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4.3 資格制度の運用
 資格制度の対象とする技能区分(職種)、および知識・技能の等級別評価基準をもとにした資格制度の運用について考えてみたい。基本思想は、前述したように、業務の効率向上、技能継承の効率向上に貢献することを目的とする。
 
(1)段階的運用
(1)第1段階:各社における個別活用
・人事評価の一要素としての技能評価への利・活用
・向上意欲の誘因となる技能習得目標の提供および社内資格への活用
・新規入構者の技能レベルの申告および確認(査定)への活用
・ISO品質マネジメントシステムへの組入れ
・契約雇用における要求職務内容、レベル提示への活用
(2)第2段階:教育制度との連携
・教育コース修了者への技能レベルの認定
(3)第3段階:資格認定制度の運営
 上記第1段階の運用を通じて問題点を吸い上げて修正を加え、評価者による差が許容できる範囲になったところで、業界内共通資格として公的認定をおこなう。
 
(2)公的認定における運用
(1)運営主体
 認定は国が行うものとし、判定や運営の実務は国から委託を受けて(社)日本中小型造船工業会が行うのが適当と考えられるが、今後の検討課題とする。
(2)受認/受講資格
 工場長あるいは同等の管理者が、資格相当の技能を有すると認めた者で、同管理者により資格認定の申請が行われた者とする。協力企業等の技能者の認定は、原則として造船所が行うものとする。
(3)認定方法
・ 権威ある制度にするためには認定試験を行うべきであるとの意見が多い。試験を行うには、その前に試験委員または認定委員の任命が必要となる。どのような資格、経験、学識を有していれば委員としてふさわしいのか、委員選考規定をまず作成しなければならない。
・ 試験問題の出題範囲、等級別内容についても基本方針をあらかじめ定めておく必要がある。
・ 知識に関する試験では出題内容の適否判断が難しいが、問題が決まれば採点は可能である。対して、技能レベルはその判定が極めて困難である。適当な実技課題を与えて作業時間と出来栄え(品質)を判定すればいいとはいえ、それには相応の設備と時間が必要となる。さらに言えば、等級の境界を設定するのも結構、困難であろう。
・ 以上のように技能全体をカバーするには、まだ多くの作業が必要で、それらをすべて準備するには時日を要し、時期を失する恐れがある。したがって、ニーズの高い技能から段階的に順次、実施するのが妥当であろう。
 なお、認定試験の準備が整わない前に、早急に技能全体をカバーする実施方法としては、申請内容の信憑性を面接等により査定して、認定する方法も考えられる。これは、第1段階実施中に早急にコンセンサスを得る必要がある。
(4)認定試験とその実施方法
 ニーズの高い資格より検討をすすめ、準備の整った資格より試験を実施する。
(5)認定試験委員
 5〜6名を運営主体の中に設ける。
(6)資格取得までの流れ
 雇用者による申請をうけ運営主体認定委員による査定を受けて取得する。査定方法は、試験を原則とするが、内容は資格ごとに順次決めてゆく。
 
図7 認定証交付までのおおまかな流れ
 
5. 今後の展開
 造船技能の等級化とその基礎資料の作成は、平成13年度に船殻関係を、平成14年度は艤装および修繕船関係をまとめた。そして平成15年度で、前年度までに作成した「作業要件書」を事業参加会社を主体に試行、評価してもらい、作業要件書を修正して「造船技能評価基準」とし、あわせて、この評価基準を活用する資格制度を、段階的運用手順とともに提案した。
 
 本事業の原案は42技能であり、これまでの調査では適当と思われるが、今後に残された課題は、
(1)対象とする技能の選定・確定に対する業界合意の形成と、それに伴う評価基準内容の確定
(2)他産業における資格制度、技能検定制度の実施、運用情報の収集
資格、検定制度の運用に際しては、他産業での運用実績が参考になる。
(3)これに基づいた、またすでに述べた方法を具体化した、造船技能検定制度運用実施案の作成
 具体的には実技試験、学科試験の是非と内容、判定基準の作成、実施要領の検討、事務局作業内容の特定と業務手順作成、そして実際の事務局設置に関する諸問題の検討等。
 
 造船技能の教育制度が、国家的な事業として継続的に実施されようとしているが、これに伴って技能の評価を公平かつ適切に行い、絶対評価にしていくことが必要不可欠である。
 ここにまとめた資格制度の試案は、残された課題の実行と併せて、今後、運用を重ね、レベルをさらに向上させていかなければならない。そのためには、造船関連団体を糾合して恒久的な組織を編成し、強力に活動することを提案したい。主な活動内容は、次のとおりである。
(i)適用する現場(技能)を増やすよう、バックアップする
(ii)技能評価基準に関するフィードバックを集積する
(iii)基準を更新する
(iv)(ii)、(iii)を繰りかえして評価基準の質をあげる
(v)公的制度化のための環境を整備する
(vi)公的制度として確立する
 
あとがき
 造船業は、典型的な労働集約の3K産業であるから、韓国や中国などの後進国の追い上げによって英国など先進国が辿ったように日本も衰退の道を辿るであろうと言われて久しい。しかしながら、そのような危惧に反して、いまだに大きなシェアを維持し、しかも海外生産にほとんど頼らずに競争力を維持している。
 
 この理由は、造船業の技術・技能の特質が、熟練した単一技術技能を有機的かつ複合的に活用する総合的技術・技能にあって、海外諸国が簡単には習得しがたいものであるからと思われる。
 
 このような総合的技術・技能は、これまでは、大学の造船専門学部、造船専門高校、技能養成学校、現場実習ならびにOJTを含めた立体的教育によって習得、継承され、その遺産がまだ高齢者を中心に残存しているが、現状はこのような伝統にほころびが出はじめ、その継承が円滑に行われなくなってきている。このままでは、日本造船業の存続に危機が迫っていると言わざるをえない。
 
 技術については造船学会で議論され、船舶海洋技術者支援委員会が発足して教育と資格認証を行おうとしているが、造船の生産を直接、担う技能においては漸くここに提案されたに過ぎない。
 
 本報告書において提案した技能評価基準ならびに資格制度が現実の現場組織に適用され、これを継続的に発展させることで技能継承のスピードと質を高め、もって日本造船業の国際競争力の維持発展に寄与することを願うものである。
 
 具体的には、来年度より実施に移されようとしている教育制度と連携をとりつつ、教材の整備とあわせ、技能評価基準の中の「常識」「十分」「詳細」等の内容を明確に定義するとともに、試験内容の固まった資格から具体化してゆくことになろう。







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