マネジメント関連セッション
■セッション a. 人材
スポーツ組織のマネジメントと人材育成
スポーツNPOにおける雇用の促進について検討しました。どのような人材をどう育てて雇用していくのか、人材養成の現状とその意図について共有し、スポーツNPOのマネジメントに対する取り組みが積極的になることを目的としました。
スポーツ界ではマネジメントの弱さが指摘され、各方面で総合型地域スポーツクラブ、企業スポーツチームや競技団体のマネジメントを担うことのできる人材養成スクールが開講されています。その現状を知ると同時に、スポーツNPOに必要とされる人材とは、経営を進めるために身に付けるべき知識とは何かを考えました。
広瀬 一郎氏 (独立行政法人 経済産業研究所上席研究員)
1955年生まれ。藤枝東高校でサッカー部所属。東京大学法学部卒業後、電通入社。サッカーでは、トヨタ杯、キリン杯、ゼロックススーパーサッカー等のプロデューサーを務めたが、メキシコワールドカップの担当でスポーツマネジメントに開眼。94年の著書「プロのためのスポーツマネジメント」はビジネス経験を踏まえた書として注目され、これが2002年ワールドカップ招致委員会事務局広報・企画副部長就任につながった。00年(株)スポーツ・ナビゲーション設立。02年より現職。著書は上記のほか「メディアスポーツ」「スポーツマーケティング新世紀」など多数。
コーディネーター 清家 輝文 (NPO法人 神戸アスリートタウンクラブ 理事)
<要約>
スポーツ界におけるビジネス、マネジメント経験豊富な広瀬氏にマネジメントとは何かを中心に語っていただいた。漠然と考えている傾向が強いマネジメントだが、その定義を明確にすることによって見えてくるものを語り、マネジメントという能力、人材についてキーワードをちりばめ、スポーツNPOの可能性についても触れた。以下、広瀬氏の講演内容を要約してみる。
日本のスポーツ界における問題として企業スポーツの衰退が挙げられるが、それは経済的問題とされながらも、経済が復活してもスポーツを復活させない企業のほうが多いことの理由を考えた。
まず、日本企業ではガバナンス(企業統治)、つまり誰がどういう責任を取っているかが不明確であることが問題であった。わずか50万円でも使途不明な運動部があるとすると、それは経営者にとっては、ガバナンスが問われるというリスクになる。企業の運動部が休部・廃部にいたった理由はそれが最大であったかもしれないのである。「成果」の定義がほぼマネジメントの定義になる。その成果は組織の内部にはなく、外部にある。企業スポーツのチームにとって、外部の最大のステークホルダー(利害関係者)は親会社である。そこでの成果とは何か。その定義がないとマネジメントはできない。
この場合、「スポーツにおける成果」と「スポーツによる成果」があるが、ここで考えるべきは後者である。企業スポーツでは親会社が何を成果と考えるか。そこからマネジメントを定義しなければいけない。
企業スポーツのマネジメントを親会社からの出向で担当している人は、チームにとっては内部か外部か分からないところがある。マネジメントを変えるには人を代えなければならない。それが確実な方法である。
スポーツイベントを仕切る競技団体はイベント運営という点でアマであってよいとは言えない。しかし、現実にはアマ意識は少なくない。これも含めスポーツ界はマネジメントに疎いという現象がある。ではなぜ、スポーツ界にマネジメントの人材が育たないか。それは学校であり、企業がマネジメントの部分を受け、スポーツの人は競技に専念すればよかった、ある意味では幸福な時代が続いたからである。Jリーグは88年から4年数ヶ月かけてリーグを作ったが、そこに学校の先生は一人もいなかった。議題、議事録をみるとそこに稟議書を書くナレッジを持ったビジネスマンがものごとを進めたことが分かる。
スポーツを産業化するとき、資本、制度、ナレッジ・人材のいずれも不足しているが、プライオリティーをつけるとナレッジ・人材から始めるのが確実であり、かつそれがコンセンサスになりつつある。JOCや大学などでスポーツのゼネラルマネージャーの養成講座が始まっており、東京大学運動会で私もスポーツマネジメントスクールを始めた。そこに80数名が集まった。それだけの人が興味を持ってくれているということが驚きである。スポーツに関わりたいという人材は少なくない。
繰り返すが、マネジメントは成果を定義することから始まる。分かりやすく言うと、ステークホルダーを定義する。ステークホルダーを並べ、グルーピングし、自分とどういう関係を持つか、その関係性を整理する。その関係性の中に成果がある。その成果にプライオリティーをつける。何をやるか、やらないかを決める。それを決めていく方法がマネジメントである。マネジメントはロジックであり、好き嫌いや情緒的なことではない。
スポーツNPOであれ何であれ、組織を作るということは外部に対して成果を出すということである。成果を出さなくて良いのならマネジメントは不要である。
その際の戦略を決定することは非定型な仕事であり、定型的な仕事とは分けて考えなければいけない。戦略会議は3人くらいの人数でやるべきで、大勢でコンセンサスをつくるために行うものではない。特にゼネラルマネジメントではそうで、非定型の問題が起こったときの対応が重要で、リスクマネジメントができるかどうかが、プロとアマの違いであろう。またマネジメント能力で大事なのは、できないことはやらないで、できる人をつれてくるという能力。それば情報力でもある。
以上が要約だが、かなり刺激的内容で、情緒的にではなく論理的にマネジメントを捉えることで、イメージがくっきりしたのではないか。一段上の活動を行うための大きなきっかけとなる講演であったと思う。 (コーディネーター:清家輝文)
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