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スポーツマネジメントスクール
 東京大学の運動会というところでスポーツマネジメントスクールを始めました。スポーツ界の方たちが80数名集まりましたが、この人たちがそういう興味を持ってくれているということの驚きです。それはスポーツ界の方たちがもしかして知らなかったかもしれない。前線で戦っている相当優秀な人材が、スポーツ界のためになるなら「一肌脱いでいいよ」、「年収半分でもいいよ」と言う人は少なくありません。
 「ああ、やっとこういう例が出てきたな」と、これはまだ発表の段階ではないのですが、言ってしまいます。そういう若い人が安定を捨てて、そういうナレッジを求めたい、あるいはそういうジョブを求めたいときに、今までは選択肢はアメリカのMBAしか見えていなかったのです。みんなアメリカのMBAでスポーツのマーケティングだとかマネジメントだとかを勉強して帰ってくる。では、それで「仕事がありますか」となると、ない。
 「これはやばいな」と思っていましたが、ひとり某在京、プロ野球チームに内定しました。それは相当やる気のある人間でした。ある東証一部上場会社の社長室を辞めた人間です。彼は3年で辞めて、アメリカに行って2年で帰ってきましたけど、先々週採用する側と採用された本人と両方から電話が来まして、「決まりました」と。こういう例をたくさん作っていくのです。
 多分私のスクールはジョブのマッチングもします。今非常に面白いのは80数名の間でメーリングリストです。そこでのナレッジシェアはまさにこれかというぐらいです。その80数名のすでに仕事をされている方、その中の半分ちょうとぐらいが実際にスポーツ等の中で仕事されている。その方たちに、「こういう問題がある」と、あるいは「こんなことが知りたい」と言うと、48時間ぐらいの間に10本ぐらいメールが入ってきます。
 受講している80数名の中で実は自分の会社でリクルートしたい、その人間を探しに来たという人もいます。また外部からも、そのスクールからめぼしい人材がいたら紹介してほしいというケースもあります。従って、ジョブマッチングもそこでやろうと考えているわけです。当然、その前にインターンシップのサービスも考えています。
 
マネジメントはロジックである
 何度も申し上げますが、マネジメントは成果を定義することから始めます。成果を定義することによってマネジメントが定義される。ただ、それではちょっと抽象的ですから、一番分かりやすいのはステークホルダーを定義することです。例えばファンはステークホルダーです。スポンサーもステークホルダーです。あるいはもし施設を使うのであったら、施設の管理をしている人もステークホルダーです。そこの施設で飲料水を売っているベンダーさんもステークホルダーです。
 そういうステークホルダーを全部並べてみて、それをグルーピングして、そのそれぞれと自分とはどういう関係を持つのかという関係性を整理してみる。その関係性の中には必ず成果があるはずです。どういう関係か、それが発揮されないとそれは成果にならない。その成果を並べたあとに、今度はプライオリティーを付ける。それを全部一遍にやろうというのは難しい。というか、ほとんどそれは戦略にはなりません。何かを捨てない限り戦略にはならないので、プライオリティーを付ける。その作業をやってくると、実は何をやらないといけないかが見えてくるのです。
 マネジメントを定義しても意味がないと言う人もいますが、ではあなたは定義したことありますか。定義した結果どういうことだった、それに基づいてマネジメントの定義に意味があるかどうかを議論する。それが大事なのですが、そういう定義しても意味がないという、そこに象徴されているように、情緒的にものごとを判断するというのはマネジメントの対極にあることです。マネジメントはロジックです、論理です、好き嫌いではありません。
 
「誰が」ではなく、「何が」正しいか
 組織の中で「あいつが言っているから採用する」というようなことがありますね。これはマネジメントの対極です。ドラッカーが一番強調している中の一つです。「何が正しいかを判断せよ、誰が正しいかを判断するな」。これもドラッカーが言っていますが、だからマネジメントはロジックです。人間ではないのです。
 ここで外部だということを忘れないでください。今日はこれだけ言わなければいけないと思ったのは、昨年このサミットのあとに何人かの方から名刺交換をされて、いろいろな話を聞いたのですが、「なんでそんなのNPOにするの」というのがいくつかあったのです。どういうことかというと「スポーツNPOでみんなで集まってうれしいね」「集まるだけで素晴らしいね」と考える。それならNPOはやめたほうがいい。
 組織を作るというのは外部に対して何かの成果を出すということで、そうでない限りNPOにする必要がない。あるいは、成果を出さなければマネジメントは不要なのです。成果が必要だからマネジメントをするわけで、外部ではなくて内部で集まることが素晴らしいというのは、これはもうマネジメントは不要だと思ってくださいという意味です。
 
