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吟詠・発声の要点 ◎第十七回
原案 少壮吟士の皆さん
監修 舩川利夫
2. 各論
(4)発音=1
発音練習の心構え
 
 今回から「発音の要点」に入ります。吟詠の最大の魅力は漢詩などの読み下し文を、日本語が本来持っている力強い響きとともに、情感を込めて詠いあげるところにあります。そのためには詩文を明確に発音する基本練習はもちろん、吟詠特有の発音の工夫が必要となり、これが思ったより重要で、奥が深いものです。吟詠に適した姿勢、正しい呼吸法、よく共鳴する発声法と並んで、母音、子音などそれぞれの特徴を知り、特に難しい発音は何回も練習して、吟詠らしい発音を自在に操ることができれば吟の芸術性は高まります。
 
話し言葉とは違う難しさ
 
 吟詠は日本語の詩文を朗読し、それに節調をつけて詠うのだから、日本語を話せる人なら、発音上では特に問題はないはずだ、と一般的に思われがちである。吟詠の発声、呼吸法など基本練習の中で、発音練習が意外と重く見られていないらしいのは、そのへんに原因があるようだ。しかし実際は、話し言葉の発音と朗詠の言葉の発音とは、同じ延長線上にあっても、こまやかな神経と計算された発音技術を必要とする点で、まったく違う世界と思ったほうがよい。つまり発音練習をもっと念入りに行なうことが、吟詠上達の近道となる。
 一方、今の世の中にはいろんな歌があふれている。小学校以来音楽の時間では、洋楽風な歌を教わってきた。演歌が好きな人が沢山いる、英語と日本語をごっちゃにしたポップスが耳に飛び込んでくる、というように我々は様々な“歌”のシャワーを浴びている。と同時に、いま若者たちの間で使われている日本語(例えばポップスの歌詞で鼻濁音=後出=を使わない、など)にも無意識のうちに影響を受けているかもしれない。という訳で、日本文化のバックボーンの一翼を担ってきた漢文読み下しの骨太な発音とリズムを守る意味からも、その特質をしっかりと抑えておきたい。
 
吟詠発音の特徴は何か
 
 では吟詠・発音の特徴はどこにあるのだろう。
(1)明瞭な発音・言葉が基本=本編の総論で記したように、吟詠は邦楽の中でも「語り物」の部類で、魂が宿っていると伝えられる「言葉」を大切にする。そのため一つの言葉の途中では音を伸ばさず、一語々々をしっかりと言い切り、語尾の音だけは伸ばしたり、まわしたりできる。従って言葉は原則的にはっきりと発音し、語尾はきれいな母音で伸ばす。
 これに関する注意としては(1)母音(付記参照)などをはっきり発音することに重点を置きすぎ、口を大げさに動かしすぎないこと。舌や喉の筋肉が硬くなり、共鳴しない音となる。(2)一語を明瞭に発音するのはいいが、ブツブツと切りすぎて文節のつながりを無くすことがある。(3)上級へ進むにつれて、原則に反してアイマイな母音(半母音とも言う)が必要なとき(詩文の頭の母音をぼかしたり、抒情詩で哀歓を表現する場合など)が次第に多くなる。
(2)口の共鳴は使いすぎない=ア、イ、ウ、エ、オの五母音とも口の中へあまりこもらせず、洋楽と比べるとやや浅い発音となる。オ、ウなども唇をあまりつぼめない。ただし口腔共鳴、鼻腔共鳴が大事なことに変わりなく、口腔と口の形で調節する。
 
吟詠では子音を大切にする
 
(3)子音を大切にする=ふだんの話し言葉は子音(付記参照)をあまり目立たせないで発音する。しかし吟詠では日本語の情感を表すために子音を大事に扱う。洋楽などと比べると分かりやすいのだが、あちらの歌は子音よりむしろきれいな母音を、口、鼻の共鳴を主にした声に乗せて強調する。対して吟詠は言葉の意味を際立たせる子音をたっぷりと聞かせる工夫をするのが特徴。
(子音の発音=後述=で詳述する)
 
《付記》母音、子音について
 この二つは発音を勉強する上のもっとも基本となる部分です。
母音=声帯で出来た音の元が、口の中で何にも邪魔されずに発せられる語音で、日本語ではア、イ、ウ、エ、オの五つの母音に分けられる。開放音、無障害音と呼ぶこともある。
子音=息の流れが口の中で、その通路をさえぎられたり、せばめられたりしてできる摩擦音。母音がとても割り切れる音で長く持続するのに比べ、子音は複雑な振動をもち、しかも瞬間的に発する雑音といえる。従って吟詠発音のうえでも、いくつか難しい音がある。
 
漢詩初学者講座
吟詠家に漢詩のすすめ(60)
四国漢詩連盟会長
愛媛県吟剣詩舞道総連盟会長
伊藤竹外
 
一、孤掌鳴り難し
 吟詠剣詩舞界は創始者笹川良一先生などのお蔭を以って(財)日本吟剣詩舞振興会が發足して以来、この三十五年に素晴しく充実、発展して参りましたことはご承知の通りですが、本欄の漢詩講座もその恩恵に浴している所であります。
 さて、この度かねて私の念願でありました「全日本漢詩連盟」が三月二十一日付で発足することになりました。
 これまで日本の漢詩界は明治維新以後、漢文教育が軽視されてその土壌が危機に瀕して来ましたが、一方、吟界の背景を以って作詩を勉強しようとする人達が増えつつあり、特にこの数年前より国民文化祭の一端を担って全国漢詩大会が相ついで開催され、香川、群馬、鳥取での投稿詩はいずれも一千首を超える盛況となり漸く漢詩界の将来が期待される段階になって参りました。
 この全国大会での審査員らが中心となり、石川忠久先生の呼びかけで茲に全日本漢詩連盟が発足することになったことは洵にご同慶に堪えない次第であります。
 本欄に投稿し又愛読せられる方は各県の吟社に所属される方のみならず、独りこつこつと辞書を引いて作詩に努力されている方も多いように見受けます。
 何事も孤掌鳴り難しで片手では音を発しない如く、両手を打ち合わせてこそ響きを発し、更に多くの人が提携すればその響きは更に大きく雲の彼方まで届くことでしょう。
 愛媛県では十八吟社百七十名の会員がこの連盟に加入しました。各位も是非加入手続きをして更に勉強の意欲を盛り上げて頂きたいと思います。
希望者は下にお申込み下さい。
〒113-0034
東京都文京区湯島一−四−二五
湯島聖堂内「全日本漢詩連盟事務局」
(一般年会費二、〇〇〇円 郵便振込、全日本漢詩連盟 口座番号 00150,2,583731)
二、課題「詠○○花」について
 今回の課題ではさすが日本を代表する桜、梅を始め桃、李、牡丹、藤、牽牛花、蒲公英瑰、鈴蘭、菊など多種多様で表現もそれぞれ面白く拝見しましたが、詩語集に載っていないものは技巧的に難点も多く選ぶのに苦労しました。
 
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