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セッション f. 連携
スポーツNPO活動推進ネットワーク構想を考える
水上 博司(NPO法人 クラブネッツ 副理事長兼事務局)
山田 明仁氏(NPO法人 神戸アスリートタウンクラブ 副理事長)
コーディネーター:内藤 拓也(笹川スポーツ財団 業務課)
 
内藤 本セッションは、提案があったスポーツNPO活動推進ネットワーク構想について参加者の皆さんとディスカッションをして、詳細を検討していきます。
 スピーカーはNPO法人クラブネッツ副理事長水上博司先生、NPO法人神戸アスリートタウンクラブ副理事長の山田明仁さんです。まずは、提案者である水上先生から補足していただきます。
 
「社会的プレゼンス、自己決定性、雇用創出」
水上 午前中の提案の中で言えなかったことを補足させていただきます。一つ目は、スポーツNPOの社会的プレゼンスの向上を目指すという成果についてです。提案の後ある方から「社会的プレゼンスを高めることは、スポーツNPO全体でできるのか、もっと専門家集団が行った方がよいのではないか」いうアドバイスがありました。
 たしかにそのとおりかもしれません。1,316の健康スポーツ系NPOの中で本当に社会的プレゼンスを高めて、かつ牽引していくNPOは、300団体程度と推測してのコメントだったと思います。さらに厳しく推測して1割の130団体ぐらいかもしれません。スポーツNPOの活動が多様化してきていますし、どのような社会的プレゼンスを高めるのか、その中味やプレゼンスのタイプが異なることが多くなりますから、差別化も必要でしょう。だからと言って入口を狭めた閉鎖的な活動や運営は慎むべきで、スポーツNPOにもスポーツの専門家だけではなく、スポーツの領域を超えて、音楽や芸術、街づくり等の専門家や運営をサポートしてくれる税理士や会計士が、ごく自然なかたちでスポーツNPOに対して協力してくれるような関係づくりをしていかなければいけないと思います。
 二つ目は、スポーツNPOの自己決定性を高めることです。サミットの参加者が車座になってテーマを見つけ、ディスカッションする小さな分科会形式を行う。各スポーツNPOがA4版1枚の用紙表裏に団体PRを書き、それをファイリングすることで、一つのデータベースをつくる。このようなグラスルーツレベルの取り組みでも構わないと思います。社会的なプレゼンスを高めるために、各スポーツNPOが持っているものに透明性を高めて、多様なスポーツNPOと課題やミッションを共有していく。そうした中から事業化できるものやビジネスモデルをスポーツNPOが自立したかたちで決定性をもつことにつながると思います。
 三つ目は、スポーツNPOにおける雇用創出です。これについての課題は、具体的な雇用実例を切り取って詳細に分析していく必要があると思います。
 例えば施設の運営受託による雇用事例や学生のインターンシップ制度を活用した人材確保、企業や行政との人事交流に基づいた雇用事例など、それからの事例がどのような合意過程を経たのか、また、どんな人と人とのつながりがあったのか、感情的、情緒的な要素はあったのか、雇用における財源の供給のしくみはどうか、マネジメントは、などこれらの個別ケースをもう少し細かく分析しなければなりません。
 スポーツNPO活動推進ネットワークでは、最終的にスポーツNPOが持つ資源を集約して、ある種の専門集団をプロジェクト的に作り、政策提言等ができるようにしたいと考えています。このネットワーク構想は、各方面からの意見を集約していくことで、リファインできるにしたい。具体的な提案やご意見があれば、ぜひ活かしていきたいと思います。どうかよろしくお願いします。
内藤 ありがとうございます。後程、皆さんと議論したいと思います。
 それでは、地域レベルのネットワークが今どのような形で行われているかを山田さんに紹介していただきます。
 
