セッション e. 評価
スポーツNPOの事業評価を考える
岸田 眞代氏(NPO法人 パートナーシップ・サポートセンター(PSC)代表理事(事務局長兼務))
コーディネーター:間野 義之(NPO法人 クラブネッツ 理事)
間野 昨年の第2回「スポーツNPOサミット」では、「スポーツNPOの営業活動」を取り上げました。そこではNPOの営業活動として、顧客・会員・社員・ボランティアならびにスポンサーをどう集めるかについて議論をしました。
今年はなかでも企業とのパートナーシップの具体化について、スポーツとは日ごろ全く関係のない活動をされている岸田さんからお話をいただき、その後、意見交換をしたいと思います。実はスポーツ以外のNPOの方が企業とのパートナーシップは進んでいるのです。それでは。
岸田 皆さんこんにちは。名古屋から参りました「パートナーシップ・サポートセンター」の岸田と申します。よろしくお願いいたします。スポーツNPOとは本当に無縁ということをご承知おきいただいたうえで、今日はお話を聞いていただければありがたいと思っています。
といっても、実は私の弟が空手の世界チャンピオンになったこともあり、まったくスポーツとは縁がないわけではありません。けれども、今やっていることは「NPOと企業のパートナーシップを推進する」というNPOですので、直接的にはスポーツNPOとかかわっているわけではございません。
ただ、私たちの所には、もちろんスポーツNPOも会員となってくださっていますし、特にサッカー関係とか、プロでやっている所のある親企業から、「NPOを作りたいんだけれど」といった相談を受けることはあります。
今日は、日本では初めて昨年創設いたしました「パートナーシップ大賞」をもとに、NPOと企業がどう関係を結んでいくのか、その中で新たに社会的な事業を作り出していくのかを具体的な事例を踏まえながらご紹介します。
第1回パートナーシップ大賞「車いすの集配・はこび愛ネット事業」
この大賞は、NPO学会の事務局長である跡田直澄(慶応大学教授)を委員長とし、審査員は私を含めて7人で、各分野の専門家によって最終審査をしました。パートナーシップ大賞の応募事業の分野で見ますと、医療・福祉の関係、環境の関係、街づくりの関係が多いことは多いのですが、文化・スポーツが11パーセントとなっています。これは複合的な事業、福祉ということに限らず、福祉と街づくりというかたちで、こういうものが入っていてということになりますので、昨年の中ではスポーツは多分一つしかなかったと思います。文化はけっこうあったのですが、スポーツに関しては多分一つだけだったと思います。
昨年6月に第1回を行ない、「車いすの集配・はこび愛ネット事業」という、札幌通運と「飛んでけ!車いす」の会というNPO法人の協働事業が「パートナーシップ大賞」を受賞しました。
「車いすの集配・はこび愛ネット事業」の事業主体である「飛んでけ!車いす」の会は98年にできたNPOです。大賞を取ったこの事業は多くの方に大きな感動を与えた事業でもあります。例えば子供が小さい時に使っていた車椅子だとか、電動が主流となって使えなくなった手動車椅子などを、ベトナムやタイなどアジアを中心に車椅子のない国々に送っています。梱包して海外に送るとなれば、かなりのお金がかかるのですが、観光旅行としての学生や通常の海外旅行者に手荷物として持っていっていただくことによってその費用をかけずにできる事業です。海外旅行者は、ただの観光旅行でしかなかったものが、自分が実際に手荷物として運び直接渡すボランティアに変身するわけです。直接渡すことを通じて、そこに「いいことをしたなあ」という思いが生まれます。そうすると、今度はその旅行者が「飛んでけ!車いす」というNPOのボランティアとしてかかわり始めるのです。ここは学生を中心としたNPOでもあり、特に若い人たちにこのような関係ができ、全体としてみんながハッピーな事業になっている点が評価できます。
この活動についての企業との関わりですが、NPOが車椅子を集めてきても保管をする場所がない、あるいはここがちょっと傷付いている、ちょっと動かないというときに修理が必要になってきます。そこで保管場所を探していた時に、メンバーの夫がたまたま知っていた「札幌通運」という会社に目を付けて、電話番号を調べて電話をしました。そこで最初にかけたのが労働組合の方だったのです。札幌通運の労働組合の方に状況を説明して、保管する倉庫を聞いたところから始まりました。
車椅子の運搬は、NPOでもやりますが、札幌通運の従業員がボランティアとして運ぶというところからも始まりました。これが評判を呼び、マスコミでも何回か取り上げられるようになった。とは言いつつも、いつも持ち上げられるのは労働組合ということで、会社全体として取り組むことになりました。社会貢献活動に関心を持っていらっしゃった、元北海道拓殖銀行の方が社長になっており、労働組合から始まりましたけれども、従業員を通じて、あるいは札幌通運という会社全体を通じて一つの協働事業として「飛んでけ!車いす」との事業が成り立っていったということです。
