タロイモの食と俗習・・・小西達夫
蘭嶼は台湾の南東の東シナ海、東経一二一・五度北緯二二度の間に位置する周囲約三六・五キロの小さな島です。島のほとんどが熱帯の緑豊かな山地で、複雑な地形からなり平地が極めて少ない。私が初めて蘭嶼を訪れたのは、一九七七年一二月でした。島の西側のより、私の乗ったセスナ機は、左手にYayu(ヤユ)を見ながら島に近づき((1))、海岸線に沿うように飛び、やがて旋回すると、右手に海岸線から緩やかな扇状地に集落を囲むように棚田が広がり、続く山地の急斜面にも切り開いた畑が散在しているIratay(イラタイ)の部落が目に入りました(2)。集落にはコンクリートの住宅が整然と並び、伝統的な建物の姿は見当たらず何か異様な感がする内に、砂利舗装の滑走路に着地しました。滑走路はコンクリート舗装の準備が始まったばかりで、ヤミ族の伝統的な文化へ文明が進行しているような印象を強く受けました。八〇年前、この島に人類学的調査に訪れた鳥居龍蔵がこの光景を見たら何と言うであろうかと思いました。
この島には、オーストロネシア語族系のヤミ族(近年、タオ族とも呼ぶ)が生活しています。伝統的な民族服は、男性が袖なしの上着と褌、女性は袈娑衣と腰巻があることが知られています((5))。七七、七八年に訪れた時にはその名残りとして成人男性のほとんどが褌姿で日常生活をしていました((3)(6))。しかし、すでに子供たちや女性は現代的な服装に変わっていました。その後一九九六年一二月には大人の褌姿はほとんど見られなくなり、儀礼的衣装になっていたようです。
(1)蘭嶼の西上空よりの光景。
中央が相愛山(標高五一一メートル)で右側にYayu、さらにその先に海岸線に沿って蘭嶼飛行場の滑走路が見える(一九七八年八月撮影。滑走路は、一九七七年一二月は砂利舗装であった)
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(2)蘭嶼西側上空よりのIratayの全景。
中央が集落の中心になる住居、左へ行くと蘭嶼飛行場、右へ行くとImorod(一九七八年八月)。蘭嶼は、平均気温二二・四度、平均降水量約三〇〇〇ミリ以上の熱帯圏にあリます。
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(3)
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海に向かってもたれ石を背にくつろぎながらcipoho(Artocapus communis クワ科)の根皮を噛む男性達
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(4)縫合型カヌーの製作
(5)女性の礼装着。
(6)
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Iratayの集落に近い沢筋で出会った村人。 |
山で集めた炊事の燃料用の薪を背負っている (一九七八年八月)
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(7)
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イシクラゲNostoc communeを採集し、混じり物のごみを取り、洗っているところ |
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