「神戸のネットワーク」
山田 当クラブが、神戸での第1回スポーツNPOサミットを主催しましたが、以前から地域レベルでのネットワーク化に取り組んでいます。今日はその紹介とネットワークを活用してどのようなイベントを行い、どのような組織づくりをしているか、そしてその課題をお話しします。
 先程第1回スポーツNPOサミットを2002年3月10日に主催したと申しあげましたが、その1年以上前の2000年12月16日に神戸で「こうべスポーツ応援団を作りましょう」というテーマでシンポジウムを行いました。参画した団体は、我々神戸アスリートタウンクラブの他に、130年程の歴史を持つ外国人の会員制スポーツクラブ、社団法人神戸レガッタアンドアスレチッククラブ、そして、サッカー界では非常に歴史のある神戸フットボールクラブ。神戸YMCA。ラグビーの平尾誠治氏が理事長を務めるNPO法人SCIX。その他にアメリカンフットボールのファイニーズや兵庫県ダブルダッチ協会、リズム体操、水泳、インディアカといったスポーツ団体が集い、シンポジウムを開催しました。
 その時に我々は「神戸声明」を発表しました。この中には「支える」という言葉をよく使っています。例えば「地域のスポーツクラブやスポーツ団体の運営や指導をボランティアが支えましょう」「イベントをボランティアが支えましょう」あるいは「障害者や高齢者がスポーツを楽しめるように支えましょう」と、支えるということを発表させていただきましたが、これは神戸だけではもったいない、全国にこのようなネットワークを広げようということでクラブネッツや笹川スポーツ財団に相談をして。このようなサミットが開催されるようになりました。
 このスポーツ応援団の約束事として、情報交換あるいは相互協力という目的で緩やかなネットワークであるということを確認し合いました。これを逸脱すると、利権争い等ややこしい問題が出てくる可能性があります。また、それぞれのノウハウや得意分野を提供し合おうという点も非常に大事なところです。これがNPOならではの特徴かと思います。これが企業であれば、企業秘密となり、なかなか表に出せない。それがNPOであれば、お互いの情報を共有し合うことができるはずです。
 もう一つ重要なのはミッションです。このミッションが曖昧であれば、参加団体の意思が統一できません。ミッションが不明確にならないようにしていかなければ、このスポーツ応援団というネットワークは成り立たちません。
 このネットワークでは、サッカーワールドカップの前年で機運が盛り上がってきた頃に「わくわくサマーフェスタ」「ワールドカップドローイベント」あるいは「KOBEファンビレッジin East park」などのイベントを開催しました。これはワールドカップ関連のイベントですが、こうべスポーツ応援団が取りまとめました。
 10月には、スポンサーシップについての勉強会も行いました。以前にも行ったことがあり、このようを勉強の機会も重要なものと捉えています。他には、月例会を開き、月1回メンバーが集まる機会を設けています。
 11月には神戸で「フットボールタウン」というイベントを予定しています。「フットボールが神戸を動かす」というキャッチコピーと「G-Games」というロゴを考えて、企画しています。
 
 
 神戸は、三大フットボールのトップチームをたくさん抱えている地域です。全国的にも珍しい所です。アメリカンフットボールは関西学院、サッカーはJ1のヴィッセル神戸、ラグビーは神戸製鋼とワールドといったチームがあります。それを盛り上げましょうということで考えました。神戸をフットボールの聖地にと考えています。当然トップだけではなくて神戸にはいろいろな歴史があります。先程の設立以来130年が経過する神戸レガッタアンドアスレチッククラブもあります。そういったものを振り返りながら、フットボールの聖地になれないかと考えました。
 11月3日にはサッカー、ラグビー、アメフトの著名人によるトークショーと前夜祭を行います。各ゲームにどれだけたくさんの観客を動員できるかということも重要視しています。このときに非常に大事なのはコラボレーションです。先程も言いましたが、企業との違いはこのようなコラボレーションが非常に柔軟かつ速やかにできることが、NPOのネットワークの大きな特徴です。今回もアメフト、サッカー、ラグビーの3つの協会が連携するという、まだ日本では非常に珍しいケースです。
 ここで、芝生が問題になります。芝生を一番傷めるのはアメフトです。次にラグビー、一番傷めないのはサッカーです。3つの競技を次々に行うことは、芝生にとっては大きな問題です。そこで人工芝の話題が出てきています。このようにコラボレーションで、各協会ともお互いのノウハウを吸収し合っています。
 あとは民間ベースで言えば、ヴィッセル神戸、ウイングスタジアム、マスコミ関係をNPOが巻き込みながら上手くやっているという状況です。NPOの役割は接着剤だと思っています。これがどれだけ上手にできるかがポイントになります。この関係者の中には行政も民間企業もいます。民間企業の中でも施設の提供、物品の供給、資金の援助、マスコミヘのPR等を積極的に行うところもあります。そういう企業の協力も必要です。
 この他に、競技団体やプロチーム、当然ながら市民の力も必要になります。上手にネットワークを作り上げて運営しています。そうすることによって一人一人が参画意識を持てるという特徴があります。コストダウンの効果も期待できます。
 しかし、まとめ役であるNPOの役割の難しさもあります。強力なバックグラウンドを持つ協会もあります。いろいろなしがらみの中でまとめることは非常に難しいところがあります。ここはそういった団体を尊重しながらやっていかなければなりません。そうした難しさも多少あります。
 ビッグイベントになると、事務能力が非常に重要です。力を結集しなければなりません。関係団体の足並みを揃えるために、最初の役割分担とその確認が必要です。何よりも、この事業のミッションを十分に伝えておかなければなりません。
内藤 ありがとうございました。水上先生からはスポーツNPO活動推進ネットワーク構想の提案の補足説明、山田さんには具体的な例を提示いただきました。このセッションは参加者の皆さんと、この構想について意見を出し合おうという場です。早速、皆さんからご意見やご感想をお出しいただきたいと思います。
 