「飛んでけ!車いす」の事務所は、札幌駅から歩いて5分くらいの所にある札幌通運の本社ビルの2階の一角を、月1万円で借りています。現在では札幌通運は、フロアに部屋が空くと、NPOに貸与するなど、非常に社会貢献的な発想が定着しています。このため、すでに12のNPOともかかわっているのです。札幌通運というのは総合物流企業なので、NPOの会員を通じて引っ越しのときとか、宅配のときに札幌通運に頼んだ場合には5パーセントがNPOにバックする仕組みもつくりました。これらにより、札幌通運としても本業での売り上げが年間2千万円くらい伸びてきたそうです。従って企業にとっても単なる社会貢献ではなくて、そういった意味ではお互いにメリットのある事業として協働で行っているというものです。これが第1回の「パートナーシップ大賞」を受賞した大きな理由です。
なぜパートナーシップ大賞なのか
なぜこういった大賞を作ったかということなのですが、企業とNPOの協働の可能性を具体的に示していこうということです。協働の意味とか価値の大切さをアピールすることによって、まさに協働そのものを推進していきたいというのが直接的な目的になっています。具体的には、よい企業という評価基準を、これまでの売上高とか従業員の数とか大きさと競うのではなく、地域との連携やNPOとの連携を視野に入れてほしいということがあります。よい企業は、従業員にとっても誇りになるものです。
NPOから見れば、NPOだけでいろいろ活動しているよりは、企業と協働することによって一回り大きな活動ができる。なおかつ、それが社会的な寄与になり、社会的な自分たちの活動の認知につながるという意味があります。全体的に言っても、組織的な見直しだとか発展につながっていきますし、NPO全体の底上げにもつながっていくだろうという趣旨で、このパートナーシップ大賞を創設しました。
98年のNPO設立当初からパートナーシップ大賞は私の頭の中にはずっとあったのですが、4年間温め続けました。企業もNPOも評価ということに対する非常に抵抗がありまして、最初は「うん」とうなずいてくれず、ようやく昨年できたという背景があります。
パートナーシップ大賞への評価方法
パートナーシップ大賞の選考には、2000年度に日本財団さんから助成金をもらって本を作りましたが、その中に初めてパートナーシップ評価を提起しました。それが、このパートナーシップ大賞にもつながってきているのです。
また、ドラッカー財団(現リーダー・ツー・リーダー・インスティチューション)とも交流があり、そこの協働事業評価を使いました。
昨年の1回目は35件の応募がありまして、その第1次審査としてドラッカー財団の協働事業評価を使いました。35件から11件を選びました。その11件の事業については、北海道から関西までしか行かなかったのですが、調査員を2名以上、複数を派遣して現地の取材・調査を行いました。
最終プレゼンテーションを行っていただく第2次審査は、私たちが作った評価手法のパートナーシップ評価に基づいて、六つの最終プレゼンテーションの団体を選び、そして最後に大賞というかたちで、これは3段階に分ける評価を行ったというかたちになります。
具体的には第1次審査ですが、応募書類の情報に基づいて、ドラッカー財団が出している協働評価の三つのパターンである、「チャリティー型」、「トランザクション型」、「インテグレーション型」に分類します。さらに、AからEの指標に基づきながら、それぞれの事業がどの段階にあるのかということを第1段階、第1審査のところで評価をしました。そして11例を選び、7名の審査委員会で討議をし、11件の事業を第2次現地調査として残しました。
第2次審査は、調査員2名以上による現地取材調査です。1人が勝手に判断するのではなくて複数の目で見て判断しています。なおかつ、NPOと企業がそれぞれ一緒の所だと、示し合わせて評価を高くすることがあってはいけないので、NPOはNPO、企業は企業、別々に時間もずらし、場所もできるだけ変えて、事業責任者にまずは自己申告をしてもらうことにしました。それは評価を自分でやるということを前提にするという意味です。
一般に評価されるというのはみんなあまり好ましくないと思っている人が多いので、まずは自己評価を前提にして、それをチームとして評価を付けていくというやり方を採りました。この評価点には、最終審査の判断材料となるようにコメントを付けました。調査員は、私たちパートナーシップ・サポートセンター内部の行政の人であったり、企業の人であったり、大学の先生であったり、かなり幅広い人たち10人ぐらいでやっています。
