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■セッション e. 評価
スポーツNPOの事業評価を考える
 スポーツNPOは営利が目的ではありませんが、事業の成果は、企業と同様に定量的または定性的に明らかにする必要があります。本セッションでは、スポーツNPOの具体的な事業評価について考えると同時に、評価結果を受けて、さらにモチベーションを向上させる方策について、表彰制度の事例紹介をもとに、今後のスポーツNPO大賞などの可能性を探りました。
 
 
岸田 眞代氏(NPO法人 パートナーシップ・サポートセンター(PSC)代表理事(事務局長兼務))
 
 
 フリーの新聞雑誌記者、経営コンサルタント会社等を経て(有)ヒューマンネット・あい設立。「リーダーに求められる要件・能力200問(自己分析)」を開発し、同時に産能大学社会人研修講師となる。人材派遣会社の責任者等を兼任。93年NPOと出会い、市民ファーラム21設立にかかわり、98年PSC設立。2000年「パートナーシップ評価」発表。2002年には「パートナーシップ大賞」を創設した。著書は「NPOと企業 協働へのチャレンジ」(同文舘出版 2003.3)他多数。
 
コーディネーター 間野 義之(NPO法人 クラブネッツ 理事)
 
<要約>
 昨年、日本で初めて創設した「パートナーシップ大賞」をもとに、NPOと企業がどう関係を結んでいくのか、その中で新たに社会的事業を作り出す具体的な方法について検討した。
 第1回パートナーシップ大賞「車いすの集配・はこび愛ネット事業」は、札幌の札幌通運とNPO法人「飛んでけ!車いすの会」との協働事業であった。これは中古の各種車椅子を、NPOが収集し、企業が保管し、旅行者が手荷物として機内に持ち込みベトナムやタイなどに搬送する仕組みである。
 これを契機に札幌通運はNPOへの理解を深め、本社ビルの一角を、月1万円でNPOに貸与するなど、現在は12のNPO法人とパートナーシップを推進している。社会的認知度の向上やNPOの会員を通じて引っ越しを札幌通運に依頼した場合にNPOに5パーセントが手数料として支払われることも手伝って、本業での売り上げが年間2千万円くらい伸びてきた。その結果、お互いに現実的なメリットのある事業となっている。NPOにとっても企業との協働によって、NPO単体の活動より一回り大きな活動に発展させることができ、また自分たちの活動の社会的認知度の向上につながる。
 パートナーシップ大賞の選考には、独自のパートナーシップ評価とドラッカー財団(現リーダー・ツー・リーダー・インスティチューション)の協働事業評価を使用した。応募書類の情報に基づいて、ドラッカー財団が出している協働評価の三つのパターンである、「チャリティー型」、「トランザクション型」、「インテグレーション型」に分類したうえで評価を行った。
 「チャリティー型」は企業サイドからの一方的になるため協働事業としての評価は低い。事業そのものは独立しており、限られた範囲での協働になる。企業がNPOに求める期待は非常に低く、協働の度合いは高くない。
 「トランザクション型」は、双方がそれぞれの目的を持ってメリットを感じることができる。リーダーのレベルで非常に強いつながりがあるのが特徴である。そういった意味ではお互いに交換でき、リスクは少ない。
 それらに対して「インテグレーション型」は、第三者にもメリットを提供することができる。第三者にとっても、「これはいいなあ」と思ってもらえるような事業ということ。これは「私たち」という一体化した考え方が定着し、それぞれが社会に働き掛けていくというところまで踏み込める。札幌通運と「飛んでけ」は「インテグレーション型」であり、評価が高い。
 このように第三者の評価も重要である。事業は当事者同士だけではなくて、海外旅行者、車椅子の提供者、実際にベトナムやタイの車椅子を使う人たちの評価が重要である。
 今後、「トランザクション型」から「インテグレーション型」に向かうということになると、NPOと似たような目的を持った企業を探すのがポイントになる。NPO単体で企業との協働を進めるのは難しいことから、中間支援団体を活用することが重要である。「企業とNPOのお見合い大作戦」、「アイデア交流会」などの機会を探し、そこに参加することから始めてはどうか。
 NPO法人としては特定の企業に対してプラスになることは避け、単純にお金の面だけで支援を受けて、企業色の付かない支援を受けたほうがクリアとの考え方もあるが、「チャリティ型」は長続きしない。ギブ&テイクの関係構築がある「トランザクション型」や「インテグレーション型」のパートナーシップが持続の秘訣である。
 スポーツ界では、アマチュアリズムが組織運営にも影響しているようだ。本来税金で賄うべき福祉などの他分野のほうが、企業とのパートナーシップに積極的であり、自由な企業活動に合うスポーツのほうがむしろ遠慮してしまっているという逆転現象が起きている。
 大事なことは、どこかで企業の本業にかかわること。本業にいろいろなかたちでかかわる部分、「ここだったら一緒にできますよ」、「ここだったら何か両方にメリットが出ますよ」という何かそれを見つけること。どの企業も、そう簡単にお金は出さないが、関係作りの第一歩は人であり、まずはNPOの話を聞いてくれる人を見つけることが肝要である。 (コーディネーター 間野 義之)
 
