日ロ関係の根本とは何か
日本の姿勢は友好親善、平和が第一。これは良いことですけれども、その後に出てくるのが経済的利益第一なのです。ですから正義とか、人道とか、日本国の名誉とか、そういうのはどこかへ行ってしまう。
交渉の態度はいつも、誠心誠意は天に通ずるとか、虚心坦懐で臨む、腹を割って話すとかですが、天に通じても相手に通じません(笑)。相手に通じなくても自分さえ潔ければいいと思っていて、相手を研究していないから全部空ぶりとなってしまいます。
だから国民がもうちょっとしっかりしないといけないわけですが、国民は信念を持った平和主義と洗脳された平和主義が半分ずつのようです。「たとえ騙されていても自分は平和でいく」という信念の人と、「平和日本で誠心誠意にやっていればそれは天に通ずる、相手だってそんなに悪い国ではない」と洗脳されている人。信念を持った平和主義の人はお人好しで、騙された平和主義の人は間抜けです(笑)。どちらにしろ、もっと本当のことを見なさいと言いたいのです。
日本とロシアの関係を手っ取り早く言ってしまえば、向こうは略奪主義の根が深い。それから交渉、協約はムダ。援助もムダ。向こうは力の信奉者です。それでは日本が持っている力は何か。日米安保だけ。というようなとき、日本はロシアとの関係でどんな利益を追求しますか?
具体的に考えると、水産業はたった三五〇億円の水揚げ高。こんなものはなくても良いではないかと思います。北方の水揚げは、韓国の漁船にとらせている。ロシア人は自分は働きません。韓国の漁船はそれを日本に売るしかない。今は自国へ持って帰ってかなり食べるようになりました。
つまり、北方領土はどちらへ帰属してようと、日本は金さえ出せばカニでもエビでも何でも食べられるということです。
感情的に「北方領土返還は国民の悲願だ」と言っているが、私はそれも疑わしく思っています。もともとは右翼が霞が関周辺にペタペタ貼ったビラの文句でした。それをまに受けて、自分が実現すれば手柄になると思う政治家がいるので困ります。
北海道へ行きますと、「要らない」と言う道庁の人がたくさんいます。むしろ、「返ってきてほしくない」と言う。なぜかと聞くと、あそこには村が四つあり、返ってくるとそこに道庁の出先ができる。「赴任するのが嫌だ」と言っていました(笑)。そんなものです。
鈴木宗男さんの時にディーゼル・エンジンの自家発電を寄付したが、燃料までは約束していないので最近は困っているそうです。文明生活の味を教えて、それから困らせるというのは国際外交のイロハですが、期せずしてそういう効果が上がっています。
略奪主義の本性へと戻るロシア
未利用資源の開発輸入も、これは“開発輸入”だから面倒なのです。こちらがわざわざ行って、設備投資をして、開発してようやく持って帰れるのです。
それから観光資源があると言いますが、豊かな自然といっても、現実は要するにやたら広いだけ。ホテルを建てなさいと言いますが、役人がいないところがあったら建てましょうという話は前回いたしました。役人が一番怖い。
それからロシア人が北海道の町へ来ると、市内で略奪をして歩きます。ただし略奪と思っていないのです。家の外に置いてあるものは、とっていいのですから。それで一番とられたのはタイヤです。自動車の横に古タイヤを積んでおくと、みんなとられてしまいます。シベリアはタイヤ本位制です(笑)。
さて、最後にふと思いつくことを言えば、レーニンとスターリンがやったことは結局プーチンもやるのではないかという仮説です。
サハリンに二〇年前と二年前に行ったとき、たしかにものすごい変化がありました。私の印象に残るのは、ピカピカの駆逐艦五隻が港にとまっていたことと、軍事博物館をピカピカに新装していたことです。これがすべての根源で、日本からの中古車とか、カニとか、いろいろなうまい話は、みんなこの駆逐艦五隻から生まれたのだと彼らは思っているのです。
というのは、二〇年前は駆逐艦がいなかったからです。本当に寂しいサハリンだったのですが、今行きますと、町には日本の中古車というか新車があふれている。他方、日本の古い工場は古いまま、壊れたような機械を修繕もせず無理やり動かしています。社会資本はちょっと道路を舗装しただけです。停電がなくなっていましたから、発電所はよくしたのでしょう。
町には中国の雑貨があふれています。これらはカニ貿易のせいでしょう。カニ貿易というのは正確には貿易ではなく、日本の漁船を捕まえて取り上げてしまうのです。それから朝鮮人の船も捕まえて、船員は牢屋へ入れ、罰金を取って、積荷のカニは稚内へ持っていって日本人に売りつける。
そのための設備投資が駆逐艦です。
なるほど略奪主義の本性へと戻っているな、という思い出話でちょうど時間になりました。
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