日本財団 図書館


「スポーツNPOにおける雇用の可能性」
佐藤  ジャーナリストの佐藤です。農林水産業の収入等を調べると、後継者不足の状況にもかかわらず、年間8万人程度の新規就農者がいます。その要因として、就農者に対する住宅補助等の制度が整っていることがあげられます。
 しかし、スポーツNPOには、十分な体制が整っていないことから、NPOに参加していて、生活費が賄うことができないのが現状ではないでしょうか。
 今、公務員は全国で340万人ぐらいいますが、公務員の削減によって、全体的に施設の管理といった方向へ流れることが予想されます。その様な人々を吸収して、応援団として仕掛けることもできるのではないでしょうか。そういう事例を少しずつ作っていくことが必要ではないかと思います。今農林水産業は暗い反面、盛り返している部分もあるので、そういうことが言えるのではないでしょうか。
内藤  ありがとうございます。論点は雇用というところにあると思いますが、実際に神戸アスリートタウンクラブでは常勤スタッフがいますが、その点についてご意見はないですか。
山田  まさに今ご指摘されたとおりです。これは、このネットワークの最大の課題であり、このネットワークの理念だと思っています。ご指摘の通り、今はそのような成熟したNPOはないというのが、皆さん一致する意見だと思います。
 神戸アスリートタウンクラブでは、常勤スタッフが1人います。彼は大阪体育大学の修士課程を修了して、昨年当クラブに就職しました。非常に勇気のある人間です。本人はやはり将来的にはこの世界のパイオニアになりたいという意思を持っています。当然、お金という部分もありますが、+αのポリシーも持ちながら、今は毎日大車輪で頑張ってくれています。
 これから我々にとって追い風になるのは、やはり地方自治法の改正だと思います。今国では民間活力を積極的に導入しています。公共施設の運営に関しても、今までは必ず地方公共団体が出資している法人で政令に定めるものにしか委託することができなかったため、一旦受け皿となる外郭団体へ委託して、それから民間企業やNPO等へ再委託をするということになっていました。
 しかし、地方自治法の改正により、地方公共団体は直接民間企業やNPO等に委託することができるようになるのです。そうなると、民間企業がどのような形で参入するのか、興味深いところです。
 そのときに純民間企業とNPOの違いは、公共性を担保できる点です。我々NPOは、その利益をいかに上手に還元できるか、その点が問われることになると思います。障害者や高齢者といったハンディキャップを持つ方へのケア、これからの子供の教育等に利益を配分できるスキームを作っていければ、NPOに委託するメリットがあるものと思います。
 そのような事例を一つ一つ洗い出していくことから始めなければなりません。このネットワークの具体的な事業になると思います。
内藤  ありがとうございます。
小野崎 浦和スポーツクラブの小野崎です。今、学生と施設の話がありましたが、それに関連してお話します。今私どもでは、週に1回、子供たちを対象にサッカー広場という事業を人工芝の素晴らしいグラウンドで行っています。行政が4時間の枠を優先的に使わせてくれています。スポーツ施設が空いている昼間の時間帯は、社会人は子どもの相手はできません。
 そこで、埼玉大学サッカー部の学生に来てもらい、300人の子供達に指導してもらっています。1カ月2千円の会費を集め、学生には4時間で6千円の謝礼を支払っています。
 一方、1時間500円の時給を得るために、その施設の管理者はボーっとしているのです。その施設の管理も学生がやることになれば、本来行政でかかっていた金がそっくり学生に渡ると共に、さらに事業を行うことで、300人の会費60万円が月々収入として入ることになります。たった週1回4時間でそれくらいのものになります。スポーツをするうえでは施設が欠かせませんが、現状、その管理を事業を実施しているスポーツNPOとは全く別の団体がやっているところに、スポーツNPOが食べていくためのキーワードがあるのではないかと感じています。
 それと、社会人が動けない時間帯は施設も空いている上、子供やおじいちゃん、おばあちゃんの活動時間帯でもあるので、うまく学生たちに任せていくことで、何かできるのではないかと考えています。