■セッション f. 連携
スポーツNPO活動推進ネットワーク構想を考える
 本大会の開催目的でもある「スポーツNPOのネットワーク化」の具体的な構想を提示しました。どのような理念、目的、戦術、戦略で進めていくのかをフロアーを交えて活発に議論する場とし、スポーツの領域に関連する連携の促進を提案しました。
 
 
水上 博司(NPO法人 クラブネッツ 副理事長)
 
 
略歴は前掲
 
山田 明仁氏(NPO法人 神戸アスリートタウンクラブ 副理事長)
 
 
 国立奈良工業高等専門学校機械工学科卒業。陸上競技では、国民体育大会に10回出場、島根国体大阪選手団旗手を務めた。他には、アジアサー一キット4×400mリレー優勝、全日本実業団対抗陸上400m優勝を果たした。厚生労働省認定健康運動指導士となり、現在では、大阪ガス株式会社から出向し、株式会社オージースポーツ神戸事業所副所長となっている。1998年神戸アスリートタウンクラブ設立に携わり、2001年同クラブがNPO法人格を取得後、副理事長に就任。2002年3月に神戸で行われた第1回スポーツNPOサミットでは、中心的存在として開催に向けて尽力した。
 
コーディネーター 内藤 拓也(笹川スポーツ財団 業務課)
 