これを最終審査の判断材料となるようにして、20項目すべての点数を合計し、NPOと企業の両者合わせて160点満点にして、第2次審査をこの点数によって判断しました。
目標設定、経過、事業結果、インパクトと大きく分けますと、この四つの視点をもって、それぞれ項目ごとに4段階の評価を付けました。それぞれ自分で評価をするということと、私たち調査員が第三者評価するというのも同じ項目で行いました。調査項目の詳しい内容は、「NPOと企業」という本の中にかなり書いてあります。先程の大賞を取った所が何点取ったかも書いてありますので、もしよろしければこんな本を読んでいただければと思います。「NPOと企業」という本です。
最終的には、第2次審査を通過した六つの事例について1事業当たり10分間、企業とNPOが両方合わせて発表していただくということにしました。プレゼンテーションの評価基準としては内容と表現です。よく分かったか、視覚的なものも含めて評価をし、最終評価20点を加えて40点満点で審査を行いました。
「どうせ一緒にやるのだったら楽しくやろうよ」
振り返って見ますと、いろいろ事業としては複合事業といったものであるとか、複数の応募であるとか、1対複数の事業であるとか、NPOが7団体と企業が一つとか、あるいは逆に企業がたくさん、2、3社とNPOが一つというのもあったりします。ただ、NPOと企業の協働事業については始まったばかりであり、実績がないところでの1回目ですから、そういったものもかなり出てきました。
「応募事業から見えたこと」は、企業と何かをやりたいというときでも、恐らく初めはやはり1対1という、人と人との出会いから始まっている、これが結果です。企業とNPOの調査をした時も、担当者の姿勢がトップに来るのです。だから、何かを一緒にやるときというのは、担当している人、その人がどういう人なのかとか、つながりが大きなものを言うと考えていいと思います。
そうはいっても事業として発展させるためには、企業側の組織が必要です。NPOの専門性やノウハウが企業としてもじゅうぶん生かせると思えるときに伸びていくことができます。もちろん、その中にはNPOが主導した事業なのか、企業が主導している事業なのかという違いは極めて重要です。
協働事業の評価ですから、どれだけ対等な関係作りができているかというのをポイントにしています。必ずしも事業規模の大小ではなく実績を重視しました。また、どんなにいい事業をしていても、それを他人に見せるときに熱意が伝わるとか、事業そのものがとても魅力的に思えるとか、そういったことがなければ受け入れてもらえないのです。そういう意味では、応募用紙とかプレゼンテーションを含めて、表現の仕方というものも、今日、草野さんがおっしゃっていたように、どれだけ伝えられるかということだと思います。ここにも評価のポイントにはなっております。
私たちがとても大事にしたのは、「どうせ一緒にやるのだったら楽しくやろうよ」ということと、その中でお互いにどれだけ成長できたのか、お互いに刺激を与えることができたのかといったことです。どんなに小さくてもきらりと光る、何かそこから新しいものが見えてくるとか、今までにないもの、そういった光るものには非常に注目したいと考えています。
したがって、「チャリティー型」は協働事業としての評価は低いのです。チャリティーというのは、一方的に支援を受けるというかたちになるので協働としては低いけれど、NPOとしてはNPOの独自の活動に対する支援なので割と自立性が保てるという特徴はあります。しかし、この評価をどうするかという問題は今後の課題と見ています。
それから、評価をするときの第三者の評価です。事業というのは当事者同士だけではなくて、先程で言うと、海外旅行者であるとか、車椅子の提供者であるとか、実際に受けているベトナムやタイの車椅子を使う人たちとか、こういった人たちの評価をどう入れるかみたいなことも評価の対象にこれから入ってくると思います。
ただし、今年はわれわれ独自のパートナーシップ評価を全面的に採用しています。といいますのは、ドラッカーのレベルまで求めると、かなり難しいというのが昨年の反省としてありまして、私たちの出している評価が一般的に使えそうだということでやっているという段階です。
間野 どうもありがとうございました。岸田さんは、本のなかで、企業が「われわれは営利を目的としている、こんな非営利団体には付き合えない上「こんな厳しいご時世の中でとんでもない」といぅた表現があったことを強烈に書かれています。恐らくフロアの皆さんも、企業と一緒にやってみたいと思いながらも、どこからどうアプローチしていいのか手探りの段階だと思います。
