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アメリカは孤立している
〔質疑応答〕(編集部注・質問者はアメリカ人のみで、英語によるものであったため、ここでの掲載は通訳者による翻訳を使用している)
 
質問 アメリカは孤立していると思っていますか?
日下 私はそう思っています。
質問 このイラク戦争に関する日本政府の正式な見解はどういうことでしょうか?
日下 小泉首相はアメリカにぴったり引っ付いて離れないと言っています。それを日本国民はちょっと心配しています。
質問 政府と市民の意見の相違もやはりありますか?
日下 アメリカにもあるし、日本にもあります。日本は一九三二〜三年のとき、中国に戦争をしかけたことを思い出すのですが、軍事力では日本は簡単に勝つと思っていました。たしかに勝ちましたが、日本の得にならなかった。アメリカもベトナムでは同じことをしたのではないかと思っています。そして、「それをもう忘れたのか」と心ある日本人は思っています。しかし、どのようにアドバイスすればいいのかわからないし、怖いから言わないらしい。
 私の友人、知人、後輩が日本の外務省に何人かいますが、まず日本の外務省の人は歴史を知らない。特に戦争の歴史をまるで知らない。長い間、外務省では出世コースは「経済外交」だったからです。それからアメリカに嫌われると出世しないということがあります。そこで日本国民は日本の外務省が嫌いになりました。信用していません。私が外務省の偉い人にこのとおりを言っても、近頃彼らは怒らなくなりました。個人的には「賛成」と言います(笑)。
質問 イラクの問題を解決するために、日本の方たちはどのような意見を持っていますか?
日下 なるべく関係したくない。
質問 日本は平和を愛する国だと言われていますが、平和に導くために、日本はどのような考え方を持っているのでしょうか?
日下 世界最高のエイド(援助)、お金を出しております。これはあまり効き目がないということがわかってきたので、次の方法をいま考えています。その行き先は、今や「日本自身が軍事力を持つ」という方向へ動きつつあります。国会の中の議論を紹介しましょう。日本はすでに偵察衛星を持ちましたから、北朝鮮がミサイルの発射準備を始めたら、二、三時間ぐらい後にはわかる。それがわかる能力をすでに持ちました。
 その時の防衛庁長官の国会答弁ですが、人工衛星であれば発射の時期、目的、方向その他を事前通告すべきなのですが、事前通告なしで発射準備をしていた時は、日本はこれを予防のために攻撃する。それは憲法違反ではない、と言ったのです。
 解釈がもう変わりました。アメリカと協力しつつではありますが、日本単独で攻撃破壊できるからやろうというわけで、こんな話をするようになったのは大きな変化ですね。
 さらに「攻撃手段としてトマホークを買いたい」と防衛庁長官が言ったのには反対が多かった。それから「アメリカはバグダッドでみんな使ってしまってもうない。だから待て」と言われたとか・・・これは私が聞いた話です(笑)。
質問 いま中国はアジア地域で非常に強力な経済的、軍事的パワーを持ちつつあります。日本にとって、そのことはどうですか。そしてアメリカ、日本がそれに対応し得ることがあるのでしょうか?
日下 まず、金融面と貿易面と二つの答えがあります。金融面で日本がアジアを救おうとした時、アメリカが反対しましたので、IMFを通じて援助をしました。お金は日本で配ったのはIMF。IMFの役員はアメリカ人。「今度は日本独自のAMFをつくろう」となるでしょう。するとこれは、アメリカと日本のこれからの外交上の問題になります。
 次に、貿易の問題は双方の利益です。日本の経済力は巨大ですから、こちらが損をする時はアメリカもアジア諸国ももっと損をします。量で言うと、日本のGNPを一〇としたら、アジア諸国全部のGNPは二、中国のGNPは二か三、合計で四か五です。質で見ると、日本が向こうから輸入するものはすべて「開発輸入」で、日本が資本を投下し技術を教え、完成品を買い上げる。
 彼らは日本向けに輸出したほうが高い値段で輸出できますから、一番良いのは日本へ輸出して、その次は世界各国へ輸出する。とすれば日本が輸入を止めたら、その分は高くて他へ輸出できませんね。ですから問題はアジアと中国にあって、別に日本にはありません。
 そういう状況において、江沢民時代の中国は対日政策を誤りました。日本を脅かせば譲歩するということでやりすぎました。あるいは、アメリカの会社に対しては約束を守るが、日本の会社に対しては約束を守らなかった。
 そこで日本は中国への援助を、実際に少し止めたのです。日本の世界全体に対する援助総額は一兆円。それを一〇パーセントカットして九〇〇〇億円にした。二〇〇四年はさらに一〇パーセント近くをカットする運びになっている。中国向けも当然減額されるので、これに中国はショックを受けています。
 胡錦濤主席に代わってから、新しいブレーンが二人います。その、時殷弘氏と馬立誠氏が書いた論文は次のように主張しています。中国は対日外交政策を根本的に変えるべきである。それが中国の利益である。第一、日本に対して「この前の戦争のことを謝れ」と言うのは、もうこのへんでやめよう。第二、中国投資が一番儲かることだと財界に思わせなければならない。中国シンパを今まで外務省につくってきたが、これからは財界の中に中国シンパをつくろうではないか。そして第三、日本はアジアに影響力を持ちたいと思っているから、それを中国も一緒になって援助しよう。この意味は、日中共同でアジアからアメリカを閉め出そうと読めます。そして第四、日本は国連で常任理事国になりたいと思っているから、中国はそれを支持しよう。
 で、江沢民時代とはまるで変わったのです。日本が援助をちょっと削るとこんなに変わる中国だとは、これは日本人自身がいま驚いていることです。
 ・・・もう時間がなくなってしまいましたね。通訳をはさむと、話す時間が半分になってしまうので、あっという間に時が過ぎてしまうのが残念です。







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