内藤  ありがとうございます。雇用の問題というのは、スポーツの分野だけではなく、全分野でも大きな悩みだと思います。スポーツらしい委託の受け方といったものがあると思いますが、そのようなこともこのネットワークで考えていければいいと思っております。
松井  静岡大学の松井です。NPO法人ピュアスポーツクラブです。今回すごく勉強になったことは「ウイルス」の問題という公益的な活動ということが一つ、それから若い人の力をどのように社会の中に活かせるシステムを作るかということです。
 やはり大学でスポーツ関係の勉強をしてきた若者の力を活かす場所がありません。しっかりと出口(活躍の場)を作ってあげられないということが非常に問題であり、そこを作りたいということで活動を始めています。
 雇用の問題で、就職するということは、「なりわい」にならなければいけません。自分のやりたいことをやりたいという学生がほとんどですが、なりわいにはならないということで、それをあきらめてしまう。働いて、しかも自分が生きがいを感じながら自分の生活もしっかりできるというようなことを作り出さなければいけないと思います。
 大学では特に自然科学系の研究者がすごく多いのですが、管理、運営、経営のほうが、スポーツの分野では国内需要が絶対にあると思います。本サミットの基盤整備のセッションではソフトの面がテーマにされていましたが、この部分は絶対に需要があることを信じながらやっていかなければ、このNPOの流れがどこかで崩れていってしまうのではないかと危惧しています。無理しても雇用を創出して、豊かな環境を作り出すことが必要ではないかと思っています。
内藤  ありがとうございます。
 
「収入のビジネスモデル」
田尻 北海道バーバリアンズの田尻です。今日話を聞いていて、すごく違和感があります。雇用の創出というのは話としては非常にいいのですが、皆さん、どういう訳かインカム(収入)の部分を全然話さない。収入がなくて雇用が成り立つわけがないと思うのです。私は山田さんにお聞きしたいのですが、例えば募集パンフレットを作る費用は、誰がお金を出すのでしょうか。この辺のところのビジネスモデルをきちっと確立しないことには、成り立たないのではないでしょうか。
 私は、13時から行われた人材のセッションの広瀬さんの話についても非常に違和感がありました。彼が最初に言った、企業スポーツと学校体育の問題についてはほぼ話し尽くされた話ですし、皆さん分かっていると思います。それをNPOや社団に落とし込んだときに、活動を維持するための資金繰りはどのように確保されているのかを、全然語られないまま話をしても少し変ではないかと思います。
 私たちのクラブの収入はラグビー協会からの補助金と会費収入です。とても人を雇えるような収入ではありません。遠征費もクラブのメンバーが年間大体1人10万円ぐらい捻出します。
 私は一度Jリーグ28チームのホームタウン構想の委員会で話したことがありましたが、彼らはもっと積極的でいかにスポンサー企業をどうやって見つけるのかというところから入っているのです。その点が、今社会的にも構造的にも日本と外国との違いではないかという感じがしています。収入を得るためのビジネスモデルを作るための議論と方法を広瀬さんに教えていただきたいと思っています。
 私たちは非常に苦労してやっているので、まるで評論家のように言われると非常にむかついて「何言ってやがるんだ」という感じで聞いていました。もう少し雇用の創出という話になるのであれば、維持するためのインカムをどうするかというところの議論をしなければ、NPOは続けられないのではないでしょうか。今1,300あるスポーツNPOが、300団体に淘汰されるのだと言うのは勝手ですが、そこで必死になってやっている人たちのことを思ったら、「よくぞあんなこと言えるね」と思いました。
 今まではスポーツを学校や企業が支えていたのですが、実際そこが衰退してしまえば、もうスポンサーになることはないでしょう。どういう形であればスポンサーになっていただけるかどうか。そういうモデルを作らないとこれからは続けられないだろうと思います。
 今日の議論も、ネットワーク作りの話の中でぜひ僕が知りたいのは、財政的な支援や収入をどのように得るかということです。私のクラブでは、PT(Physical Therapist=理学療法士)を育成する専門学校との連携、指導者を育てるための議論はやっています。だけどやはり資金がないのです。資金を得るために企業からどういう形で寄付してもらうか、あるいは資金を続けていただけるかという仕組みを考えなければなりません。
