■インドの太鼓の諸相■
ここで、太鼓自体の分類についても一言しておこう。この点についてはB・C・デーヴァ博士の先駆的研究があるが、それを参考にしつつ、改めてインドの太鼓を主としてその形態から分類するならば、概略、次のようになるであろう。
A、 叩打型太鼓
一 枠型。概して皮による膜面からなる円い叩打面をもつが、径に比して奥行きの浅い、手で持って演奏するタンバリン・タイプの太鼓である。これはさらに、(1)片側が空いているか、(2)両側(上下ないしは左右)が閉じているかに分けられるが、(1)の例としては、南インドで用いられる、トカゲの皮を片面に張ったカンジーラーが、また(2)の例としては、持ち上げて叩くやや大型のダフ/ダプがあげられよう。これはアラビアから中央アジアにかけて広く分布する、乾いた高い音をだす太鼓であるが、インド北西―西部などの民俗楽器としてもよく用いられる。
二 筒型。これはさらに、(1)片側が打面となっている一方、底部が空いているもの、(2)片側の上面が叩打面になっていて底部は閉じているもの、の二種がある。(1)の例としては、タムタム状に撥で叩くこともあるドールがあげられ、(2)にように上面に膜を張り、底部は閉じていて上から手ないしは撥で叩く片面太鼓の例も、ことに地域的民俗楽器に多い。
三 胴部が壼状か円筒状となっているもの。反響を良くし、音質を高めるために胴部が壼状か円筒状をなすものは現在、古典音楽か民俗音楽かを問わず、最も一般的に用いられている太鼓である。北インドの一対の太鼓タブラー・バーヤがよく知られているほか、起源もより古いケトルドラム状のダムシャも、この範疇に加えてよい。
四 両側(上下ないしは左右)が打面をなすもの。上記の三より起源も古く、基本的な太鼓の形式でありながら、南北をとわず古典楽器として用いられているもので、これも胴部がやや円筒形にふくらむ傾向を見せるが、北部のドーラクやパカーワジ、南部のムリダンガム、東部・北東部のコールなどがそれにあたる。
五 叩打面がそれ以上の数で空いているもの。これはやや地方的な儀礼用の楽器に見られるもので、類例はあまり多くない。その他、細腰(南西部ケーララ州のティミラ)ないしは砂時計型の振り鼓(ダマルなど)、また花瓶を逆さにしたように長く高い脚部のついた高杯状の太鼓(中東一帯に広がるダルブッカなどのインド版)ほか、さまざまなものがある。
B 以上の叩打型とは別に、擦って演奏するタイプの民俗太鼓もあって、そのうちには管状のもの、あるいは胴部がくびれたものなど各種があるが、この範疇に入る太鼓の例もあまり多くない。むしろ擦ったりなでたりする機能は、上記三・四類型などの太鼓を演奏するさいの、特定の技法として採り入れられていると考えてよい。
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さまざまな地方的太肢 (地方や民族によって呼称が異なる) |
チャンドラピライ
ダフ/タンマッテ
グナ(ティベット系)
ムリダンガム/ムルダング/ムリダング
パンバイ
中部インド・ゴンド民族のドール
フドゥッカ/フドゥク(南部)
エダッカ/イダッカ/イダッキヤ(南部)
ブッラ/グンマティ/グマット(中部ほか)
タブラー・バーヤ(北部)
パンチャムカヴァーディヤ(五口壺)、 左はクダムリャ(いずれも南部) |
ナガラ/ダムシャ(東部・中部ほか)
パカーフジ(北部)
資料=
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B.C.DEVA "MUSICAL INSTRUMENTS" & S.KRISHNASWAMI "MUSICAL INSTRUMENTS OF INDIA" |
以上のような主として太鼓の形態からする分類のほかに、それを手で打つか撥を用いるかという演奏法による区分、あるいは楽器が木製であるか金属製であるかなどの材質別区分、もっぱらリズムをとるためかメロディックであるかによる区分、等々、さまざまな分類が可能である。インドの太鼓の種類は総じてその数三〇〇にも及ぶとされ、その厳密な分類は容易でないが、この問題は、これからもさまざまに研究が試みられるべき興味深い課題といえよう。
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