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吟詠・発声の要点 ◎第十八回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
2. 各論
(4)発音=2
五つの母音について
 言葉の音は母音と子音に大別されることは、前回記しました。初めは母音について少し細かく観察してみます。私たちがふだん無意識に交わしている話し言葉を丁寧に、そして音楽として、さらに美しく育てるつもりで勉強してください。
 
母音を性格づける三つの要素
 
 日本語の母音は「ア、イ、ウ、エ、オ」の五種類に分けられる。これらは皆声帯で作られた元の音がノド、口、歯などに邪魔されず、そのまま出てくるので、無障害音とも呼ばれる。実際にはこの五つの母音の中間に位置するような、どちらとも決められない音が無数にあるのだが、先ずは五母音の標準的な発音を覚えなければならない。いくら話し言葉で慣れているからといっても、詩文をより正確で、より解りやすく、しかも音楽性豊かに詠うためには、自分の発音をもう一度チェックしてみる必要がある。
【表1】母音の種類と口の変化
 
口の形 楕円 小円
口の開き
舌の高さ(前部) 最高    
舌の高さ(後部)     最低
咽頭の位置 最高 最低
(平凡社「音楽大辞典」を参考に作成)
 
 五音それぞれの個性はどこで作られるのか。第一は「口」。それも、口(唇)の(1)形、(2)開き加減、に分けて調べると解りやすい。次に大きな役割を果たしているのが(3)舌の形。これが音を性格づける三つの大きな要素だ。【表1】(この他に、喉の声帯がある部分=喉頭=の上がり下がりが関わっていて、音程の高さと母音の種類により上下するが、それによる共鳴上の関連が大きく、一言でいえば喉頭はなるべく下がっている状態がよい)=※参照=
 
口の形・母音の三角図
 
 【表1】で口と舌の大体の位置が理解できたと思われるが、補足として、口の形と五母音の位置を関連付けた【図1】をご覧いただこう。逆三角形の下端に「ア」がある。タテ軸は上へ行くほど口の開きが小さくなるので、アは口の開きが最大。ヨコ軸は右側へ行くと口形が横長になり、左へ行くと縦長になる。従って、アから右上にエ、イの順に口は横長、開きは小となる。またアから左上にオ、ウと行くにつれて口は縦長、開きは小となる。五母音を比較して練習するときの、大まかな目安となるもので、本文の母音の説明では、この三角形に従い「イ、エ、ア、オ、ウ」の順序で書き進めることにする。
【図1】母音の三角図
口の形と五母音の関連
 
五母音の口形と舌の位置
 
 発音を正確にする上で、口の形についてはよく注意されるが、舌の位置はあまり問題にされない。目に見えないし、吟者自身もあまり気にしていない。だが、これは口形の問題以上に微妙で、重要なポイントの一つである。
 以下に掲載する口の内部のx線写真は中尾仁泉少壮吟士が発音研究のために撮影したものである。
 
1、「イ」
 
 図や表で解るように「イ」は口は横に開き、開口部は小さい。また、舌の先端を上あごに近づけるため、口腔共鳴の面積は五音中もっとも小さいといえる。このため、口をあまり横に引きすぎたり、口蓋垂(通称ノドチンコ)を上げすぎて音が鼻腔へ抜けるのを妨げられると、硬くて金属性の声になるから注意。中尾吟士のx線写真では、声の通り道(咽頭腔)がよく開いているので、よい共鳴が得られていると思われる。
 
※喉頭の高さについて=外見ではノドボトケがあるあたり、つまり声帯がある場所と、その少し上を指すが、高い声を出すとその位置が上がり、低い声では位置が下がる。喉頭は共鳴を作る場所としても大事で、声を出さず静かに落ち着いた状態では緊張が少ないため低い位置にある。洋楽の訓練された声楽家では声の高さを変えても喉頭は上下せず、常によい共鳴を保つといわれる。しかし邦楽、ことに吟詠では、ある種の情感を重視するため、わざとノドを締めたり、声帯のすぐ上にある仮声帯という器官を中央に寄せて絞った声を出すことから、喉頭の共鳴についてはあまり重視されないと言ってよい。ただし、こうした発声を長く続けるとノドを傷める原因となるし、朗々と響く声とはならないので、ノドにかける力は最小限に留めたい。
 
【図2】「イ」の口形図とX線による舌の位置
 
上のイラストは(音楽の友社刊「発声の技巧とその活用法」から引用







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