日本財団 図書館


もうひとつの学び舎フォーラム
「市民がつくる新しい学びのかたち」〜学び舎の未来形を探る〜」
 学校完全週5日制が実施され、はや3年目。
 これまで学校に集中していた教育や学びの場を地域に呼び戻そうという動きが全国で始まっている。このフォーラムでは市民やNPOが協力して、学校以外のもうひとつの学びの場を作ろうと活動をしている全国の取り組みから、これからの新しい学びのかたちを探りたいと思う。フォーラムでは前半に各パネラーの活動内容について紹介してもらい、その後パネルトークを行なった。
 
パネラー(敬称略)
毛受 芳高 NPO法人愛知市民教育ネット 代表理事
林 大介 NPO法人21世紀教育研究所 事務局長
コーディネーター
仲川 元 「もうひとつの学び舎」事業ディレクター
 
愛知市民教育ネットの活動について
活動のきっかけ
 私は特に何になりたいというわけでもなく、大学で情報工学を専攻していたが、4年生のときに本当は教員になりたいことに始めて気がついた。しかしその専攻では教員免許を取ることができず、結局教員をあきらめるという経験をした。それがきっかけとなり、もっと中等・高等教育の段階で自分が将来何になりたいのかをじっくり考えるようなカリキュラムが必要だと感じるようになった。
 不登校や引きこもり、学級崩壊など、いま教育は危機的な状況にある。私はその原因を地域社会が子どもの成長にあまりにも無関心になり過ぎたからだと思う。本来、教育や人づくりは地域で暮らす、すべての人が取り組むべき課題のはず。イキイキした大人がイキイキした子どもをつくると考え、市民が積極的に教育づくりに参画することで学校の機能回復を図り、教育コミュニティの再生を図りたいと考えている。
 
市民講師ナビ事業について
 市民講師ナビ事業とは、さまざまな経験、知識、特技を備えた市民の方々に講師登録をしてもらい、学校の要望に応じ市民講師を派遣する事業。
 
 
 この事業にはナビゲーターと呼ばれるボランティアがおり、その役割は大きく分けて3つある。まず講師希望の市民を見つけてくる「さがす」、次に講師派遣を希望する学校に対し売り込みを行なう「ひろめる」、そして最後に両者の間に入ってうまくコーディネートする「つなげる」。これらがうまく機能して初めていい授業が生まれる。
 テーマに関しては、小学校からは環境問題や国際理解を体験的に学ぶものへのリクエストが多い。中・高校生向けでは進路に関するものや、「生き方について」という要望が多い。ルールとしては講師には自分や自社の商品を売り込まないことをお願いしている。例えば立候補予定の政治家が自分の名前を連呼するのではなく、政治家という職業について話をしてもらうなど。また一方的に「教える」という立場ではなく、自らも「学ぶ」という謙虚な気持ちを持ってもらうようにしている。
 
愛知サマーセミナーについて
 愛知サマーセミナーは、「誰でも先生、誰でも生徒。教えたいことを教え、学びたいことを学ぶ」を合言葉に89年からスタートした。最初は社会科の教師が集まってつくった8講座でスタートしたが、翌年は5教科の先生が参加、次に保護者がタイ料理やケーキ作りを教えるようになり、その後徐々に広がりを見せ、2001年には907講座に、2万8千人が市民がつくる手作り講座に参加した。
 学校といえば先生が前に立って一方的に授業をするという受動的な図式が思い浮かぶが、本来学びというのは自分が興味を持ったことを楽しく学んでいく主体的なものだと思う。活動の資金源は基本的にはパンフレット等の広告収入でまかなっている。それでも赤字が出そうなときはバザーでそうめんや「サマセミせんべい」を販売して補っている。
 
毛受 芳高(めんじょう よしたか)
 
 
NPO法人 愛知市民教育ネット 代表理事
 名古屋大学工学部でITを学んだ後、'99年同大学院人間情報学研究科で認知科学を専攻。学生時代は、主に内閣府主催「世界青年の船」など様々な国際交流活動で活躍。'99年より「市民参加の教育づくり」をすすめるNPO、愛知市民教育ネット(ASK-NET)を立ち上げ、学校や行政と協働しながら地域の教育改革に取り組んでいる。
 