 例えば、NPO法成立時に、寄付金に対する免税措置という話がすごく盛り上がりました。私は期待したのですが、なかなかそういう動きになりませんでした。寄付する企業も免税措置がないので動きません。国も必死になってやらないと、いつまでたっても国がスポーツにコストをかけていかなければならない状況になっていくのではないかと思っています。
 このネットワークづくりでは、そういった点やデータベース化とNPOの類型化をぜひやっていただきたいと思っています。
内藤 ありがとうございます。まずは、山田さん、募集パンフレットの印刷費について教えていただけないでしょうか。
山田 これに関してはやはり行政の補助金がほとんどです。2002年のサッカーのワールドカップの1周年記念事業の補助金を受けて実施しています。
 今回もいろいろなチラシを10万部程度印刷して配るのですが、それに対しては今のところ2、3社しか協賛は得ておりません。
内藤 では、このネットワークの中での財源確保についてどのように取り組むかということについては、水上先生いかがでしょうか。
水上 往々にして多いのは「あれはサッカーだからお金がもらえるのだ」「あれは神戸だから、震災都市だから付くのだよ」というように解釈してしまいます。そうではなくて、どういう人間関係とビジネスモデルが成立して、どういう意思決定とお金の流れがあったのかという点を明らかにして、徹底した分析を行うことですね。
 たとえばスポーツNPOで紹介された実例を、個別ケースとして掘り下げて分析できるだけでも相当な蓄積データとなり、政策担当者に対する説得の材料として提示できるのではないかと思っています。
内藤 水上先生の提案の中に「雇用創出と財源供給」という言葉がありますが、この点が田尻さんが指摘されたインカムの部分で、まだ具体的なビジネスモデルをご提示できる段階ではありませんが、今後検討すべき課題だと思います。
田尻 研究者や学校の先生方にお願いしたいのですが、寄付金に対する免税措置について、外国での事例、それに対する国民の意識、企業の費用対効果などを、企業や政府などに呼びかけて、ぜひ整理していただきたい。
 その地方分権の意識、ロイヤルティーやアイデンティティーの醸成に非常に効果があるということを訴え掛けるネットワークにしていただきたいと思います。
 現場でやっていると、そこまで考えたり、勉強したりすることができないので、学識経験者がスポーツNPOを支えるための資金作りのモデルを作ったらいいではないでしょうか。そのモデルを作らなければ、文部科学省がいくら総合型地域スポーツクラブを作ったとしても、いつまでも行政に依存したかたちでしかあり得ないような形態になってしまうのではないかという提言をしていただきたい。
 それに乗ったかたちで私たちも行動する。それでネットワークを支える。今ネットワーク構想の提案があったので、みんなで支えていくというかたちになっていかないものでしょうか。
内藤 政策提言的な要素だと思います。水上先生いかがですか。
水上 全くその通りです。資金繰りについての課題をそれぞれ持ち出していかなければいけない時期にあるのだろうと思っています。
 最初、このネットワーク構想の素案が出てきた時に、我々が知って学ぶ場がまだ決定的に不足しているのではないかという意見も出されました。具体的なものは北海道で勉強会、東北で一つの協議会を設置するという話も出ていました。既に大阪では、府の施設管理の受託のための勉強会がスタートしています。まずはどういう勉強をすればいいのかというところからのスタートです。何を勉強すればいいのかも分からない。それこそ、このネットワークを通じて勉強すべき点の情報が流れればいいと思っています。
佐藤 例えば7月、8月の夏の間だけ活躍するライフセービングと、冬しかできないスキーがコラボレーションして、人材交流していくことは本ネットワークの事業として可能性があると思います。
 それと、昼間お客さんを呼ぶために、お風呂を作って住民の方に利用してもらい、その収入をクラブ運営費に充てるといったように、もう少し広い視野で経営を考えていくべきではないでしょうか。
 ある所では近くにゴルフ練習場でお父さんたちのレッスンをして稼ぎ、それを子供たちに回すなど、いろいろな組み合わせを考えています。お金を取れるところから取って、取れないところには安くする。もう少しメリハリをつけた経営をやるというのが一つのやり方ではないかと思います。
