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支配者は原住民を学校へ行かせない
 さて、ハワイに話を戻してわかりやすい例を挙げれば、相撲では小錦全盛時代というのがありましたね。その小錦の生まれた村は、ワイキキの浜からホノルルの街を越えて、パールハーバーを越えて、そのまた向こうの田舎です。そこが原住民居住指定地なのです。インディアンと一緒ですね。国を奪われると、ここへ住んでいろと押し込められるわけです。
 しかも、学校へ行くな。字を覚えると厄介だ。だから学校なんかこの程度でいいとされていたわけで、これは世界中共通ですね。支配者は原住民を学校へ行かせない。
 唯一の例外が日本なのです。韓国に小学校を建てました。日本から金を持っていって、日本の金で小学校をつくって、日本人の先生を派遣して、何を教えたか。韓国語を教えたんです。日本語を強制したというのは、ずっと後の話です。正確に言えば、強制しなくても、向こうから日本語を覚えたいと言ったのです。これは私ぐらいの年の韓国人はみんな知っていることです。韓国では文字は支配階級のヤンバンが独占していました。絶対に庶民には教えなかった。読ませなかった。特に女性はダメだったのです。
 それはともかく、その小錦の出身地の村へ行きましたら、レストランがいくつかありまして、小錦のおかげで日本人観光客が来ると喜んでいる。給仕に出てくるボーイがみんな大きいので、「小錦とそっくりだね」と言ったら、「そうです。この村の男はみんな大きい。私は学校時代、小錦と一緒でした」。「それならあなたも日本へ行ったらどう?」と言うと、「いや、小錦は我々の中でも特別強かった。自分が行ったからって、とても成功するとは思えない」と言っておりました。
 話が続いて、これから日本人相手にいろんな商売をしたいが、自分は計算ができない、字が読めないと言うのです。「我々は学校へ行ってはいけないのです」「それは昔でしょう。もう今は自由化されたはず」「ええ、されたのですけど、学校へ行ったら嫌われます。のけものにされます。いじめられるので不登校児にならざるを得ません。どうしていいかわかりません。日本の援助をください」とか(笑)。
 そういう思い出があります。国を奪われると、自分の国なのに、押し込められて暮らさなければいけない。学校をとられる。学校で勉強してはいけないと言われる。そのかわり支配国がアメリカの場合は生活保護を浴びるほどもらう。だから働かなくても食べてはいけるという愚民になるのです。
 
ODAは「食後のデザート」に戻すべし
 南洋群島は全部そうです。アメリカは援助づけ、生活保護づけにした。朝から晩まで何もすることがない。食料だけは腐るほどアメリカがくれる。暖かいから衣料品はそう要らない。「日本時代と比べてどうだ」と聞くと、「いやあ、あのときは勉強して、働いたものだ」。今でも働けばいいと思うのですが、ここで言いたいことは、日本人は食べ物が欲しければ働けと言ったのです。しかも、こういうふうに働けと自分がやってみせて教え、できたものは買い上げました(=開発輸入)。他に生きる道はないので、一生懸命働いて売ったら気持ちが良かった。ところが、アメリカは働く前にくれてしまう。それで、とめどもなくダラけてしまう。
 私は、日本の外務省のODAは半分に減らせとずっと言ってきました。ようやく一兆円が昨年九〇〇〇億円に減ったのです。「減らせるはずがない」と言っていたのが、不景気のおかげで減ったのです。「不景気だから」という言い訳が通ずるなら、今の間にどんどん減らせば良いのです。外務省の人は「ODAがなくなったら仕事がなくなる」と言いますが、そんな仕事はなくせばいいのです。領事館だけあれば、大使などは要りません。
 そういえば昔ある政治評論家に「総理大臣に会ったら、『この不景気が直るまで自分は外遊しない』と言えば人気が出ますよと伝えてください」と話すと、「それはダメ。日本国内の政治などどうしていいかわからないから、外国へ行って格好つけている。そのとき機密費を使って新聞記者にごちそうするのが嬉しいのだから、外遊はやめられない」と言われたことがあります(笑)。この機密費の話はその後、新聞、週刊誌にいっぱい出ましたから、今はご存じだと思います。
 さて、そのように生活保護をもらって、寝て暮らすのが幸せかどうか。もともと日本人がODAを配るのは、「食後のデザートにでもどうぞ」という感じでした。ところが、今では主食になっている。そんな国を三〇ぐらいつくってしまったが、それは日本が悪い。デザートに戻せ、ということです。外務省の言い訳は、国連での一票になるからというものです。
 続いて一九八〇年ごろ、“小錦村”のもっと先まで行ったことがあります。アメリカの老人がリタイアしてマンションを買い、あとは年金で暮らしている、そういうシルバー専門のリゾートタウンがありましたので、今に日本もこうなると思って見に行きました。
 景色のいい村はずれ、何もないところにポンと建っていました。そこにいるのは白人ばかりです。老人たちは退屈で仕方がない。ハワイでは一番繁華街のホノルルに白人がいて、そこを追い払われた原住民がまわりにいて、そのまた向こうの景勝地に白人が住んでいるわけです。それが面白いなと思いました。白人はそもそもハワイヘ来たときは、「おまえらに文明を教えてやる」と言ったのです。その文明の力で略奪をした。ところが今は、略奪をした相手のさらに奥へ住んで自然に親しむ生活をするとは皮肉な話です。







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