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個別問題ではなく、アメリカ全体の問題
 思い出すのは歌謡曲の歌詞です。最近は違いますが、少し前まで歌謡曲の半分ぐらいは女性がぼやいている歌詞です。男に騙され、捨てられて、しかしあなたを悪い人だと思うことはできない。きっと事情があってのことでしょう、いつか昔に戻りたい。あなたがなくては生きていけない、すがりつく私を無下にしないで。この純情な私のところに戻ってきてください。
 もっともこうした歌は、こういう女性がいればいいなと思って男が喜んで歌っているだけです。女性の目はもっと醒めていますから、最近のように若い女性がCDの大きなマーケットになってくると、そんな歌詞では売れません(笑)。
 そこで年配者は「最近はロクな歌がない」とぼやいていますが、それはともかく日本人の物の考え方は、一昔前の歌謡曲に出てくる女性とそっくりです。だからアメリカからひどい目に遭わされても、民主主義とフェアプレーの国なのだから、日本がきちんとしていればアメリカもいつかは元に戻るはず、それまでの辛抱で、尽くして尽くして尽くしましょう、といった調子です。しかし、これは世界に通用しない日本人の心なんですね。
 その上アメリカで勉強してハクをつけ、アメリカの学問・思想を日本へ移転すると儲かるという人たちが増えてきました。そのような人は、本家を悪く言えません。あちらは貴いのだと、本人は大真面目なのですが、結局はこれも歌謡曲の歌詞と一緒です。学問にも思想にも理論にも、そういう自覚のない業者みたいな人がいつの間にかたくさん増えてしまいました。
 これだけアメリカから馬鹿にされて、ひどい目に遭わされたという事実は、日本語で書いた本も山ほどあるし、自分の商売でも経験しているのに、それでも目が覚めないのはなぜでしょうか? 「今回はきっと個別問題で、アメリカ全体は違うのだ」と思っているのでしょう。
 しかしあえて「そうではない。アメリカ全体がそういう国だ。有色人種と見れば、どんな悪いことをしてでも、しゃぶってしまえばいいと思っているのだ。純情可憐な人を騙したって、それは自己責任、騙されたヤツが悪い。賢い人は、騙すのが商売である。人類の歴史は何千年間そうなっているのだから、特に自分が悪いわけではない。これからもボーッとしている人がいれば、同じことを続ける」。彼らはそういう存在だ、と私は主張してみたいと思います。というのは、そういう意見はほとんど聞こえてこないし、日本では「言ってはいけない」という麗しい自主規制があるからです。
 だから、少しぐらいは「悪いのはアメリカ全体、あるいは資本主義本体がそもそもそうである」と言う人がいなければならないでしょう。
 
資本主義のルーツは略奪主義
 歴史を振り返ってみれば、そういう意見になるのです。資本主義が誕生する前は、どういう「主義」で人間は生きていたのか。そして、資本主義はどこから誕生してきたのか。
 すると、それは略奪主義だったということに気がつきます。むしろ日本は違う珍しい国なのです。日本だって、うんとさかのぼれば略奪主義のときがあったのでしょう。しかし略奪主義をやめるのが欧米より一〇〇〇年ぐらい早かった。だから日本人は忘れてしまった。向こうはまだ現在進行中ですから、日本人の暮らし方を見ると不思議でしようがない。それで「日本は遅れている、立ち上がって戦え」と、自分が勝つ自信があるときはそう言います。
 アメリカの映画を見ているとわかりますが、立ち上がったら殴っていいのです。負けましたと言って寝ころんでいると、それを蹴ったり殴ったりしてはフェアプレーではない。立ち上がってきたら、また殴る。もう一回殴りたいから「早く立て、早く立て」と、それが彼らのフェアプレーです。
 彼らの周りにいる国は、立ったら殴られますから、立たないで暮らそうという知恵が身につきます。日本にもその面があります。しかもそれをやってけっこう成功している。殴られても、なぜか復活し、経済的には勝ってしまう。
 それで、アメリカは日本を気持ちの悪い国だと思うわけです。注文したことは全部やる、立ち上がらない。しかし面白いことに、それでも日本はつぶれない。これだけ絞り上げたら貧乏になるかと思ったら、また金持ちになってくる。別の手でまた勝つわけです。そこが日本の底力ですね。詳しく話すと日本経済発達史になりますから、またの機会に譲りますが。
 
ローマの始まりはサビーニ族からの女性略奪
 さて、思い出すのはローマです。ヨーロッパの人は「自分たちの文明・文化の源はローマにある。我々はローマの影響を受けているから文明人である。ラテン語を知っているから文化人で、知能程度が高いのである。ラテン語の本を読むと、良いことはみんなそこに書いてある。我々は、それができる。それができないインド人や中国人は皆、野蛮人である。文明・文化以前の人たちである」という感覚です。
 彼らの勉強とはラテン語から始まり、ローマ自慢で、ローマの話を常識としてみんな知っているわけです。そこで出てくるのがローマ建国の物語です。
 ローマは、紀元前七五三年にロムルスという十八歳の少年が率いてつくった国です。ラテン人が北部イタリアのあたりに住んでいて、その中から三〇〇〇人が、共同体の生活は窮屈だ、南のほうに発展しようと突然南下した。
 それは、みんな「はぐれ者」の若い男ばかりだったらしい。ロムルスが人物、力量にすぐれていたので、選ばれてリーダーになり、南へ来てテヴェレ川の河口に住みついた。河口は土地は豊かですから、まじめに農業をすると強い国が生まれます。
 三〇〇〇人の若い男が住みつきまして、一段落するとやはり女性がいないと民族にならない。見渡すと、向こうの丘の上にサビーニ族が住んでいて、なかなか美人が多いので、お祭りをするからと言って招待しました。当時のイタリア半島は言ってみれば戦国時代ですが、お祭りのときだけは戦争しないという慣習を悪用したのです。宴たけなわのとき、一斉に襲いかかり若い娘を奪ってしまいます。サビーニ族からの略奪です。ヨーロッパの美術館へ行くと、ときどきそういう絵がありますね。「サビーニの娘たち」という題がついています。
 今でも結婚式を済ませて、二人がいよいよスイートホームに帰ってきたとき、奥さんを抱き上げて新居の敷居をまたぐという習慣が欧米にはあります。これは、その略奪以降ローマ人がずっと行なってきた習慣の名残だそうです。女性というのは略奪してくるもので、それだけの腕力がなければいけないというわけです。なるほどヨーロッパの女性はお尻が大きくて、体重がかなりあります。
 サビーニ族の女性を略奪することからローマという国は始まるのです。ローマの始まりは略奪だということに注意してください。







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