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■提案「スポーツNPO活動推進ネットワーク」構想
水上 博司 (NPO法人 クラブネッツ 副理事長)
 
 
 1987年から「みんなのスポーツ全国研究会」(会長:粂野豊)と「広島コミュニティ・スポーツ研究会(代表:荒井貞光)に所属。日本全国の地域スポーツ活動の実践者と交流し、地域スポーツクラブの研究とその実践活動に取り組む。1998年5月クラブネッツを設立。以後、事務局を担当しながらホームページ(http://www.clubnetz.or.jp)を運用する。地域スポーツ振興における「クラブ文化」論の必要性を主張している。現在は三重大学教育学部助教授、専攻はスポーツ社会学、スキーとバレーボールの実技を担当。
 
神戸から東京へ
 2002年3月10日、神戸六甲アイランド(神戸ファッションマート)を会場に第1回スポーツNPOサミット神戸大会(主催/同実行委員会、神戸アスリートタウンクラブ)が開催されました。大会開催の準備期間はわずか1ヶ月半、短い準備期間中、神戸アスリートタウンクラブとクラブネッツが分担してセッションテーマの考案と講師の人選を担当、サミット当日のスタッフは神戸アスリートタウンクラブの登録ボランティアが準備や進行をカバーしてくれました。また、神戸を拠点に活動するスポーツNPOや社団法人のスポーツ&コミュニティインテリジェンス機構、芝生スピリット神戸、神戸レガッタ&アスレチッククラブは共催団体として、SSF笹川スポーツ財団他は協賛団体としてセッションの一つを協賛してくれました。このサミットは準備期間が短かったために十分な広報ができなかったのですが、北は宮城、南は鹿児島から43団体のスポーツNPOの関係者、357名の参加者が集まり、また開催記念イベントには市民1000人が参加する盛大なものになりました。このサミットの成功を弾みにして、第1回サミットの主催、共催、協賛団体の関係者のうちうちでスポーツNPOの活動を推進するためのアイディアやネットワークづくりに関する情報交換が図られるようになりました。
 こうした情報交換には、SSF笹川スポーツ財団(調査企画)の委託事業としてNPO法人クラブネッツ(調査実施)が2000年11月に実施した「スポーツNPO法人に関する調査」が大きな役割を果たしました。2001年3月に発刊された下の報告書では、スポーツNPOの課題が内閣府(旧:経済企画庁)の全国調査(特定非営利活動法人の活動・運営に関する調査、2000)と比較されるかたちで提示されました。スポーツNPO間の協働や相互支援を目指したネットワークづくりは、この報告書で明らかにされた課題を共有したり、課題解決の方向性を探ろうとするためでもありました。そして、第1回神戸大会の熱気覚めやらぬ一ヶ月後の4月9日には、第2回サミット開催について協議をはじめました。その後、準備はSSF笹川スポーツ財団を中心にすすめられ8ヶ月後の2002年11月2日には、SSF笹川スポーツ財団とスポーツNPO活動推進ネットワーク(クラブネッツ、神戸アスリートタウンクラブ)の共催で第2回スポーツNPOサミットが開催されます。サミットは神戸から駆け足で東京へ。
 
スポーツNPO法人に関する調査報告の表紙
 
神話と現実
(1)NPOウィルス
 2000年2月、朝日新聞は「地域スポーツすすむNPO化」の見出しでスポーツNPOの認証団体数が全国で61団体であることを報じています(下の記事は読売新聞のもの)。この記事によると、NPO法人は事業報告書や財務諸表の公開が義務づけられているため「行政や地域住民から信頼が得やすい」「行政からの委託金が得やすい」「企業からの寄付金が得やすい」「運営が長続きしやすい」というふうにNPO化の利点が紹介されています。
 NPO法人格を取得すれば、それだけで行政や住民の信頼性が高まる、協賛金・寄付金が貰えるという誤った思い込みや神話には十分注意する必要があります。そうした神話が秩序なく無制限に拡がっていくことを「NPOウィルス」であると報告されています(21世紀のコミュニティ・スポーツクラブとクラブライフの振興に関する国際シンポジウム、鹿屋体育大学、2003/2/14-16)。
 
読売新聞、2000.11.29の記事
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(2)多様性という神話
 スポーツNPOは政府や民間のスポーツ施策やスポーツサービスのしくみの中では供給できない多様化するスポーツニーズに柔軟に対応できる第三の市民セクターです、ということがよく言われます。そして、それぞれの多様性にマッチした「信頼できる手段」を持ち合わせたスポーツNPOの設立が相次いでいますとも言われます。しかし、気をつけなければならないのは、「スポーツNPO」とひと括りにして表現することで、ややもすると異質なニーズを排除してしまう危険性もあります。多様化するスポーツニーズに「柔軟で信頼できる手段」をもって住民に応えるはずのスポーツNPOが、ひと括りにされることによって、気づいたときには同質なニーズをもつ人々だけを対象にしてしまう可能性をもっています。多様性という神話に潜む、こうした逆説的な性格につねに注意を向ける必要があります。
 