「インターンシップ導入の可能性」
松井 国際障害者武道協会の松井です。国際武道大学の教員を務めています。今、文部科学省のねらいが徐々に変わりつつあり、体育教員を養成するだけでは十分ではないということになってきています。体育系教員の養成機関であった大学が、今後市民社会の中でスポーツ振興を担えるような人材をつくることができるのかが問われ始めています。今日参加されているスポーツNPOの皆さんにお願いしたいことは、学生のインターンシップです。求人票のようなものを私の研究室に送っていただけないかと考えています。ただ、これが恒常的な人材補給をするものではなく、学生が社会に出てから取り組むスポーツ振興の手立てを学ぶ場を欲しています。学生には、資金繰り、危機管理、広報活動を学んでもらいたいと思っています。
 多くのNPOの皆さんも教育機関という意識を少しお持ちかもしれません。インターンシップを行うことができるネットワークを考えており、ご意見をいただきたいと思います。
内藤 ありがとうございます。ネットワークの具体的にやるべきことの一つになると思います。インターンシップの受け入れについてご意見をお願いします。
藤谷 新潟のNPO法人NGKワールドの藤谷です。私たちは柏崎と苗場スキー場の両方で事業を行っています。雪丸ごと体験フェスタ、海丸ごと体験フェスタといったもりです。アウトドアスポーツをメインにしています。
 青少年中心に行ってきましたが、障害者がとても多くなってきています。スキーでボランティアに付いてくる人、スキーが全然できません。いわゆるお弁当を食べて終わってしまいます。海にボランティアで付いてくる人、海で泳げません。今、その改善に取り組んでいますが、指導者の教育養成期間には、そのような人材の養成を期待したいのです。スポーツNPOも人材の育成に力を入れてほしい。そしてこのネットワークには、「だれか助けて」と言ったときに、すぐに「うちは大丈夫だよ」言っていただける方がいれば助かるのではないかと思っています。
内藤 ありがとうございます。そういった具体的な話も当然、このネットワークの中で考えていくべきことです。
水上 松井先生から提案のあった学生のインターンシップ先として、また、学生など人材の教育機関として、NPOが役割を担うことには大賛成です。実際、学生のインターンシップをNPOが受け入れていく事例も出てきているのではないでしょうか。スポーツNPOでもそうした取り組みは歓迎すべきではないかと考えます。
 問題はスポーツNPO側と大学側の姿勢をしっかりと統一しておくことでしょう。大学側も一定の教育をして送り出さなければなりませんが、NPO側も「安価な労働力」と決め付けることがないようにしたいものです。やはり自分たちのスポーツNPO全体を底上げする貴重な次世代を担う人材であるという意識が必要だと思います。トラブルもあるかもしれませんから、そういうリスクに対応できるようスポーツNPO活動推進ネットワークのひとつの事業としては、何かトラブルがあったときにリスク対応の方法についての情報を共同管理しておくことが考えられます。
 
 
内藤 水上先生ありがとうございました。







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