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真の魚・悪い魚・年寄りの魚・・・森口恒一
 我々が現地調査をする場合、原則的には現地の家に下宿して、起居食住を共にしその中で話しを聞いたり、一緒に山に登ったり、生活を肌で感じたりして仕事をする。このような生活の中で最も重要な事柄の一つが食事である。ヤミの場合、基本的には芋類(里芋、山芋、サツマイモ)を主食として、干物(飛魚、シイラ、その他)や小さい蟹、魚などをおかずにする。その料理法は、焼くということは絶対せず、乾燥した物を水で戻し、煮るか捕れた物をすぐにゆでるかしかない。
 
(1)飛魚等をとるタモアミ(Vanaka)
(Vanaka)
 
(2)伝統的なタモアミ(Vanaka)
漁(左手にライト、右手にVanaka)
 
 普通なら食べ物がどんどん出されても、せいぜいお客さん用と家族用と位に分けるが、ヤミの場合は、主人と奥さんと男の私が食べる場合には、男用の一セットと女用の一セットを芋からおかずから、芋などを取るための串をも用意する。また、男があっちこっちと食べ物に手を付けると奥さんの方は、食事をやめてしまう。奥さんに聞くと、臭い男が手を付けた物は皆臭くなるから食べたくない、食べないと言っている。
 このように、食事の際に男用と女用に厳格に分けているように思われるが、儀礼的に絶対にたべてはいけないのではなく、男が関係する食事は、女が食べたくない種類の物がふくまれるし、男がさわると臭いからそれは食べたくないということである。
 このような食習慣の中で、特に重要なのは、魚である。漁が終わり海から帰って来るとまず獲物を三つのグループに分ける。男も女も老人も食べられるグループ=「真の魚」と、男だけ食べられるグループ=「悪い魚」、そして、老人しか食べられないグループ=「老人の魚」の三つである。一見、男がすべての魚を食べられ、女性はある制限された魚しか食べられないかのように分かれているように思われるが、実際は、普段男しか食べられない非常に「悪い魚」(おいしい魚)は、妊娠前後には、すべて、女性も食べることが出来るのである。また、それらの魚は、「悪い魚」に分類されているが、実際は、シイラ、サワラなどの美味なものばかりである。







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