しかし、今回の岸田さんの発表からも、ぶら下がってお金だけもらう、いわゆる「チャリティー型」だけではこの先企業とNPOの発展は難しいのではないかということがありました。「インテグレーション型」まで発展させて、お互いにwin・win、なおかつ社会もwinと、トリプルwinまで見通すことが重要であると。昨年の応募で、スポーツの応募が1件あったけれども落選したようですが、この辺りの理由についてもお聞かせください。
岸田 この本の中には、スポーツに関してははっきり言って全然出てきません。スポーツNPOは確かに一つだけで、車椅子のゼネキン協会さんと、NECとの協働事業の申請がありました。先程申し上げましたように、基本的には第1回目はドラッカー財団の評価を使ったものですから、どのレベルにあるのかということが重点的にとらえられました。したがって、「チャリティー型」の事業は点数が低かったのです。
間野 ドラッカーという人は、企業の経営コンサルタントをやりながら、これからの資本主義社会の行く末は非営利組織、まさに私たちが取り組んでいるNPOがあって初めて、豊かな社会が実現できることを提唱された方ですね。
岸田 そうですね。「チャリティー型」という場合、企業サイドからだとどうしても一方的なチャリティーというかたちになってしまいます。NPOからいうと心理的に企業に対して感謝の気持ちを抱く。ただし、事業そのものは独立していますから、限られた範囲での協働になるのです。ですから、企業がNPOに求める期待は非常に低くなってしまいます。そういった意味での協働の度合いからいうと、それほど高くないというのがあります。
「トランザクション型」は、両方がお互いにそれぞれの目的を持ってメリットを感じているというものです。リーダーのレベルで非常に強いつながりがあるのが特徴です。そういった意味ではお互いに交換できる、リスクは少ないということだと思います。お互い分かり合ってやりましょうということになる。
それらに対して「インテグレーション型」は、第三者にも非常にメリットを感じる、自分たちの当事者だけではなくて第三者にとっても、「これはいいなあ」と思ってもらえるようなものということです。そういった意味では、「私たち」という一体化した考え方が定着し、それぞれが社会に働き掛けていくというところまで踏み込めると思います。札幌通運と「飛んでけ」の場合は、こういう事業だと思います。
間野 「トランザクション型」あるいは「インテグレーション型」に向かうということになると、NPOと似たような目的を持った企業を探すのがポイントになるのではないでしょうか。最初にアンテナを高くして、どの企業にアプローチをかけるべきか、その辺りのノウハウは何かありますか。
岸田 それに関して言うと、「企業とNPOのマッチング意向調査」が参考になります。担当者が近付き合うことが多分一番いいわけで、そこで「担当者の姿勢」を見ることが大切です。
全国でも私たちだけしか、企業とNPOの連携をミッションにしている所はないのです。もちろんNPOの支援センターは全国にたくさんあり、その中で企業との協働も進めようというのは一部にはあるのですけれども、実際には企業と結び付けられるところがないというのが実態だろうと思います。
その面からも、中間支援団体である我々の役割は本当に大きく、私たちは具体的に企業とNPOが結び付けられる場面を設定しています。例えば、NPOの人がパワーポイントなどを使いながら、企業に対してプレゼンテーションをできる場を「企業とNPOのお見合い大作戦」と名付けたり、「アイデア交流会」という名称で様々な機会を提供しています。そこで、例えば環境に興味がある企業は、環境のNPOがプレゼンテーションすると、かなり質問が出てきます。NPOにとっても、このような機会が必要ではないでしょうか。
間野 なるほど。そういう意味で言いますと、今回のNPOサミットのメインテーマである「スポーツ活動推進ネットワーク」は、企業とのマッチング、お見合いの場を作る意図も一部含まれています。このチャンスを皆さんもご活用ください。さて、フロアの皆さんからご意見等をいただけますでしょうか。
後藤 貴重なお話をありがとうございました。スポーツ施設サイエンス三重研究所の後藤と申します。私も含めて多分ここにおられる方の多くがどこかの企業人であり、専従の事務局員という人は少ないと思うのです。企業というと一番身近なのは自分の会社ですけれども、やはりNPO法人で非営利活動という部分で、特定の企業に対してプラスになることは避けたいなという気持ちもあります。例えば先程の札幌通運が収益も上がった。しかし、そのために仕事が減っていった会社があるかもしれません。または、「あそこのNPO団体はあそことしか仲良くしないのだよね」という、そういう面からいくと、単純にお金の面だけで支援を受けて、企業色の付かない支援を受けたほうがクリアかと考えますが、いかがでしょうか。