<要約>
 本セッションでは、午前中のプログラムで提案された「スポーツNPO活動推進ネットワーク構想」(以下、ネットワーク構想)について、フロアの皆さんと一緒にこの提案の意味や課題を考えることであった。パネラーの水上氏と山田氏には、ネットワーク構想の提案趣旨を補足するかたちで10分程度の発言をしてもらった。その後、時間の許すかぎりフロアからの意見を拾い上げることにつとめた。ネットワーク構想の具体的成果は(1)スポーツNPOの社会的プレゼンスを高める、(2)スポーツNPOの自己決定性を高める、(3)スポーツNPOにおける雇用創出、(4)スポーツNPOへの財源供給である。
 水上氏は、(1)から(4)の成果が今後具体的に現れるのには時間がかかるだろうという前置きがあった上で、「はじめの第一歩は、スポーツNPOの設立や運営に直接関わっている人たちが、身近で無理なくできる学習機会をつくること。全国的な規模の大きなセミナーや勉強会といったイメージではなく、活動圏域が同じようなスポーツNPO同志の小さなサイズの勉強会からスタートできればよい。その成果を情報発信することを通してスポーツNPOの社会的プレゼンスの向上をはかる」というように、スポーツNPOに関わる個人が身近で無理なくできる学習機会をつくることが第一歩であることが強調された。
 一方で水上氏は、ネットワーク構想の戦略としてスポーツNPOの活動を牽引していくような専門的代表機関の設置が望まれないだろうか、たとえば、(1)政府や企業等からスポーツNPOに対する財源供給を促進する。(2)スポーツNPOの雇用創出を促進する政策や制度の提言。(4)各種スポーツNPOの事例や仕組みを集められるような情報センター、などがイメージできるような提案があった。そうした代表的な専門集団を、その時その時の課題に合せるかたちでプロジェクト的に組織化して、様々な政策提言等を行う社会的影響力を持つネットワークになっていくだろうという将来ビジョンが示された。
 山田氏からは、神戸アスリートタウンクラブ(以下、KATC)が取り組む阪神圏域内での組織間ネットワークの実例が報告された。タイプの異なるイベントや事業を組織間で協働・連携していく中で、とくに次の3つの点が重要なポイントになることが指摘された。(1)ミッションの共有、(2)緩やかなネットワーク、(3)組織間での最低限の約束事を決める。
 この(1)から(3)のポイントをスポーツNPO間で調整しておいて、その上で自分たちのヒトモノカネ、知識、アイディア、ノウハウ、専門性などの資源を提供し合い、相互に協力することがネットワーク構想に必要であることが示唆された。KATCの活動事例は、本セッションで理解を深めようとしていこうとしたネットワーク構想の個別ケースとしては、きわめて有益なものであり、とくに、KATCが「接着剤の役割」となって、各組織の活動を尊重しながらつなげていく手法は見事であった。
 ところが、こうしたネットワーク構想で充分に議論されていない重要な事が、一部の参加者からの意見や質疑で露呈されるかたちになった。その理由をあげてみると、一つはスポーツNPOの活動が多様化し、予算規模の大きいところで実績のあるスポーツNPOとそうでないまだヨチヨチ歩きのスポーツNPOとの間の意識の落差。もう一つは、ネットワーク構想が、雇用創出や財源確保についての具体的な実例を踏まえず構想されていることへのジレンマであると分析できる。フロアとの自由討議に出された意見の数々は、こうした二つのジレンマをなんとか解消しようとするものであった。しかし、そこにはわが国におけるスポーツ関係者の勤勉さと良質な労働力を輩出してきた国民性をはっきりと認識することができるように思う。ネットワーク構想が各方面の専門家やスポーツNPOの運営スタッフ等、多くの方の意見や情報が集約されて、リファインされていくことが必要であると強く感じた。また、わずか40分程度の自由討議中でリファインできるという確信めいたものも感じた。
 スタッフの雇用、指導者の育成をはじめとしてスポーツNPOの抱える課題は山積みである。しかし、それらの課題に直面したスポーツNPO関係者は、見えざるマニュアルやノウハウを手繰り寄せ、四苦八苦しながら課題克服をしている。そうした個別ケースを細かく分析した上で情報を共同管理できるしくみはネットワーク構想の具体的な事業の一つになるかもしれない。KATCのような活動事例が全国津々浦々で芽吹き実績を残しつつある。そのように感じる参加者は多かったのはないか。
 スポーツNPO活動推進ネットワーク構想のゴールは「新しい公共像」との発言が水上氏からあった。公と民の二項対立図式の間にスポーツNPOという中間組織が台頭してきた。こうした中間組織がこれまでの公や民が培ってきた仕組みや制度を活かしつつ、「新しい公共像」へどのように転換できるかが、このネットワーク構想のゴールと考えられる。
 スポーツNPOは情報やアイデアを出し合おう。年1度の情報交換の場となるスポーツNPOサミットの位置づけも必然的に高まる。いま、スポーツNPO活動推進ネットワーク構想を検討するスタートラインに立ったものと解釈する。 (水上 博司、内藤 拓也)







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