30人で戦略会議?
 もう一つ、例えば理事が10人いたとしましょう。それ以外に20人いて、計30人いる。30人で戦略を考えていてはいけない。まあ、基本は3人です。某プロ競技団体から「これから戦略を作りますので、委員として来てください」と言われて行きました。行った瞬間に戦略ができるわけがないと思いました。30人の組織で戦略会議に20人来ていましたから。
 戦略というのは非定型なのです。ルーチンの定型の仕事と非定型の仕事とを分ける必要があります。そこはみんなで仲良くやりましょうとか、コンセンサスでやりましょうというのは訳が違う。
 スポーツNPOのプレゼンスを皆さんが示すのであれば、その逆のケースをつぶさなくては駄目です。できるところとできないところを差別化させない限り駄目です。できるところは、1000の中に300もあればいいのではないですか。300できるというところがはっきりしたときに初めてスポーツNPOのプレゼンスが分かると思います。玉石混交のままだとなかなか分かりづらいと思います。
 なぜこの話をしているかというと、マネジメントは30人の組織の中で30人がやることではないのです。特にゼネラルマネジメントはそうです。実際に非定型の問題が起こったときに対応するというのがマネジメントの一番重要な問題で、プロのマネジメントとアマのマネジメントを分ける最大のポイントはリスクマネジメントです。リスクマネジメントという概念があるかという問題と、リスクが発生したときにどういうふうに対処するかというのがプロとアマの差だと私は思っています。
 ということは、実際にリスクが起こったときにリスクに対処するためのトップのマネジメントがそこに集中するために時間とエネルギーを留保しておかなければ駄目なのです。常に目先のことしかやってないというと、起こった瞬間にリスクをマネジメントできないのです。定型の問題と非定型の問題を分けておく。定型の問題は効率でいいですから、効率でどんどんやっていく。「判断してほしい」と言う人には判断をさせるだけの余裕を持たせないと駄目です。一律で考えたら、これはマネジメントできません。戦略も作れません。
 一般に、「やる気」と「能力」のある人が成果を出します。「やる気」と「能力」という2本の座標軸を直角に交わらせるとマトリックスができます。世の中的には、この2次元の座標平面上でプラス・プラスがもちろんベストなのですが、マイナス・マイナスが実はワーストでないことに気付いたのです。
 やる気があって能力のない人=(+、−)のほうが、やる気も能力もない人=(−、−)よりも世の中的には迷惑なのです。今2次元で考えましたけど、最近3次元で考えるようにしています。するとさらに分かりやすい。3つ目は裁量権です。プラス・プラス・プラスがベストなのですけれども、最悪なのは、・・・もう言わなくてもいいですね。・・・、そういうことです。
 
情報力は「人脈」
 では、その「能力」どうするか。スポーツの場合、「できないと言った瞬間に伸びが止まるぞ」と言いますね、「頑張れよ」と頑張らせます。マネジメントはそれはやめてください。できないことをやっては駄目です。マネジメント能力というのはもう一つの能力があるのです。できる人を連れてくるということです。できる人を連れてくる能力とは何かというと情報力です。誰がどういう能力を持っている、その人はどこにいるかということを持ってくる能力。
 アメリカに「マネジメント」というこんな分厚い本がありまして、ゼネラルマナジメントの所だけを見たら、「ゼネラルマネジメントあるいはゼネラルマネジャーの第一に要請される能力は情報力」と書いてある。さらに言ってしまうと、実はそれは人脈だと書いてある。アメリカでもそうです。人脈をどれだけ作るか。できない人がやっては駄目、できる人を連れてくる。これこそがゼネラルマネジメントだというようなことが書いてありました。
 清家さんから「目からうろこ」と言われて、今日はすごく温和な話をするつもりが、目からうろこでなくて、「目にかさぶた」を作らしてしまったような話で大変恐縮なのですが、一応これで終わらせていただきたいと思います。
 
