が大多数であったため、講演には通訳が同席し、英訳が行われた。
 
 みなさん、こんにちは。ジャパン・アメリカ・ソサエティ(日米協会)でお話をさせていただくことを大変光栄に思います。
 出発前に日本で高校生に、アメリカについて何か知っているか、ホワイトハウスを知っているかと聞くと、みんな知りませんでした。彼らが知っているのはメジャーリーグのベースボールとスターバックスのコーヒーです。それは、まず外国への関心が非常に少ないからです。それから学力低下でみんな勉強しなくなりました。そのかわりアニメとマンガに夢中。それからアメリカへの関心も少なくなっている。これは、一つには軍事力に対する興味がないからです。
 
 
 さて、イラク戦争について、私の意見を申し上げます。今から話すことは日本人一般の、普通の考え方です。ただし、日本の新聞記事やオピニオンリーダーは、アメリカに対して反米的なことは言いません。私が書いても載せてくれません。だから私がここで話そうと思います。
 まず、四点ほど伝えておきたいことがあります。バグダッドでイギリス兵が殺されました。これについて知人のアラブ研究者に「イギリスという国が憎いのか」と聞いたら、「そんな問題ではない」という答でした。「国」で考える考え方がおかしい。彼らを殺した一番の原因は、犬を連れて自分の家に入って来たからだ。犬はコーランで不浄とされている。しかもフセイン一家を隠していないかと、女の部屋まで入った。世帯主の名誉の問題として、こんな奴は誰であれ殺さないといけない。
 このように文化が違う国に、アメリカは手を出したわけで、アメリカはもっと用心しなければなりません。
 二番目には、戦争目的としてイラクを民主化すると言ったのですが、なかなかこれが実行できません。「民主化」と言うなら、自由選挙をして政権が交代しなければなりません。そうなるとシーア派とスンニ派があり、シーア派のほうが数は多い。では、「シーア派がプレジデントになるのか」とアメリカ人に聞くと、それは絶対に困るという。スンニ派でなければならない。
 フセインに代わる新しい大統領は、まず英語が話せなければならない。それからアメリカのテレビに映った時にハンサムでなければならない。そして思想が親米的でなければならない。
 しかし、これではアメリカ人が次の大統領を決めるということです。だから矛盾がある。
 それから「日本の統治は成功した、あの調子でやればうまくいく」と言っていたのは根本的に勉強不足です。まず、マッカーサーは日本統治をする前にフィリピン統治をしています。その時はフィリピンの大統領を監獄に入れ、その後に農地改革、財閥解体、民主化をして失敗つづき。
 しかし日本で成功したのは、天皇を残したからです。日本人がおとなしく従ったのは、天皇の命令に従ったからであって、マッカーサーに従ったわけではない。
 日本を例に出すならば、アメリカはフセインを存続させ、フセインに統治させなければいけません。つまり、イギリス式間接統治の妙に学ばねばなりません。
 三番目に、日本はあの時点で非常に文明化されていました。ご承知のように、軍艦も飛行機も世界最高水準のものを造るし、東京、大阪のようなビッグシティもあった。そのビッグシティの中の国民生活は、もう十分アメリカナイズされていました。それはバグダッドとはぜんぜん違うのです。
 それから四番目ですが、日本は石油を買わなくなるという可能性が非常に大きい。ですから、石油を押さえておけば日本と中国が買いに来るという予測は、日本についてははずれるでしょう。たしかに日本は石油がほとんど出ませんが、エネルギーの石油への依存度は、十年前の湾岸戦争の時は七〇パーセントでした。しかし今では、四九パーセントにすぎません。まもなく三〇パーセントになるかもしれません。日本が買わなくなると、石油の価格は下がるはずです。ただ、代わりに中国が買うと思いますが。
 では、日本はどうして石油を買わなくなるかというと、まずは原子力ですが、日本が円高だった十数年前、アメリカは日本に何でも買え買えと言って、おかげでウラニウムを二十年分買わされました。それからハイブリッドカーや水素自動車の登場です。この車は今のところ二倍か三倍価格が高い。それをどう考えるかですが、学生たちは「お父さん、どうか高い自動車を買ってください。そうすれば石油の輸入が減らせます。我々はイラクへ戦争に行かなくても済む」と言っています。
 日本のオイルの使い道は三つあって、まず自動車用が三分の一、次に発電用、それから三分の一はプラスチックの原料で、プラスチックの生産コストはもう中国に負けております。それなら、自分でつくるよりも、中国から買ったほうが安くなってしまう。ということは、石油の使い道は三つとも減る方向にあるのだから、輸入は減ることになります。
 五番目に私の結論を申しますと、アメリカは戦争目的をきちんと決めないでバグダッドに攻め込みました。勝ったか負けたかは、戦争の目的を達成したかどうかによる、というのが軍事常識です。戦争目的がはっきりしないのでは、これではベトナム戦争の時と一緒ではありませんか。それではアメリカは勝てません。
 日本では今度、安倍晋三という人が幹事長になりました。この人は国民からの人気が非常に高くて、いずれ総理大臣にしたい人の一人です。
 さて、この人を東京財団に呼んでスピーチをしてもらいました。すると「ブッシュさんはさぞ困っていることでしょう。大量破壊兵器があるはずだと言ったが、なかった。これからどうなるのでしょう。ブッシュさんはフセインの宮殿を再建して、彼を捜してきて、また元の大統領ポストに戻さなければならない。そして謝らなければならない。国際司法裁判所はブッシュ大統領を呼んできて“侵略者”として裁判にかけなければなりません。しかし、理屈はそうであっても、そんなことにはならないでしょうね」と話しました。
 つまり言いたいことは、いま日本では自分の考えを普通にそのまま話す政治家に人気があるのです。そして外務省は不人気ですから、みなさんはアメリカに迎合する日本人とばかりつきあっていると、アメリカの国益を損ずることになるでしょう。







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