(3)ボランタリズムという神話 〜プロか、アマか〜
 スポーツNPOの運営は、自発的行為と慈善的立場というボランタリズムの精神に支えられている、そして、それに共感した多くの支援者や団体がパートナーとして運営をサポートしてくれるのだ、という神話には十分注意する必要があります。想像するに多くのスポーツNPOの設立とその運営は、初動期において熱情的な指導者や活動家によって支えられていることが多いと思われます。そうした多くの指導者や活動家、そして、ボランティアたちがスポーツNPO活動の最大の人的資源であることは否定しません。しかし、運営を永続的に担い、今後想定される民間やスポーツNPO間の競争に勝ち抜いていくためには、有給労働力を主体とした人材の確保が重要です。無給労働力の資源を広く一般から引き出していくことです。その上でボランティアをスポーツNPO活動の原動力の中核に据えればよいのです。ところが、いまだにNPOは「ボランティアの集まり」「低コストが魅力」などの神話が一人歩きして、安易な業務委託が画一的にすすむことが考えられます。
 
朝日新聞、2000.11.11の記事
 
(4)ゆるやかな組織という神話
 スポーツNPOは、特定の個人の意思決定に拠らず多数のメンバーの合意によって運営されることを原則としています。そこでは複数の個人による「自由で開放的な」対話によって意思決定が図られ、そのかぎりにおいては、「ゆるやかな組織」として「柔軟な」対応が可能な組織である、という神話が存在します。しかし、多くのスポーツNPOが脆弱な財政規模でしかないことはよく知られていることであり、政府機関や各種財団からの財源供給によってグラスルーツ的な対話や合意よりも効率や合理化を求めることもあります。私たちは常にそのことに十分注意しておくことが必要です。
 
構想の方向性と意義
 ここで提案しようとするスポーツNPO活動推進ネットワーク構想は、今日の発達したメディア環境を活かした情報収集力に期待しています。そして、そうした情報を契機としたスポーツNPO間の対話やコミュニケーションの活性化を目指しています。それは先に指摘した「神話と現実」のジレンマを少しでも払拭していこうとするために全国1316のスポーツNPOがもつ資源(実績や人材など)を相互に活用し、それにできるだけの透明性を高めて共有し、相互にリファインしていくことにあります。その方向性は、スポーツNPOの知的・実践的資源のマネジメント型ネットワークづくりと言えるでしょう(ナレッジマネジメント)。
 したがって、所謂「管理的」「中央統制的」な組織ではありません。また、政府や統括団体などの公的主体に対して対抗的・緊張的な関係をもつネットワークづくりはイメージしていません。上の記事のように市民生活全般における「公共的」な性格をもつ中間組織の役割と在り方の議論は盛んです。そうした議論に応えるには、やや抽象的な表現になってしまいますが、スポーツ振興における「新しい公共像」はいったい何か、を実践的・理論的に考えていくことです。そうした「公共像」のちょうど中核に位置し、これからの実践にこそ新しいスポーツ振興のかたちの萌芽が存在しているのでしょう。そのプロセスにネットワーク構想が位置づくものと考えています。そこではこれまでの伝統的な制度や慣習や絆との関係を足もとから考案しなおす必要性も出てくるでしょう。
 本構想では、以下に示した(1)から(4)の具体的成果を目指しています。(1)スポーツNPOの社会的プレゼンスを高める、(2)スポーツNPOの自己決定性を高める、(3)スポーツNPOにおける雇用創出、(4)スポーツNPOへの財源供給、(1)から(4)の具体的成果を目指すためには、スポーツNPOにかかわる多くの個人がこれまで以上の学習機会を通してプレゼンスの向上をはかり、個々人が主体的にネットワーク構想へ参画することが求められます。
 
スポーツNPO活動推進ネットワーク構想の提案
 
ネットワークのために
 スポーツNPOの社会的価値は残念ながらいまだ十分に高いとはいえないでしょう。今後、一般大衆やマスメディアをはじめ、学究的な場などにおけるスポーツNPOの社会的プレゼンスを高めていくことが最重要課題の一つです。
(1)スポーツNPOにかかわるできるだけ多くのスタッフが研修や学習の機会を得ること
 
(2)スポーツNPOに関する詳細なデータベースを作成、それを広く公表すること
 
(3)スポーツNPOの活動の透明性をいま以上に高めること
 
(4)スポーツNPOの活動情報を集約し、実践的実例の調査分析を定期的におこなっていくこと
 
(5)実践的な実例をもとにスポーツNPOの課題や解決策を理論的に整理すること
 
参考文献
R・サラモン:福祉国家の衰退と非営利団体の台頭、中央公論、1994年4月号、pp401-412
長谷川公一:NPOと新しい公共性、佐々木毅・金泰昌編著、中間集団が開く公共性、公共哲学7、2002、pp1-17







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