●質疑応答
清家 ありがとうございます。少し質疑応答の時間があります。
広瀬 すみません。一つだけ付け加えなければいけない。2年前から経済産業省情報政策局サービス課がスポーツのIT化というプロジェクトを始めたのです。昨年それを作って、今年の予算でそれをグローバルオープンする。つまりどういうことかというと、スポーツの情報をマッチングさせるサイトを国の予算で作る。ただし民業を圧迫しないように、できたときに1年後ないし2年後に払い下げてしまう。初期投資を民間で負担するのは大変なので、官で始めるということです。
 これが成功して、本当は今年の6月に予算が付いて7月から稼動するはずだったのですが、やっと10月末に予算化することが分かりました。11月にグローバルオープンします。これは経済産業省でお金を出しますので、皆さんは無料で利用できます。ぜひお心に留めておいてください。
清家 広瀬さんのお話の中で、要はマネジメントを変えようと思ったら人を代えろと。となると、今携わっている人たちが俺たちではないほうがいいのだなということもありますね(笑)。
広瀬 いえ、いえ、そんなことは言っていません。人を代えろというのは、その人が変わるというのも人を代えることです。というのは、今までの状況の中で、5年前であれば、私がこんな話をしたときに多分聞きに来る聴衆は3人でしょうね。ということは、もう変わってきているわけです。次は、じゃあマネジメントって何なのだという定義を皆さんお知りになって、「そこは俺はできる」、「私はできません」ということが分かる。今はそういう状況なのです。分からないところについては、できる人を持ってくればいいという話なのです。
 今だってできるかどうか分からないのです。できないのであれば辞めてくださいという話であって、できるかどうか分からない状況で、今いる皆さんに辞めてくださいなんて、そんなことは言えません。
清家 少し安心した(笑)。はい、そちらの方。
佐藤 ジャーナリストの佐藤と言います。ステークホルダーの整理をしていく中で、行政というのがどうしても出てくるのですが、行政とNPOの関係において、どちらかといえば行政はマイナスのほうにしか引っ張らないので、その点、新しい時代にどう捉えていけばよいのか。
広瀬 今、スポーツNPOと行政との関係で、一番大きな影響を与えそうなファクターは何かと見ています。三位一体の改革です。
 どういうことかと言うと、地方自治体が小さな政府になっていこうということで、サービスのアウトソーシングが始まるのですが、アウトソーシングの受け皿には中間法人やエージェントなど新しい形態が出てくる。それがニュー・パブリック・マネジメントということです。いくつかのキーワードを私は言っています。分からない方はこれが終わったあとに本を買って読んでください。そこが分からないと今後のNPOのマネジメントは厳しいと思います。
 逆に昨年から私が言っているように、NPOはどういうエージェントになるの、どういう中間法人になるのか、あるいはニュー・パブリック・マネジメントの受け皿にどうなるのかと見たら、これは強い。なぜかと言うと、行政が悩んでいる。行政が悩んでいるのだから、ニュー・パブリック・マネジメントの中で私のNPOは今の公的なサービスをこのように受け皿にしてあげる。だけれどアウトソーシングする場合に問題があるでしょう。
 一つのベンチマークとして、アメリカの場合、政権が交代したときにスタッフ全部が変わります。そうすると今まで政策を決めていた人間が、今度は政策を外からアウトソーシングする受け皿になるのです。そういう人は、どういうふうな企画書を書くとその省庁にどういう稟議書が回るかということを解する人です。だから、民と官がうまい具合にまわる。
 ニュー・パブリック・マネジメント、分かってください。今の三位一体改革、分かってください。行政はなんであなたたちに頼めないのかということが分かったうえで、そこをこうやって担保しますよということまで含めた企画書ができるなら、私が担当者だったら、やってみたいと思いますね。
 三位一体改革でどうなるか。自治体の行政の人間は減る、転籍するということです。その転籍先に皆さんのNPO法人がなれるかということです。だったらサービスのアウトソーシングはできます。逆にそれをしないともう自治体がもたない。そういうことです。
清家 はい、ぴったり時間です。本当はもう少しお話を聞きたいのですけれども、時間が厳しいので、これで終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
 







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