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表紙説明
名詩の周辺
獄中の作、逸題(橋本左内)
福井・福井市左内町
 橋本左内は、幕末の福井藩士で洋学者。名は綱紀。左内は通称です。また景岳とも号しました。左内は天保五年三月十一日、城下の常盤町に藩医の長男として生まれ七歳の時、漢籍、詩文を学び、十歳ではすでに「三国志」に通じていたといわれています。十二歳の時、漢学の勉強を続けるかたわら、医学所(済世館)に入って漢法医を学び、翌年には早くも、父の診察、手術の補佐をするほどまでに成長しました。
 嘉永元年、十五歳で不朽の名文といわれる「啓発録」を書き、五条からなる「稚心を去る」「気を振う」「志を立てる」「学を勉める」「交友を撰ぶ」についてその考えを述べています。現在、「啓発録」は宮中の御物として保存され、福井県内の中学では、この「啓発録」にちなみ、新春に、十五歳になった二年生を中心に「立志式」を行なうところが現在でも少なくありません。
 左内は十六歳の時、大阪の緒方洪庵の「適塾」に入って蘭学、西洋学を学び、二十歳で江戸に出て、蘭学や漢学をさらに深めました。その後いったん帰国し、藩医となりますが、同時に御書院番にも抜擢され、安政二年末、学校制度調査のため再び江戸に赴き、このころから水戸の藤田東湖、薩摩の西郷隆盛等と接し、化学、兵学にも関心を広げます。
 二十四歳の時、藩主松平春嶽の侍読兼御用掛となり、春嶽の手足・頭脳となって動き始め、本格的に国事に奔走します。しかし、安政五年「安政の大獄」で春嶽は失脚、左内も幽囚の身となり、翌年斬首の刑に処せられました。
 左内は、幕末、風雲急を告げる中、幕吏に追われながらも、自ら信ずるところを貫こうとその強い信念を多くの詩や書に残しています。
 (左内公園=JR北陸本線福井駅よりバス約5分、バス停左内公園下車)
 
取材――株式会社 サークオン
 
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水六訓
一、あらゆる生物に生命力を与えるは水なり。
 
一、常に自己の進路を求めてやまざるは水なり。
 
一、如何なる障害をも克服する勇猛心と、よく方円の器に従う和合性とを兼ね備えるは水なり。
 
一、自から清く他の汚れを洗い清濁併せ容るの量あるは水なり。
 
一、動力となり光となり、生産と生活に無限の奉仕を行い何等報いを求めざるは水なり。
 
一、大洋を充し、発しては蒸気となり、雲となり、雨となり、雪と変じ、霰と化してもその性を失わざるは水なり。
 
 水を心とすることが平和と健康と長寿の妙薬であります。
 
笹川良一
 
明日への提言
WHOハンセン病制圧特別大使として
募金活動を支援される
笹川陽平日本財団理事長
河田和良
 
 
 財団法人日本吟剣詩舞振興会創始会長・笹川良一先生は、日本財団(財団法人日本船舶振興会)創設以来、ハンセン病患者を救済する仕事を精力的に実践してこられました。そのご遺志を継がれて、ご子息の笹川陽平氏(日本財団理事長)がハンセン病の根絶を目指して、WHO(世界保健機関)ハンセン病制圧特別大使に任命されて現在活動しておられます。
 私ども財団法人日本吟剣詩舞振興会も昭和六十年代始めより財団二代会長笹川鎮江先生のご指導のもと、この運動を支援しておりました。昭和六十一年十二月に東京で開かれた第一回少壮吟士吟詠チャリティーが「ハンセン病根絶活動笹川基金協賛」公演として行なわれたこと、それがのちにエイズ根絶活動笹川基金協賛公演、及び財団の吟剣詩舞青少年育成基金協賛公演へと移行してきたことは記憶に新しいところであります。
 幸いハンセン病は治療法が開発され、今では治る病気となりました。しかし、世界に目を向ければ、インド、ブラジル、ネパールなど、その根絶はまだ程遠く、特に回復者とその家族の方々が、社会的な権利を充分認められず、いわれのない差別に苦しんでいることを改めて知ることになりました。
 本誌次号に笹川陽平氏のハンセン病根絶を目指しての特別手記、並びに募金活動のご案内を掲載いたします。当財団としても、この募金活動を支援したいと考えておりますので、ご協力のほどお願い申し上げます。
 
●平成十五年九月十四日(日)
●笹川記念会館・国際ホール
 
 
レベルの高さを証明した愛知県勢
詩心の理解と表現が大切と講評
 剣詩舞コンクールの頂点に位置する、財団主催の全国剣詩舞コンクール決勝大会が本年度も笹川記念会館で盛大に開催されました。厳しい地方予選を勝ち抜いてきた総勢百二十九名の剣詩舞道家が、日頃の精進の成果を発揮したその舞台は、見る者を惹きつけて止みませんでした。
 
財団を代表して挨拶する河田和良会長
 
 鈴木吟亮専務理事の開会の辞で始まった、平成十五年度全国剣詩舞コンクール決勝大会は、国歌斉唱、財団会詩合吟と続き、河田和良大会会長が財団を代表して挨拶されました。会長は競演者にエールを贈るとともに、決勝大会に恥じないようなすばらしい舞台を見せてほしい旨を話されました。その後、大会実施要項の説明や審査員が紹介されると、決勝大会の幕が切って落とされました。
 全国各地の予選を勝ち抜いてきた百二十九名の剣詩舞道家が火花を散らすその競演は、午前が剣舞と詩舞の幼年・少年・青年の部でした。ここ数年、剣詩舞の躍進は目覚ましいものがあり、今年も質の高い舞台が期待されましたが、その期待を裏切らない素晴らしい演舞が次々と披露されました。
 剣舞幼年の部では、愛知の神尾龍くんが吟題「豪雄義経」を見事に演じ優勝しました。少年の部では愛知の長坂理絵さんが「豪雄義経」を華麗に舞って優勝。青年の部でも愛知の伊藤明さんが「偶成」を優れた舞で優勝を果たしました。愛知勢が優勝を占める結果となり、剣舞に強い愛知を強く印象づけました。
 
剣舞幼年の部優勝者、神尾龍くん、河田大会会長から会長賞優勝トロフィーを受ける
 
剣舞少年の部で優勝した長坂理絵さんは、田口實凰実行委員からNHK杯を受ける
 
 詩舞幼年の部では、愛知の服部怜海さんが「胡隠君を尋ぬ」を子どもらしい素直な舞で優勝しました。少年の部は愛知の尾嶋美紀さんが「胡隠君を尋ぬ」を立派に演じきって優勝。青年の部は愛知の岡本菜穂子さんが、「西宮秋怨」を熱演して優勝しました。
 皆さんこの日を目指して精進してきたのでしょう、誰もが立派に堂々と自信を持って舞っており、見る者に深い感動をあたえてくれました。
 午後は剣舞と詩舞の一般一部と一般二部が行なわれました。この部はベテランらしい円熟した舞を見ることができました。剣舞一般一部は大阪の中瀬古眞一郎さんが「偶成」を演じて優勝。二部は愛知の小久保恵子さんが「和歌・もののふの」を華麗に演じて優勝しました。
 詩舞一般一部は三重の美濃部浩一郎さんが「芳野に遊ぶ」で優勝し、二部は兵庫の藤本ヒロミさんが「平泉懐古」で優勝を果たしました。一般の部はさすがと思わせる演技が多く、目の離せない舞台でした。
 
大会役員が壇上に揃い、審査結果を発表する入倉昭星総合審査委員長
 
剣舞一般一部で優勝した中瀬古眞一郎さんの演技
 
詩舞一般二部で優勝した藤本ヒロミさんの演技
 
 すべての競吟が終了すると、石川健次郎総合審査委員による講評が行なわれました。講評を要約すると次のようでした。
●作品の表面、まだ詩文だけで演技する傾向が強い
●作品の詩心を理解した表現技法が大切
●漢詩、和歌の内容を深く理解してほしい
●財団の機関誌月刊「吟剣詩舞」に勉強になる記事や写真が掲載されているのでよく参考にしてほしい
●作品を細かく深く掘り下げてほしい
 など、いろいろな注意点が指摘され、演技者だけではなく、会場に訪れた剣詩舞愛好家の人たちも真剣に聞き入っていました。
 そして、入倉昭星総合審査委員長から剣舞と詩舞の一般一部・二部の優勝者、入賞者が発表されると、舞台は入償者表彰式へと移りました。
 表彰式では河田和良大会会長が一人ひとりに賞状を渡すとき、演技者の顔から緊張感が薄れ、笑顔がこぼれていました。そして、工藤龍堂実行委員が閉会の辞で平成十五年度全国剣詩舞コンクール決勝大会を締めくくると、大会も成功裏に無事終了しました。多くの剣詩舞道家が目指す厳しいコンクール、それだけに挑戦する人は終わったこの日から鍛錬、精進に励むことでしょう。
 
平成十五年度
全国剣詩舞コンクール決勝大会
入賞者一覧
〔(文)は文部科学大臣奨励賞〕
【剣舞】
●幼年の部
優勝(文) 神尾 龍(愛知)
二位 間野紗智子(岡山)
三位 野中政利(栃木)
●少年の部
優勝(文) 長坂理絵(愛知)
二位 鈴木祥隆(愛知)
三位 吉田啓司(岡山)
四位 浦野佳奈(兵庫)
五位 藤野 綾(福岡)
●青年の部
優勝 伊藤 明(愛知)
二位 伊藤 武(愛知)
三位 坂井瑠里(岡山)
四位 藤野 舞(福岡)
五位 遠藤聡司(愛知)
●一般一部
優勝 中瀬古眞一郎(大阪)
二位 西原 香(兵庫)
三位 森下裕紹(愛知)
四位 藤野代志乃(福岡)
五位 永岡美智子(岡山)
●一般二部
優勝(文) 小久保恵子(愛知)
二位 玉田朝子(兵庫)
三位 根岸良治(東京)
四位 渡辺敦子(愛知)
五位 石井光男(東京)
【詩舞】
●幼年の部
優勝 服部怜海(愛知)
二位 野澤美裕(東京)
三位 山本純子(大分)
●少年の部
優勝 尾嶋美紀(愛知)
二位 高岡美恵(岡山)
三位 田辺 文(兵庫)
四位 松本典子(愛知)
五位 三宅絢子(岡山)
六位 浅川笑乃(山梨)
七位 原田恵実(神奈川)
●青年の部
優勝(文) 岡本菜穂子(愛知)
二位 伊藤修司(愛知)
三位 佐治亜有子(京都)
四位 梶原いずみ(岡山)
五位 釘宮芳江(大分)
六位 上岡治生(三重)
七位 多田幸世(大阪)
●一般一部
優勝(文) 美濃部浩一郁(三重)
二位 増田真理(大阪)
三位 佐々木まなみ(京都)
四位 木村照代(福岡)
五位 奥田悦代(岡山)
六位 西川ひろ子(京都)
七位 菅原かよ(東京)
●一般二部
優勝 藤本ヒロミ(兵庫)
二位 笹野和子(兵庫)
三位 寺尾恵子(兵庫)
四位 井本明美(岡山)
五位 安部敬子(愛知)
六位 今和泉靜子(広島)
七位 安東敏子(愛媛)
 
優勝者の喜びの声
「剣舞」
●幼年の部 神尾龍くん/「優勝できたのでうれしいです。先生に言われたとおりにできたと思います。特に最後のポーズを決められたのが良かったです。お母さんが一番喜んでくれると思います」
●少年の部 長坂理絵さん/「自分の力を出し切ってなかったので、優勝は無理かなと思っていました。ミスが少なかったのが良かったと思います。両親も喜んでくれて優勝できて良かったと思います」
●青年の部 伊藤明さん/「やっと優勝できたという感じです。四回目の挑戦で優勝できました。抑えめに踊ったのが良かったと思います。弟も準優勝できて本当に嬉しいです」
●一般一部 中瀬古眞一郎さん/「まずうれしいの一言です。実は平成十二年度に二部を優勝しておりまして、今回はルールの改正で一部に出戻っての優勝なのです。このケースは私が最初で最後でしょうね。それだけに本当にうれしいです」
●一般二部 小久保恵子さん/「練習どおりにできなくて入賞もダメだろうと諦めていましたので、優勝と聞いて驚いています。ご指導、応援してくださった先生方にお礼申し上げます」
「詩舞」
●幼年の部 服部怜海さん/「信じられないというか、夢みたいな気持ちです。全国決勝大会は二回目です。去年は準優勝でしたから。本当に嬉しいです。一緒にきたお婆ちゃんが一番喜んでいます」
●少年の部 尾嶋美紀さん/「名前を呼ばれたときには、本当にびっくりしました。気をつけたことは扇子を落とさないことでした。家族からいつもどおりに踊りなさいといわれました。本当に嬉しいです」
●青年の部 岡本菜穂子さん/「まだぴんとこないというのが、素直な気持ちです。なにしろ全国決勝大会は今回が初めてですから。今日は自分なりに落ち着いて踊れたことが、良い結果につながったと思います」
●一般一部 美濃部浩一郎さん/「夢をみているような気持ちです。踊りの最中に扇のさばきをちょっと間違いましたが、そのあと慎重に踊れたことが、良い結果につながったと思います。すこし休みたいです」
●一般二部 藤本ヒロミさん/「うれしいの一言に尽きます。全国決勝大会は三位二位ときてましたので今回の優勝ですから。指導して頂いた先生になんとか恩返ししたいと思っていたので、本当に嬉しいです」







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