 寄付の話ですが、確かアメリカでは年間の寄付が昨年度、日本円にして4兆円と言っていました。だから、まずはお金がなければくださいと言って頭を下げる。スポーツ関係者の人は頭を下げられない人が多いので、やはりお金をもらうときは下げて、くださいと言うことからまず始まると、寄付に関しては考えたらいいと思います。
 先程、税制も含めて世の中を変えていく、自分たちにとって有利になるように変えていくには、やはりこれはスポーツと政治は別というふうなことを言う方が依然として多いのですけど、政治を切り離しては論議できません。税制改革を進めるにも、自分たちがロビー活動をして、自分たちに有利に働いてくれる人を支援することを考えていかないと、世の中を変えられないというのが日本の現実だと思います。
内藤 では、最後の質問でお願いします。
藤本 笹川スポーツ財団の藤本です。私が関わっているNPOでは、茅ヶ崎市の運営委託を年間300万円で受けています。
 地方自治法が6月に改正になり、民間事業者に直接公共施設の管理運営委託ができるようになりました。民間ということで、当然NPOも入ります。今までは運営委託はできても管理委託はできないということになっていました。茅ヶ崎市は早速条例改正をして、来年6月から運営管理委託も我々にするとのことで、条例の改正を12月あるいは2月の議会で通すことです。
 我々としては運営委託だけで十分、管理委託をするだけの組織力がありません。今常勤で1人、非常勤で2人雇っています。管理委託を受けたら、その建物の植木等全部を我々がやることになり、何人かを雇用する必要があります。風が吹いてきているようなのですが、それに対応できるほど、NPOの足腰はまだ強くなっていないと思います。
 私のNPOでは、企業が10万円の寄付をして、免税措置というところまでいきません。例えば1千万の寄付があれば、免税措置が適用になることも考えられますが、しかし、大きい所から多額に受け取っても、それがなくなった場合、今度は立ちいかなくなります。我々は1口10万円、多くて5口まで、それ以上は受け取らないというポリシーを守っています。
 経営というのはマネジメントをしっかりとできる人が本当にそこにいるのかどうか。そしてマネジメントできる人がフルタイムでいられるのか。やはりNPOの力を蓄えることをどういうふうにやっていくのか。これは企業と全く同じではないかと思います。それをネットワークで研鑚していく方法を作っていただければと思います。
 
「ネットワークのゴール」
内藤 少々ネットワークという言葉が独り歩きしているようですが、我々はネットワークを作ることが最終目的ではありません。最終ゴールが設定されて、その手段としてネットワークを組織していこうというものです。最後に水上先生からその最終ゴールをご提示いただき、そこからネットワークでの事業を考えていこうと思います。
水上 スポーツNPO活動推進ネットワーク構想のゴールは、新しい公共像ではないかと思います。これまで公と民の二項対立図式で物事を判断したり、制度もそうなっていました。その間にスポーツNPOという中間組織が出てきた。その中間組織が今後、これまでの公や民が培ってきた仕組みなり制度なりをどう転換させていくのか、どう変えていくのかということがこのネットワークのゴールだろうと思っています。
 しかし、この提案をしながら大変なジレンマを感じているのも事実です。それは個々のレベルでの活動が非常に多様化しているということが原因です。このジレンマを克服するには、サミットにお集まりいただくことはもちろんですが、自分が在住し活動する圏域におけるスポーツNPO間の小さなつながりがまず必要ではないかと思います。それを勉強会、学習機会というかたちで表現しました。それこそ最初のネットワークだと思います。明確なゴールをご提示できないというジレンマを抱えていますが、このように皆さんが年に1回集まって大いに情報交換をすることをまずは第一歩にしていきたいと考えています。
内藤 はい、ありがとうございます。今日は皆さんにスポーツNPO活動推進ネットワークを提案しました。これから検討を始める段階であり、今日はその第1日目ということでご理解ください。
 ぜひとも事務局にご意見をお寄せいただければ、取り入れて考えていきたいと思います。どうもありがとうございました。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION