プレイワーカー養成講座
はじめに
もうひとつの学び舎では「子どもの自主的な社会参画」をひとつの大きな目標に掲げている。これはロジャー・ハート(ニューヨーク市立大学教授)が提唱する「子どもの参画」の理論と実践をベースにしている。子どもたちが地域社会に関心をもち、課題を見つけ、自分で考え、その解決に向けて自主的に行動していくにはどのように育てたらいいのだろう。自己表現ができない、または下手な子どもたちと関わったスタッフは、子どもたちが本来もっている興味や探求心を引き出すにはどうしたらよいのか、それを自発的な関心や学びにどのようにつないでいくのかなど、日々悩みながらプロジェクトを行っている。また、大人がどこまでリードやサポートをしていいのか、子どもとの距離の測り方もよく議論にのぼる課題である。
今回、世界各地でPLA(参加型学習と行動)ファシリテーターとして活躍するカマル・フィヤルさん(ネパール出身)を迎え、県内で活動する子どもに関わるNPOスタッフを対象に、「子どもの主体性を生かしたサポートの仕方」について、ワークショップ形式の講座を開催した。その中から一部をここに紹介する。
カマル・フィヤルさん
1965年、ネパールの首都カトマンズに生まれる。学生時代よりイギリスの開発協力NGOアクション・エイドの現地ボランティアとして活動。そのなかでPLA(Participatory Learning and Action)ファシリテーターとしての技術を取得。卒業後は高校教師などを経てアクション・エイドの専従スタッフになる。1993年よりフリーのPLAファシリテーターとして活動を始めて現在に至る。この間に手がけた調査、研修は数知れず、そのたびに高い評価を受け、現在ではネパールのみならず、国際的にも最も優れたPLAファシリテーターの一人とみなされている。日本でもここ3年間数多くのPLAセミナーを実施している。
参加者の抱える課題について話し合う
カマルさんから最初に、「何について話し合いたいか、あなたが課題に思っていることは何かを出し合いましょう」との提案があった。
参加者よリ「子どもが社会に参画する力をどうやって引き出すのか?」「子どもが自分の考えや気持ちを表すようになるにはどうすればよいのか?」などの意見が出た。
みんなの意見を集約すると、以下の4つの課題が見えてきた。
(1)子どもが参加・参画しない、できない。
(2)子どもはたくさんのアイデアを持っているが表に出せないでいる。
(3)子どもの潜在能力を引き出すことが難しい。
(4)プログラムに参加する子どもがなかなか集まらない。
カマルさんは、「私が正解を持っているわけではない。みんなで答えを見つけていきましょう」と、4つのグループに分けてワークショップが始まった。
ワークショップ(1)
テーマ「子どもはたくさんのアイディアをもっているが表に出せないでいる」
Cause and effect diagram
・各グループに分かれて、大きな白い紙の上に木を描く。(図1参照)
・子どもが自己表現できない原因について話し合い、キーワードや短い文章でポストイットに書き、みんなで木の根の部分に貼っていく。
・各グループで木を見せ合いながら意見交換をする。
・原因をまとめると、次の4つに分けることができた。
図1 Cause and effect diagram
木は1つのテーマ(問題)を表している。木の根っこの部分はその問題のcauses(原因)を、実の部分はeffects(与える影響、起こる結果)を意味している。
共有1
<自分の内面>
自分の世界に閉じこもっている。心が閉ざされている。興味不足。
<成長過程>
経験不足。トレーニング不足。家族関係に問題がある。育ってきた環境。
<周囲の環境>
先生の態度。親の期待。受身。他人の意見を気にする。評価が気になる。恥ずかしい。
仲間の圧力。いじめ。
<生活環境>
時間のゆとりがない。
・元のグループに戻り、そのような原因をもっていると子どもたちにはどんな影響が現れてくるかについて話し合い、同じようにキーワードをポストイットに書き、今度は木の実のところに貼っていく。
・各グループで出た事を全員で共有する。
・現れる影響や結果をまとめると、次の4つに分けることができた。
共有2
<対人関係を無視する。居場所がなくなる>
<自信喪失。社会に出ていくことへの恐怖。周囲の関係への恐怖。人と接することが嫌になる>
<経験不足。悪循環。結果が変わらない>
<気持ちが抑えられなくなった場合は切れる>
ふりかえり
木の図を使って、子どもに現れている現象の分析、意見交換、共有、解決への話し合いというプロセスを経ながら、参加者全員が自分の意見を述べ、他者の意見を聴き、理解と共感を大切にしながらワークショップを進めていくことができた。
カマルさんのコメント
これは問題解決のために、まず自分で原因と結果を分析するための手法である。ネパールの子どもたちもこの手法を使って自分たちの問題の分析をしている。彼らが問題の原因は何かに気付いた後、それを解決するためにどうすればよいかを問いかける。他の人の意見も参考にするが基本的には自分たちで考えていく。
ワークショッブ(2)
テーマ「子どもの主体的な参画を導くさまざまな手法について」
・子どもを取り巻くさまざまなステークホルダー(利害関係者)について思いつくものをみんなで挙げていく。(図2参照)
・子どもたちが自分たちだけでなく、ステークホルダーを巻き込みながらいっしょに課題探しをする方法について話し合う。
図2 こどもを取り巻くステークホルダー
課題を見つげる7つの方法
(1)Mapping(マッピング)
壁に地域の大きな地図を張っておき、調べた情報やプラン、デザインなどをみんなで書き入れていく方法。例えばネパールで公園を作ろうとするとき、子どもはresource mappingというこの手法を用いて、計画に自分たちのアイディアを反映させいく。
(2)Ranking(ランキング)
課題がたくさんあるとき、まず何から始めるかを決めるために問題点や改善点をすべて出し合い、その中でどれが一番大きな問題かをランキングで決めていく方法。
(3)Drawing(描く)
小さな子どもでも意見を表明することができるように、また口頭や文章で伝えるのが難しい場合には、自分の好きなことや嫌いなことを絵で表現して伝える方法。
(4)Discussion/Interview
(ディスカッション、インタビュー)
子どもが大人にアンケートやインタビューをして、地域の意見を集めていく方法。大人だけでなく、子どもが子どもに対して行うインタビューも効果的。
(5)Walk/observation(観察)
大人と子どもが一緒に歩きながら街を観察し、問題を発見していく方法。
(6)Role-play(ロールプレイ)
一方的に意見を伝えるのではなく、例えば一人が先生役になって見本を見せるなど、役割を演じながら子どもに分かりやすく伝える方法。
(7)Cause & Effect(Tree)diagram
課題を分析するために、原因と結果を掘り下げていく方法。
カマルさんのコメント
こういう手法を使いながら、子どもと関係者が地域の課題について時間をかけて話し合っていけば、地球上に解決できない問題はなくなるだろう。
ワークショッブ(3)
テーマ「子どもの参画を動機付けるための6つの要素について」
motivation factors for participation
・カマルさんの経験から次のような動機付けについて説明。
(1)Popular facilities
参加するとチョコレートがもらえる、というような特典による動機付け
(2)Comparison
参加しなければならない、というような義務や強制、罰などによる動機付け
(3)Facilitator's strategy
(参加したくなるような)いろんなおもしろいツールを作るなど、ファシリテーターの戦略による動機付け
(4)Facilitator's attitude
ファシリテーターの魅力による動機付け
(5)Mental satisfaction
それに参加すると心が満たされる、というような心理的満足感による動機付け
(6)Long-term benefit
このプログラムに参加するとずっといいことがある(長期的な利益が得られる)と期待できる動機付け
カマルさんのコメント
(1)と(2)は始めのうちはよい。(3)と(4)はプロセスとして用いるのならばよい。(5)と(6)はより持続的だといえる。(1)から(6)に向かうほどより持続的な参画へのアプローチになります。国や文化的背景の違いなどによりこれらのツールの使い方は違ってくるし、手法はたくさんあるが、参画を目指すというねらいは同じである。
ワークショップ(4)
テーマ「子どもと活動をしたり、ワークショップをするときに重要なことは」
・カマルさんの講義
「まず仲良くなること。仲が良いと心の言葉を話すようになる。」
・信頼関係を築くプロセス(Relation building process)の紹介
(1)Smiling relationship
微笑むだけの関係。お互いのことは何も知らない関係
(2)lntroduction revel
お互いの家族や仕事の内容を知っているという関係
(3)Discussion/interaction level
共通の話題について互いの意見を交換する関係
(4)Sentimental attachment
お互いの状況を心配するなど、気持ちのふれあいがおこる関係
(5)Sacrifice
相手のために犠牲を払える関係
カマルさんのコメント
無機質な関係では子どもと大人が打ち解けあうことはできない。いくらツールやメソッド(方法)があっても、お互いの関係が構築されていなければ通用しないだろう。ネパールでは子どもとの関係を築くために一緒に遊んだりピクニックに行ったり、よく話を聞いたりということを大切にしています。プロジェクトを始める前に1か月以上も時間をかけることもある。また子どもたちのsocial activities(行事)に参加したりもする。
プロジェクトを始める前に、もしくはプロジェクトが既にスタートしている場合でも一度プロジェクトのことを忘れて、どのように子どもたちの世界に入っていけるかを考えてると良い関係が築ければプロジェクトも必然的にうまくいくだろう。
受講者の感想
・子どもたちと活動をするために必要なことは、まず仲良くなること。これは目からうろこだった。
どうしてもその日のプログラムを消化することに振り回されてしまう。子どもとはそのうち自然と関係が出来ていくのだろうと漠然と思っていたが、カマルさんの意見は違った。始まっているプロジェクトでも本来の活動を一時忘れて、子どもとの関係を築くことを大切にするというアドバイスは、今後の活動に大いに参考になるだろうと思った。
・カマルさんからのメッセージは、
「イベントを進めるよりも、先ずは子どものなかにどっぷリ、ゆっくり浸ること、lMMERSIONが最も大切」ということだと思った。
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