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吟詠・発声の要点 ■第二十三回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
 
2. 各論
(4)発音=7
子音(その一)
 日本語の母音は前に見たようにアイウエオの五種類だが、子音の種類となるとカナ文字五十音表のカ行以降に加え、濁音、半濁音・・・など、かなりの数にのぼります。ふだん私たちが話す会話では母音と子音が混ざり合っていて、特に子音の存在を意識しなくても用が足りています。しかし吟詠で日本語を美しく発音するとなると、子音の中身を少し細かく調べ、神経を使って発音する必要がありそうなのです。
 
なぜ子音の発音が大事なのか
 子音の観察を始めるにあたって、最初に一つ問題点を指摘しておく。監修者が皆さんの吟詠を聴いて感じるのは、総じて子音の発音が上手でないということ。言い換えれば子音と母音の発音の区別が明瞭でないから、子音が綺麗に聞こえない。後で詳しく記すが、子音の最初にある障害音(部分的には父音(ふいん)=あとで説明)を発音したままの口形で、あとの母音(生み字の母音)を伸ばしても、きれいに響く発音とはならない。特に強い調子の吟詠では息が余る状態となり、声が濁ってしまう。これを治すには、父音を発音したあとの口形を、母音の位置まで正しく辺さねばならない。この辺から考えてみよう。
 子音、例えば「サ」という発音はどんな部分(音素(おんそ))から成り立っているのか、ということを少し細かく観た上で、その内のどこを改めればはっきりとした発音になるか、といった順序を踏まねばならない。余談だが、吟詠の芸術価値を高めるには、基礎的な細かい点で、しっかりした裏づけが必要になるので、多少理屈っぽくなるが、理解していただきたい。
 子音の発音でもう一つの問題は「サア〜」と伸ばした「ア」の(生み字の)母音が「引き音」にならないように気をつけること。話し言葉で「さくら(SAKURA)」と言うとき、父音のS、K、Rは口から前へ出すように発音するが、後に続くA、U、Aの部分は口の中へ引く感じになってしまう。吟詠の場合はこの母音の部分も、意識してはっきりと前へ出さなくてはいけない。
 
子音を組み立てている音素
父音と生み字の母音の関係
 
 「サ〜」の発音を、少しゆっくりと声を出して試してみよう。最初は(カナで表すと正確ではないが)「スア〜」と先ず「ス」の、息だけで声にならない部分の音(声帯の振動を伴わない音で、無声音という)から始まる。これを発音記号では「s」で表し、また「サ」をローマ字で書く「SA」の「S」とも共通する(ローマ字表示については文末*参照)。この「s」にあたる音を“父音”と言い、それに続く「ア〜」の部分を、母音に返った音、生み字の母音と言う。
 母音と子音の違いは前にも記したように、母音は声が何にも邪魔されずに素直な音のまま出てくるが、子音は声帯から唇までの間の、どこかが閉ざされたり、狭められたりした障害物を経て出てくる音である。その障害の場所や突破の仕方を表しているのが「s」など一連の記号であり、音としては(子音の中の)父音と呼ぶ。
 ここまでくると、先の問題解決が飲み込めてくるのではないか。
 子音は先の説明で分かるとおり、障害物にぶつかったり、突破したときの音、言い換えれば雑音に近く、これだけでは声帯が震える“声”とはならない。しかし発音を特色づけ、また言葉としての意味を伝える上では大事な役割を持っていて、特に吟詠では話し言葉以上に父音を大切に(例=「サ」のときの「s」を「ss」と念を押すように)発音すると、意味が聴き手によく伝わる。
 問題はその後のことである。父音をはっきりと発音したあと、すぐに何にも邪魔されない(生み字の)母音に戻すことが肝心である。この講座の十八回〜二十一回で勉強した五つの母音それぞれの最も素直でよく響く発音の仕方を思い出し、なるべく自然に父音から母音につなげなければならない。
 次回から見るように、子音の種類は多い。どの場合もこのことばを念頭に置いて、父音のあとの母音が口内のよい響きを保っているかどうか、また母音が外へ響いているかどうか、実際に発音、発声しながら進めていただきたい。
(*)発音記号とローマ字表示について
 英語、フランス語などに発音記号があることはよく知られているが、日本語にも発音記号がある。ローマ字と同じかと思われるかもしれないが、両方の間にはかなりの違いがある。【表】は「訓令式」という表示法に基づいたローマ字の五十音表。右列の「a、i、u、e、o」という母音に、二列目以下、父音の「k、s、t、n、h、m、y、r、w」を組み合わせてできていて、合理的で分かりやすい。
 
訓令弐ローマ字五十音表
wa ra ya ma ha na ta sa ka a
(i) ri (i) mi hi ni ti si ki i
(u) ru yu mu hu nu tu su ku u
(e) re (e) me he ne te se ke e
(o) ro yo mo ho no to so ko o
 
訂正=前回の本欄に2カ所の間違いがありました。10ページ下段『(1)疑問を示す「か?」「や?」のに』は『・・・のに』。11ページ下段5行目『それぞれがイヤ、イ』は『・・・イヤ、イ』と訂正いたします。
 
 
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