日本財団 図書館


新規範発見塾
(通称 日下スクール)
 
Vol. 16
KUSAKA SCHOOL
 
 本書を読むにあたって
 
 「固定観念を捨て、すべての事象を相対化して見よ」
―日下公人
 これからは「応用力の時代」であり、常識にとらわれることなく柔軟に物事を考える必要がある。それには結論を急がず焦らず、あちこち寄り道しながら、その過程で出てきた副産物を大量に拾い集めておきたい。
 このような主旨に沿ってスクールを文書化したものが本書で、話題や内容は縦横無尽に広がり、結論や教訓といったものに収斂していない。
 これを読んだ人が各自のヒントを掴んで、それぞれの勉強を展開していただけば幸いである。
 (当第16集は、2003年5月から4回分の講義を収録している)
 
第80回 根本問題としての「インテリジェンス」
(二〇〇三年五月十五日)
時事問題を見る、根本的な「目」
 おはようございます。雨の中をようこそお集まりくださいました。
 略奪の話を五回連続でしました(第十五集参照)。続ければまだ続けられるのです。
 この後フィリピンがあり、ベトナム、インドネシアもある。いずれも白人がした略奪です。日本の話もできます。いつかしましょう。ヨーロッパの人がなぜ「平和、平和」とさかんに言うかといえば、平和は例外だからです。戦争が正常で、ときどき合間に平和があり、その「平和」というのは次の戦争に勝つ準備をする期間なのです。あたかもボクシングの試合の休み時間のようなものです。
 その準備を自分は一生懸命やるが、相手はなるべくしないように「永久平和」と言って騙すのです(笑)。本当ですよ。相手もそれを知っていますから、だまされたふりをしながら「平和、平和」と国際会議をするのですが、日本人だけは本気で平和にしようと思って会議に参加しているとは、地球上まれに見る穏和な国民です。
 それを知ってほしくて、略奪の話を続けてきました。ヨーロッパだけでなく、中国も略奪の歴史ですが、その話を始めるとまた五回続いてしまいますので(笑)、今回は趣向を変えて時事問題をすることにします。
 時事問題というと、普通は裏話を聞きたいということになります。たしかに私も裏話を聞いて、「そんなことだったか」と驚いたことがありますが、そんな話は一カ月もすればマスコミに出てしまう。みんなが知っている表話になってしまう(笑)。ですから今日は、時事問題を見る「目」の話をしたい。そのような根本的な話をしてみます。
 
本音は石油、その次はユーロ
 まず「ポスト・バグダッド」。の話です。ブッシュ大統領が五月二日、戦闘終結宣言をしましたが、さて、もともと今回のイラク攻撃の狙いは何だったのでしょうか。
 もちろん、本音と建前があります。建前はご承知のように、大量破壊兵器があるからそれを見つけるということでした。それがいつの間にか、イラクを民主化しなければならないという話になった。そのもっと前までさかのぼれば、テロリズムの根拠地を叩くということでした。しかしフセインがいなくなればテロはなくなるかというと、そんなことはない。むしろ、ますます増えている。
 「戦争目的」を達していない戦争は負けですから、アメリカは負けました。達成できない目的を掲げるのは、戦争指導者としては失敗です。ですから、ブッシュ大統領は失格です。特に政治家は必ず達成できそうな目的を掲げなければなりません。
 そのような中で、日本人一般は「本音は石油だろう」と思っています。世界も言っています。そのとおりでしょう。
 では、次はなんでしょうか? そこまで考えておかなければいけません。
 この次出てくるのは「ユーロ」だと思います。ご承知のようにドル安のユーロ高。ドルがユーロに負けていますから、ユーロに勝たなければいけない。「そのための戦いである」と今にブッシュは言うだろうと思います。
 なぜかというと、政治献金を大企業からたくさんもらっていますから、大企業の利益になることを言わなければいけない。次の大統領選挙も、政治献金をたくさんもらってテレビの時間をたくさん買い占めなければ勝てない。
 そのような状況ですから、石油資本からの献金はもちろんもらいますが、それだけでは足りない。金融、証券、ハゲタカファンドからも献金をもらう必要がある。そのためには「強いドルにしてやる」と言うのが一番です。「ユーロに勝つために石油を押さえるのだ」と言えば石油とドルが両立するから、いずれそう言うだろうと私は思っています。
 
