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第78回 資本主義は、略奪主義へ戻る
PART4
(二〇〇三年三月十八日)
略奪主義がむき出しにはならなかった日本の歴史
 略奪主義の話を続けます。
 略奪の歴史とか実例は、世界中どこにでも山ほどあるのです。日本にもあります。しかし、それが比較的むき出しにはならなかった歴史です。戦国時代が少しそうでしたが、徳川時代になるとまた穏健になります。明治、大正、昭和前半はイギリス、アメリカ、ロシアに半強制されて、自存自衛のためにやりました。本当にそう思います。その証拠に、戦争に負けて「もう戦わなくてもいい、日米安保条約を信用せよ」と言われると、たちまち一切やめてしまいました。
 こんなに平和が好きで、豊かになりたければ自分で働く、略奪するのは後味が悪いという国民は珍しい。特に、それで成功してこれだけの経済大国になったという点を加えると、それは日本だけです。
 侵略しない。略奪しない。全部自分で働いて、まだそのうえにODAを配るし、国際貢献と言われたら「何をすればよろしいでしょう」と気をつかう。そんな国民は他にいません。
 それだけの達成には、もっと自信を持つべきだろうと思います。
 国内の生産性がものすごく高いのですね。お互いに争わない。だから無駄がない。内部トラブルコストが世界最小の国を、日本はつくった。アメリカ人を見ていると、働く人はたしかによく働きます。日本人以上に働いている。それなのに日本に負ける。どうして日本はこんなに豊かになるのかというと、やはり内部コストがないからです。ムダな争いをしていない成果だと思います。
 しかも面白いことに、歴史上略奪に味をしめた国はたくさんありますが、結局そういう国は日本より豊かになっていない。日本に負けているではありませんか。
 たまたま今日は、いよいよアメリカとイラクの戦争が始まると、みなさんの話題はそれでもちきりです。では、なぜアメリカはイラクに戦争をしかけるのか。略奪主義ではないのかと、ノドまで出ているが日本人は言いません。フランスが言ってくれないか、などと思っています(笑)。
 それに関連して言えば、ブッシュのお父さんは湾岸戦争のとき、どんどん戦争目的を変えました。息子も同じです。そもそも、何のために戦争をしているのかをあまり言わないし、言ってもどんどん変える。正義、正義と言いますが、戦争目的はまだ変わるだろうと思います。
 世間の人は「石油が目的だろう、その略奪だろう」と思っていますが、それは正しいでしょう。さらにその先を私が続ければ、いずれ結局は「ドル対ユーロの戦いだ」と言うようになるのではないかと思います。
 そして究極の目的はもう一回大統領になることですから、アメリカ中がまとまって自分を応援してくれることを言う。となると、ドル対ユーロの戦いを掲げて、欧州に負けてはいけないというほうへ切りかえていくのではないか。
 では、そこで円はどうするか。円は絶好のチャンスです。国家戦略としてそういうことを考えている人がいないのは残念です。
 
ロシアは変わらず、日本の対応は劣化した
 さて、前回のシベリアの話をもう少し続けます。スラブ人がベーリング海峡を渡って、アラスカへ行き、それから南下してサンフランシスコでイギリスの船とぶつかって、そこでとまった。途中の民族はすべて征服して、支配して、略奪して、自分たちだけ豊かになった。これが一番楽で、そして賢い人のすることであるというわけです。
 しかしサンフランシスコまで来たらイギリスの船がいて、イギリスのほうもまた征服して、支配して、略奪するのがご自慢という国ですから、その両者がぶつかった。ロシアは引き揚げるが、イギリスはさらに追いかけ、オホーツク海にあるペトロパブロフスクという町をイギリス・フランス連合艦隊が砲撃いたします。その町へ行ってみたら、「撃退した」と嬉しそうに書いてありました。
 そのペトロパブロフスクは、今もピカピカの軍艦がたくさん並んでいます。日本人はすぐ工場を建てて働きますが、彼らは軍艦をつくって大砲を撃つ。これが生きる手段であって、別に悪いとも何とも思っていない。日本がそれに対して「経済援助をするから、もうやめなさい」と言うと、「弱いものは貢物を出せ。そうすれば、しばし略奪はやめてやる」と答える。永久にやめるのではないのです。「しばしやめてやるから、その見返りを出せ。弱い者は出すのが当たり前だ」です。
 そういう人たちだということを、日本の外務大臣は知らない、総理大臣も知らない、日本の国会議員も知らない。知っていても身にしみない。
 だから北方領土問題を解決しようとして「一兆円出すぞ」と言った政治家の話を前回しましたが、向こうは「そんなに値打ちがあるのか。では二兆円と吹っかけてやれ」となってしまいます。世界中の人はみんな良い人だと思っているからいけない(笑)。話せばわかるなどと思ってはいけないのです。
 つまり言いたいことは、ロシアは変わらない、それに対する日本の対応は劣化した。徳川時代のほうがよほどきちんとしていたと言いたいのです。幕末は外国人打ち払い令、すなわち「来たら追い払え」です。大砲を撃て、鎖国だ、と。しかし、そうもいかないと思ったときは話し合いで条約をつくります。ところが条約を守るようなロシアではありませんから、たちまち対馬を占領されます。
 そのとき幕末の人はなかなか偉いのです。ロシアの軍艦が来て、対馬の日本人を支配し、占領して動かない。帰れと言っても帰らない。というとき、これをイギリスに頼んで追い払ってもらいます。イギリスの船が来たのを見ると、ロシアは対馬から退却した。つまり「外国利用」という知恵があったのです。
 今は日米安保とかで「外国利用」をしているようでもあるが、主体性がないから、その損得や将来像の見通しがありません。「自主解決」との対比研究がありません。







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