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■セッション C. 情報
事例に学ぶスポーツNPOの情報活用手法
 スポーツNPOの情報公開による支援者の拡張について検討を目的に、情報公開を積極的に行うNPOの事例紹介と他分野で情報開示が確立しているNPOの事例も紹介しました。
 NPO法人には情報の公開が義務付けられています。また、情報の公開によって支援者の獲得や信頼性の確保を行うことが重要ではないでしょうか。スポーツNPOが行うべき情報の公開について考えました。
 
 
熊谷 建志氏(BSP International Corp Development Engineer)
 
 
 1970年愛知県生まれ。第1種情報処理技術者。ソフトウェアハウスのシステムエンジニアとして道路情報配信システムの通信制御機能開発、車両部品生産管理システムの運用計画、建築CADソフトの設計開発など、情報通信分野における幅広い開発設計に従事。現在ビー・エス・ピー・インターナショナル社においてレポートデータをウェアハウス化するパッケージソフトの開発チームに参画。北海道大学在学時に関わった体育会活動を通し、スポーツサービスを提供する活動に興味を持つ。NPO法人クラブネッツではWebサイト立ち上げ時にWebサーバ設置、サイト設計などを担当。情報提供事業部所属。
 
松本 直也氏(青空サッカープロジェクト 代表)
 
 
 法政大学3年の在学時に「毎週土曜日の10時に多摩川の河原に集まってみんなでサッカーをやろう」と不特定多数の人にインターネットで呼びかけた事より「青空サッカープロジェクト」をスタート。次第に顔見知りや協力者が増え、2年経った現在では東京都多摩地域に「誰でも参加できるサッカー&フットサルの場」を7箇所確保。また青空サッカーのWEBサイト作成がきっかけとなり、2002年度WEB制作会社に勤務。プランナー兼ディレクターを担当。現在は退職し、フリーで活躍すると同時にクラブネッツ社員としてWEB開発プロジェクトに参画中。
 
コーディネーター 松澤 淳子(NPO法人 クラブネッツ 副理事長)
 