NPO法人 愛知市民教育ネット (http://www.ask-net.org/)
 1999年設立。学校へ街の先生をコーディネートしていく「市民講師ナビ」事業、毎年800を超える手作りの講座に3万入以上の市民が参加する「愛知サマーセミナー」、学校が地域といっしょにつくる祭り「オータムフェスティバル」など、これまでの教育の枠組みを超え、市民参加型の教育作りによってコミュニティ再生を図ろうと活動している。第50回読売教育賞最優秀賞などを受賞。
 
 
21世紀教育研究所の活動について
活動のきっかけ
 高校時代に文化祭で子どもの権利条約について展示発表したのがきっかけで、子どもが社会に参加できるような仕掛けが必要だと思い、主に子どもの権利条約を広める活動を行ってきた。その後21世紀教育研究所と出会い、子どもたちが学校以外に学べる場所を確保することや、多様な学びの選択肢を提供することの重要性を感じ、現在の活動を行っている。
 
ステキな学びの場データベース
 1994年から収集してきた全国のフリースクール・フリースペースのデータや、実際に通学する子どもたちの声を取材した「21世紀もうひとつの学校案内」を98年に出版。また最新の調査結果を「ステキな学びの場データベース」としてHP上でも公開し、情報提供を行っている。各フリースクールの受け入れ人数や提供しているプログラムは千差万別であるが、利用する子どものニーズもまたそれぞれ異なるため、丁寧なマッチングが必要となってくる。
 
チャータースクールについて
 チャータースクールとは1991年にアメリカで誕生した「公設民営型の公立学校」。この10年間で全米38州、2400校に広がり、約60万人の子どもが学んでいる。日本とアメリカのチャータースクールの大きな違いは、日本でチャータースクールというと、普通の学校に行けない不登校の子どもの行く場所という否定的なイメージを持つ人が多いが、アメリカではチャータースクールは正規の学校と認識されている点。教育制度自体が違うので一概には言えないが、日本では比較的、学びの多様性に対する理解が低いと言える。
 
議員インターンシップについて
 私の所属するもうひとつのNPO「Rights」では高校生や大学生に政治家の仕事を体験してもらう議員インターンシップを行なっている。日本では大人の間でも政治離れが進んでおり、せっかく参政権があっても行使しない人が多い。また参加した高校生たちに事前に「国会議員って色にたとえると何色?」と聞くと黒やグレーと応えるなど、否定的なイメージが多かった。しかしインターン終了後のコメントを見ると、「ちゃんと政策を勉強しているんだな」など、政治家という職業についての具体的なイメージが少し理解してもらえたようだ。
 
最後に
 そもそも学び方というのは人それぞれに違うものであり、またいくつになっても新しいことに興味を持つことで、豊かな人生を過ごすことができる。これまでの画一的な教育の枠組みでは応えきれない、多様な学びへのニーズが着実に高まりつつある。それに対して私たちNPOや市民がどこまで応えることができるかが問われていると感じた。
 
 
林 大介(はやし だいすけ)
 
 
NPO法人 21世紀教育研究所 事務局長
 1976年東京生まれ。高校時代に子どもの権利条約に出会い、文化祭で展示発表を行ったことをきっかけにして、子どもの権利保障をすすめる活動を始める。現在は、「ユースエンパワメント」「子ども・若者の社会参加・参画の場の創造」をキーワードに、講座の企画やコーディネート、プログラム開発、ファシリテートなどを行っている。
 
NPO法人 21世紀教育研究所 (http://www.edu21c.net/
 不登校・いじめ・高校中退・少年犯罪など深刻化する教育問題の調査・研究機関として1994年に設立。全国1200ヶ所以上のフリースクールを調査した情報をデータベース化し、HP上で公開するなどの情報提供や、チャータースクール(公設民営の公立学校)や教育特区などをテーマにしたセミナーを開催するなど、多様な学びの場を広める活動を行なっている。
 







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION