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新進少壮吟士大いに語る
第七回
大伊達不朽さん=愛知県新城市在住
(不朽流吟詠会)第二十期少壮吟士
前山紫峰さん=石川県珠洲市在住
(吟道紫虹流)第二十一期少壮吟士
 
己を知ることが、吟詠上達の道
 少壮吟士として円熟味を増し、中堅的存在になってきた大伊達不朽さんと前山紫峰さんのお二人に、吟詠のことや読者へのアドバイスなどをお聞きし、貴重なお話をうかがうことができました。
 
――少壮吟士になられたのは何年ごろですか?
大伊達「平成九年です。少壮吟士になるまでに、十五年ほどかかりました(笑)。とくに一回目を通過するのに時間がかかりましたね。また、私自身、コンクールを通過すると思っていませんでしたし、入賞できなかったときは、家族や友人が、もう止めた方がいいと言ったほどです」(笑)
――いま振り返って何が原因だったと思いますか?
大伊達「プレッシャーといいますか、本番に弱いタイプで(笑)、普段の力を発揮することができませんでした。プレッシャーを感じると言うことは、吟に没頭できないということで、失敗も多くありました。ただ、私にとってコンクールは少壮吟士のコンクールしかなく、勉強のために落ちても落ちても受け続けました」
 
財団本部入口前で。左/大伊達不朽さん、右/前山紫峰さん
 
――前山さんはいかがでしょうか?
前山「平成十一年です。私はラッキーだったのでしょう、少壮吟士になるまでに五年ほどでした。一回目は何が何だかわからず、そのぶん気負いもなく受けましたが、逆にそれが良かったのか、通ることができました」
――コンクールを受ける中で苦労された点や練習した点はありますか?
前山「全国大会ではどうしても気後れしてしまいますから(笑)、本番までは人の吟を聞かないといいますか、自分のペースを崩さず、練習してきたことを本番で出すように心がけました。練習した点は少壮吟士の方の発声法で、一般の人とは違う、生きた言葉を声で表現するとでも言いましょうか、たいへん素晴らしいものです」
大伊達「以前から少壮吟士の先生方の吟は素晴らしいと思っていましたから、毎日、先生方のテープを朝晩にわたって聴いていました。先生方の吟は説得力があるので、何回聴いても引き込まれてしまいますし、それを目標に置いて練習してきました」
――少壮吟士を受けている、あるいは受けようという人へのアドバイスはありますか?
大伊達「なかなか入賞しなかったときは、自分の吟を客観的に聴く余裕がなかったと思います。それが少し経ち、自分が発する声を客観的に聴くことができるようになりました。つまり、それだけ余裕がもてるようになったということです。自分の吟を客観的に聴くということが大事なことではないでしょうか。どなたにも、吟じることで精一杯、どのように声を出したかもわからないという時期があると思うのですが、少壮吟士を受けられる方などは自分の発する声を客観的に聴き、例えばアクセントや抑揚など、悪い点があれば客観的な立場で直していく、そういうことができればいいと思います」
 