<要約>
 NPOのマネジメントには、「情報」が必要不可欠なツールであるといわれている。その背景には、NPO法人には情報開示が義務づけられており、組織や事業活動について説明責任が求められていることがある。
 しかし、NPOにとっての「情報」は、もっと活動の根幹にかかわるものとなりうる。それは、活動の使命や中身をより多くの人に知ってもらい共感者や参加者を増やすこと、また、同じ思いを抱く人々とのネットワークを作り、人々からの知恵や資源を集めたり共有したりするツールにもなることがあげられる。
 「情報」には、様々な媒体が存在する。それぞれ特長があるが、本セッションでは、とくにウェブを採り上げている。急速なパソコンの普及が背景にあり、インターネットの接続では携帯電話も含めればかなり高い普及率となっている。またウェブは、情報の蓄積、検索、コミュニケーション、リンク、解析などの機能をもち、すぐさま意志や意見を表明したり、何らかの行動をとったりすることも可能である。そのため、資源の限られたNPOにとっては効率的で効果的なツールとなりうる。
 システムエンジニアの熊谷氏によると、情報には「可塑性」と「双方向性」があるという。「可塑性」というのは、情報には物理的な形状がなく、送り手の発信した情報が受け手にその通り伝わるとは限らないといった改変可能という意味である。また、情報の交換を活性化すること自体、価値があるという考え方があり、「双方向性」が非常に重要な要素となっている。そのため、「入り口」がある情報発信の仕方や「透明性」が大切だという。
 「入り口」のある情報とは、何かに対して問い掛けている、出しているものが未完成である、何かに行くための道程の上にある、広がりがある、不特定の受信者があるというものである。また、「透明性」がある情報には、属性、思想、理念などの「顔」がある。信頼される情報発信の方法は、ただ情報を出すのではなく、それ相応の説明や表現が必要だという。
 府中で「青空サッカープロジェクト」を主宰している松本氏からは、ウェブの具体的な活用方法などの紹介があった。当日、集まった人でサッカーをする「個人参加型サッカー」の活動には、ウェブが必要不可欠なツールになっている。携帯電話からも参加の申し込みやキャンセルができる。誰もが思いのまま自由にサッカーを楽しむ環境にウェブの果たす役割は大きいと言えるだろう。
 ウェブから参加の申込みができると、受け付けなどのコストが削減される。しかし、ウェブの成果はそれだけにとどまらない。「ツナガル人物帳」を企画・導入したことで参加者同士のコミュニケーションを活性化させる効果もあった。ウェブでは、画像などを用いてその都度活動状況をリアルに伝えたり、参加者の顔ぶれを知ってもらったりすることができる。それによって、新しい人が参加しやすくなるという成果もある。
 他方、ウェブの「影」の部分も存在する。人数や誰が来るかが特定できない。そこで起こった問題は、初参加の人に対するマナーの不徹底、1人当たりのプレー時間の減少、「ネットを見て来た」といって自分の名前を名乗らない匿名プレーヤーの出現などである。また、参加者がアクセス数に比例しておらず、参加者の出入りが激しいという課題もでてきている。今後はターゲットとなる地域へのプロモーションを強化し定着を図っていこうとしている。
 ホームページ運営で「アクセス解析」はマネジメント上非常に有効である。アクセス解析をすれば、ドメイン名、月ごとのページビュー、ブラウザー、時間帯別アクセス数、アクセス数の多いページ順位、検索キーワードなど、様々なことがわかる。アクセス解析では、ユーザーの声を直接聞くことができ、調査しなくてもマーケティングに有効な情報が入手できるのである。
 質疑応答では、ウェブを見てもらうまでのPR方法や参加者を実際に増やす工夫、ウェブにおける匿名性などについて意見や質問が出されたが、ディスカッションの時間が十分とれず残念であった。短い時間で、「情報」の様々な局面を洗い出すのは困難であり、要望が高いテーマは、ディスカッションを行う機会を別途持ちたいと思う。」 (コーディネーター 松澤 淳子)
 
アクションプランセッション
■セッション d. 競技力向上
地域のスポーツNPOがメダルに真献する
 スポーツNPOが国際競技力の向上に貢献できる可能性を考えます。日本サッカー協会のナショナルトレーニングセンター制度を例にスポーツNPOが国際競技力の面でどのように貢献できるかを検討します。
 
 
田嶋 幸三氏(日本サッカー協会 常務理事)
 
 
 1957年生まれ。筑波大学、及び大学院卒業。大学卒業後は古河電工(現ジェフ市原)に入社し、JSL杯優勝を経験、日本代表フォワードとしても活躍。引退後は指導者としての道を進み、日本サッカー協会公認S級コーチライセンスを取得。また、1999年より(財)日本サッカー協会ナショナルコーチングスタッフとして、U-17及びU-20日本代表監督を務め、2001年にはU-17世界選手権に出場。2002年9月、(財)日本サッカー協会技術委員長に就任。(財)日本サッカー協会常務理事。
 
コーディネーター 澁谷 茂樹(笹川スポーツ財団 情報課)
 