「ユーロ払いの石油」という大量破壊兵器
 それを裏付ける解説として出てきたのは、「フセインは、イラクの石油はドルを持ってきても売らない、ユーロを持ってきたら売ってやると言っていたが、これが一番憎い」という話です。
 これこそがアメリカに対する大量破壊兵器なのです。ものすごい威力がある。イラクの石油だけならともかく、それがアラブ中に伝染して「ドルでは売らない、ユーロなら売ってやる」となったら、もうとんでもないドル安になりますね。ドルは世界の基軸通貨ではなくなってしまいます。
 そのような目で見てみれば、日本はアメリカにすぐ従うからいいとして、これからは中国が心配です。世界の石油輸入の両横綱は日本と中国で、日本はずっと横ばいですが、中国はウナギ登りに使用量が増えている。来年は日本を追い越すでしょう。アメリカは石油の輸入では小結か関脇ぐらいで、これは安いから買っているだけです。いざとなれば自国から出る石油でまかなえる。すると、石油をどこへ販売するかといえばまずは日本だが、しかし、これからは中国が欲しがる。
 それなら、中国を、ドルを稼がなければ石油が手に入らない状態に固定しておかなければいけない。それがドルの基軸通貨たる基盤となる。
 ブッシュ大統領の立場になれば、ユーロ払いの石油が出現しては困る。だからフセインが許せない。万一、日本がそれにくっついていったら、ドルはがたがたになる。なんとしても日本を巻き込まなければいけない。さらに将来、中国が同調していくなら、もうドルはこの世から消えてしまうぐらいですね。
 今までたくさん印刷しまくって、世界中にばらまいた。実際に必要な量の二倍か三倍もばらまいたことでしょう。日本や中国が「外貨準備」という美名で持っていますが、ではその本質はなんですか?
 アメリカから何かを買うとき、あるいはドル払い商品を輸入するときには必要です。しかし、買うものがなくなれば持っていても仕方がない。アラブ諸国が石油をユーロか円で売るようになったら、彼らの輸入もユーロ払いか円払いになります。その分だけユーロと日本はアラブ向けの輸出が増加します。他方、ドルを持っていても買いたいものがないのなら、ドルはただの紙切れです。
 今から二〇年前、日本の貿易黒字が問題になったとき、三井さんという九州の財界人はアメリカで「なぜドルが日本にたまるかというと、それは日本が欲しいものをアメリカが売ってくれないからだ」と答えた。それは何かと聞かれたときの答が傑作で、“土地と女だ”と答えたそうで、ご本人に伺いました。ナルホドと大いに感心しました。
 日本人は昔からカリフォルニアやハワイで土地を買って農業をしましたが、アメリカはそれを法律で禁じました。「日本人に土地は売らない」という法律です。今、ドル減らしのために輸入拡大を強制するのなら、武器よりアラスカを日本に売ってくれれば、日本は喜んで買うでしょう。天然ガスがたくさんあります。もともとアメリカはロシアがカネに困ったときに買ったのですから、自分が困ったときは売ればよいのです。それが当然です。
 前川レポートのときそう言ったが、秀才官僚や学者は相手にしてくれません。非現実的と思って思考停止状態ですから、九州の財界人のほうが百倍も賢くて偉いと思ったのです。
 前川レポートに、土地を売れば日本は買うぞと、そう一行書いておけばよかった。前川レポートは小手先の国内政策ばかりで、それを実行したらこんな不景気になった―そのことはまたいつかお話ししましょう。前川さんご本人にも言い、当時本にも書きましたからよく覚えています。アメリカの言うとおりにすると、日本は必ず不景気になるのです。
 もう一つ、「女を売ってくれれば買う」というほうは今では逆になって、日本の女がアメリカの男を買う時代になりました。三井さんは「黒字減らしのためには土地と男を売ってくれ」と言い直さないといけません。イヤハヤ。
 
さらに先はスエズ運河?
 さらに先の予測をしてみましょう。
 その次に出てくるのは、スエズ運河ではないかと思います。絶好のチャンスですから、スエズ運河をエジプトから奪ってしまえと思うに決まっています。純朴な日本人は「そんな大それたことを」と思いますが、略奪の歴史はこれまで五回続けて話してきたとおりです。アメリカの大統領とその側近は、当然そう考えるでしょう。
 そのときどんな理屈を言うのか。さぞかしうまいことを言うだろうと、私は興味深く待っています。
 スエズ運河はかねてよりみんなで取り合いをしてきた場所ですから、この辺でアメリカが乗り出したって不思議はありません。あとは乗り出すとき、どんなうまい理屈を言うかです。これはブッシュ大統領の取り巻きの教養次第です。あるいは悪知恵の程度次第です。







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