大伊達不朽さん
 
――自分を客観的に見るのは難しいことですね?
大伊達「確かに難しいことだとは思いますが」(笑)
――前山さんはいかがですか?
前山「まず自分を知ることでしょうね。自分の欠点は何だろう、良い点は何だろう、ということを見つけることです。たまに力があるのにコンクールで入賞できない人がいますが、そういう方は吟じているのではなく、うたっているのですね。聴いていると綺麗なのですが、吟じるとは言葉を言った後に節回しが出てくるものであって、うたうとは言葉の中にメロディーが入ってしまうのではないかと自分では思っています。アドバイスとしては自分を見つめ、言葉を大切にし、うたうのではなく吟じる練習をしていただきたいと思います」
大伊達「この世界に入って礼と節を学びました。私はこのたび私どもの不朽流の五代目宗家を襲名させていただきましたが、そうなれたのも財団の礼と節と言う基本姿勢が私自身の人格を養っていただいたことに繋がっていると思います。みなさまも自信をもって礼と節を守りながらお稽古していただけたら、素晴らしい道が開けるものと思っております」
前山「コンクールを受けられる方は努力しかないと思います。努力の中でも、がむしゃらにやることも大事ですが、自分の流派以外の先生方が審査員としておられるので、その先生方にどれだけ評価していただけるかも重要になります。技法的なことよりも精神的なこと、いわゆる先生方と勝負するつもりで臨むことも必要ではないでしょうか。そういう舞台を踏むためにも日ごろの練習が何よりも大切です」
――ではご自分の良い点、悪い点は何ですか?
前山「自分の場合、良いのか悪いのか、声にフィルターがかかったようになっているので(笑)、力強い吟には向いていないと感じています。いまは柔らかい吟、詩情豊かな吟に向いているのかなと思っていますので、声の出し方など、これからどのように詩情豊かな吟を上手に吟じられるか考えています」
大伊達「少壮吟士も定年制が導入され、先生方も一人減り二人減りという現状です。その先生方の吟は一節聴くと、この吟はどなたのだとわかる吟でした。私も先生方のような個性のある吟を目指したいと思っています。とくに女性の吟には個性がなくなってきたように感じています。個性というのは出しても良いものだと思いますので、これが大伊達不朽の吟だというものを目指したいと思いますし、それを私の良い点にしたいと考えています」
――少壮吟士になられて五、六年になりますが、いかがですか?
前山「二、三年ぐらいまではプレッシャーで潰されそうでした。少壮吟士ということで、素晴らしい吟をしなければという重圧を自分で自分にかけていました。それで吟も崩れはじめ、やって行けるのだろうかという所まで追い込まれました。そんな時、少壮吟士の先輩方から、自分は自分なのだから、何も気取ることなく自分のできる吟をしなさいと言われ、それで吹っ切れ、現在に至っています」
大伊達「一吟一吟の重さと言いますか、これが少壮吟士の吟かと言われることは、少壮吟士の諸先生方の名前すら汚すような気持ちで、本当に一吟の責任を感じるようになりました。また、少壮吟士になると、いろいろなところから呼ばれる機会も多くなり、お稽古不足になりがちでした。それこそ深夜にしかお稽古できない状態になったときもありましたが、重い看板を背負っていますので、それを汚さないように吟じるのは大変ですが、少壮吟士と言う立場で、これからもがんばっていきたいと思っております」
――練習の内容や仕方も変わりましたか?
前山「研修会で教えていただいたことや、また研修会にこられた全国の先生方から詩吟の考え方、詩心の捉え方などを教えていただき、それを練習に反映するようにしています」
 
前山紫峰さん
 
大伊達「少しでも多く吟じ込んで、言葉の表現を大切に練習しています。言葉を大切にすることは、吟に説得力が生まれますし、先ほど出ましたけれど、言葉をうたうのではなく、吟詠は言葉を伝えるものですから、そのため読み下し、詩句を大切にし、また詩情を出すことに注力して練習に励んでいます」
――最後になりますが、お二人の今後の抱負をお聞かせください?
大伊達「私もだんだん歳をとってまいりまして(笑)、健康面で声の衰えも出てくるとは思いますが、自分の健康状態も考えながら、詩吟をしていきたいと思っています。また、一昨年あたりから地元で初心者講座というのを始めました。初心者の方に詩吟の魅力を感じていただき、お仲間になってもらうためのものです。詩吟を広めるためにも続けていこうと思っております。今年は、たまたま高校の生徒さんに聴いてもらう機会がありましたが、若い人に詩吟を知らせるということで、そうした機会もこれから増やしたいと考えております」
前山「若者の邦楽離れということで、どの分野も若人がいない状態ですが、詩吟に関しても若い人が入る機会を作ることができずにいますが、その機会を作るのが自分だと思っています。そして、若い人へ詩吟を伝えていかなければならないと思います。大変なことですが、詩吟の将来を考えたら、やらなければならない重要な課題だと考えています」
――本日は貴重なお話をありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。







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