岸田 そのような心配もあると思います。それぞれのポリシーなので、企業と一緒にやりたくない人はやらなくていいと私は思っています。企業とNPOがお互いに何が得られるのか、それによって当事者だけではなくて社会に何かプラスになる場合にパートナーシップを組めばいいわけです。自分たちがそれによってマイナスになるとか、トータルに考えたうえでそれが決してプラスにならないと思えば、やらなくてもいいと思います。
ちなみに、企業がNPOとかかわる理由は、一つは企業の社会的責任だというのが一番大きく、次にNPOや社会への理解を深める、企業のイメージアップ、従業員の誇りが続いてくるわけです。ですから、企業もメリットを感じるから当然やるわけです。企業だけのためにやるのであればやる必要は全然ないわけです。すでに社会貢献活動というのは全体で6割の企業が実際にしているのです。その社会貢献活動の一つとして、NPOとのかかわりというのがあるのですから。
貴志 東京都立大学の貴志と申します。興味あるお話ありがとうございました。前の質問に通じるのですけれども、NPOというのは、もともと公益性ということが本来の趣旨としてあると思います。そういうときに、ある特定の企業と組むということは公益ではなくて、共益に近いものになる可能性が私はあると思います。そういう意味では、NPOに本来求められる公益性を追求するということであれば、相手は企業よりも「公」いわゆる行政ですね、それから一般市民等との間のパートナーシップということを先に求めるべきではないのか。その辺で企業とのパートナーシップを選ばれた理由等をお聞かせいただければと思います。
岸田 行政とのパートナーシップも、もちろん私たちはやっているので、何ら否定はしません。しかし、行政との関係は、むしろ行政というのは税金によって行っていますからかなり制約される部分があると思うのです。企業は売り上げをどう使うかというのは自由ですね。それを社会のために役立ててもらうということですから、それこそ企業の思うようなというか、よい企業であればいい使い方ができると思っています。
そもそもNPOにとっての公益性は法人の性質からして当然なのですけれども、もちろん共益が入ったって構わない。行政か企業か、どちらが先ということではなくて、どういう内容のものが広がっていくのかという中身によって問われる問題ではないかと思います。
なおかつもう一つだけ言っておくと、企業も公的な存在です。製品やサービスが反社会的であれば企業だってつぶれていくわけで、公的な役割を担っているという意味では、決して行政だけの役割ではない。NPOも公的な役割を担うし、企業も公的な役割はある部分では担っていると私自身は考えています。
間野 何となく今の話を聞くと、スポーツ界全体のアマチュアリズムがスポーツ組織の運営にも影響しているように感じました。本来税金で賄うべき福祉などの他分野のほうが、企業とどんどんパートナーシップで組んでいて、自由な企業活動に合うスポーツのほうがむしろ遠慮してしまっているという、何か逆転現象が起きているのではないでしょうか。これはアマチュアリズムとか、スポーツマンシップとか、そういうものが組織運営に染み出てきているという印象を持ちました。最後に、お一人どうぞ。
篠崎 「日本を泳ごう委員会」の事務局としては、NPOを存続問題として収入面が喫緊の課題です。現実には企業と個々のつながりがないから、どうやってアプローチをするかが一番の問題です。収入の面から言えば、エントリー料収入、企業の協賛金、自治体の補助金もちょうだいしたい。しかし、いわゆる基本的にコネがない、どこの企業に、どこにどういうかたちでアプローチすればいいのか、アクションプランの段階でヒントを与えていただきたい。
間野 個別性があると思いますが、何か一般的なアドバイスがあれば。
岸田 私たちも同じように悩んでいます。私たちも必ずしもお金があってやっているわけではなくて、協賛金を集めながら「パートナーシップ大賞」も出しているのです。正直言って、企業の協賛というのはなかなか集まりません。そういう意味では皆さんと全く同じです。
ただ、実は昨日も、自動車会社がNPOと協働事業をこれから進めていくのをトップにどうやって説得していくかという相談に、うちに来ているわけです。大事なことは、どこかで本業にかかわること。相手の企業の本業にいろいろなかたちでかかわる部分、「ここだったら一緒にできますよ」、「ここだったら何か両方にメリットが出ますよ」という何かそれを見つけることです。
どの企業も、そう簡単にお金は出しませんが、関係作りの第一歩は人ですから、話を聞いてくれる人を見つけていくということしかないかと思います。
間野 どうもありがとうございました。岸田さんの言葉を最後のまとめにさせていただければと思います。
岸田 どうもありがとうございました。(拍手)
|