<要約>
 長引く不況による企業のスポーツからの撤退、少子化や教師の高齢化による学校運動部活動の休廃部など、これまで日本の競技スポーツを支えてきたシステムが崩れ始めている。これを受けて、一企業ではなく、地域全体でトップチームを支えていこうという新しい形が模索されている。また、子ども達の力を最大限に伸ばすため、小・中・高とブツ切りになっていた部活動依存型のジュニア・ユース育成を、学校期をまたがった一貫指導体制に改めようとする動きが各地に芽生え始めている。こうしたムーブメントには、地域で活動するスポーツNPOの存在が不可欠である。
 このセッションでは、日本サッカー協会のユース育成・指導者養成の取組みを例に、地域のスポーツNPOがジュニア・ユース世代の育成を通じて、日本の国際競技力向上に貢献していく可能性について検討した。
 講師の田嶋幸三氏は、メキシコオリンピックの銅メダル獲得から、低迷した時期を経て、2002年日韓W杯で決勝トーナメント進出を果たすまでの歩みを紹介した。サッカー協会は1990年初めから、代表チーム強化、ユースの育成、指導者養成を三位一体として、世界に通用するチーム作りに取組んできた。その根底にあるキーワードは「グラスルーツなくして代表の強化なし」である。
 サッカー協会のユース育成システムの根幹はトレーニングセンター(トレセン)である。これは、若年層を発掘・育成する日本独自のソフトで、地区トレセン→県トレセン→地方トレセン→ナショナルトレセンとつながる選抜システムだが、才能のある選手を選抜してチームを作るというものではない。目的はあくまで個人を伸ばすこと、「個の育成」である。このシステムが定着する以前は、代表選手は、全国大会で上位に入るチーム・学校からしか選ばれなかったが、現在では、弱いチームからも優れた選手が育つようになってきている。2002年W杯日本代表選手の多くが、U-12、14、17いずれかの世代でナショナルトレセンを経験していることからも、このシステムが上手く機能していることがわかる。
 トレセンの活動は各地のボランティアに支えられている。NPO法人として活動しているトレセンもあるという。競技団体と地域のスポーツNPOが連携して強化に取組むモデルとして、トレセンは大いに参考にすべきであろう。
 サッカー協会はW杯の好成績に奢ることなく、常に危機感を持って新しいことに取組んでいる。ユース世代強化の課題は、さまざまな大会の改革である。キーワードは「代表チームの国際競技力の向上」と「みんなに公式戦を」。若いうちに世界レベルの試合を経験することが、その選手の将来の伸びしろに大きく影響すると考え、U-17の世界選手権出場をユースの目標にしている。現在、高校1、2年生の試合経験を増やすため、国体のU-16化を検討している。これが実現すると、中3と高1を合同で強化する必要が出てくるが、田嶋氏は、こうした場面での、スポーツNPOの活躍の可能性に期待を寄せた。「みんなに公式戦を」では、高校生のリーグ戦・プリンスリーグが既にスタートしているが、トレセンの地区リーグや中学生の「これからリーグ(仮称)」の立ち上げも検討されている。リーグ戦導入で、トーナメントで初戦敗退する(弱い)チームの試合経験が増えるだけでなく、強いチームにとっても、強化につながる接戦の機会を増やすことになる。サッカー協会では、「プレーヤーズ・ファースト(プレーヤーを第一に!)」を合言葉に、これらの改革を進めている。
 田嶋氏は指導者の大切さを強調した。サッカー協会には、少年少女サッカー指導員からS級コーチまで、5段階の指導者資格があり、登録者は合計で約3万人にのぼる。協会では、指導者を資格で縛るのではなく、その資格をとることで、指導者としての質が向上すると実感できるプログラムの提供を目指している。また、資格取得者の再教育にも力を入れている。指導者資格は取って終わりではなく、取ってからがスタートである、との認識から、カンファレンスや講習会を開いて再教育に努めている。指導者の心得として引用された、フランス代表元監督の言葉「学ぶことをやめたら教えることをやめなければならない」は全ての参加者に響く強いメッセージであった。
 中学・高校では、部員不足や指導者不足で部活動が立ち行かないケースも見られる。こうした状況では、指導者を含めて、地域でクラブ化したスポーツNPOに活躍のチャンスが大いにあるだろう。部活動に外部指導者を導入する動きは各地に広まっているが、まだ十分とは言えない。協会では、外部指導者が活躍できる機会をさらに増やすよう、各方面に働きかけたいという。
 ユース育成、指導者養成を中心に、日本サッカー協会の取組みを紹介する中で、田嶋氏は、競技団体や地域スポーツ行政関係者にNPOとの連携のヒントを与えたと同時に、サッカーだけでなく、地域でユース世代の育成に携わる全てのNPOに熱いエールを贈った。 (コーディネーター 澁谷 茂樹)







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