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7. 「パートナーシップ評価」法の有効性と課題
 PSCではこの2年間、いくつかのNPOと企業に、前出の評価シート(試案)を使い、その協働事業について評価を行っていただきました(一部PSCホームページ上で公開、http://www.psc.or.jp/)。
 その結果として、この「パートナーシップ評価シート」の有効性について下記のような点が明らかになりました。
 
(1)それぞれが自らの目的意識等を明確にすることができる。
 協働事業を始めるにあたって、「何を実現したいか」という自らの目的意識を明確にし、協働によって何を実現したいのか/しようとしているのか、その事業が自分たちの組織に合致しているのかなど、初めに議論することで、自分たちの組織内での意思統一を図ることができる。
(2)互いの違いや補完役割を合意の上で事業を行うことができる。
 初めから自分に足りないものと、相手に求めるものを明確にすることで、互いの違いについてはそれを前提とし、またそれぞれの補完役割を合意の上で決めておくことができ、あとでトラブルになることが少なくなる。但し、個々に何を求めるかについては、それぞれの事業や相手によって異なるため、具体的な合意事項を作っておくことが必要。
(3)協働事業のそれぞれの段階でチェック機能を果たすことができる。
 相手を選択する時の優先順位を考えることで、協働事業やそれを担当する人への期待を項目として明確にし、求めていたものとのズレが生じた時のチェック機能を果たすことができる。また、事業中または終了後には、事業が外部にどんな影響を与えたのかなどを確認することで、目的に合った事業が行えたかを点検できる。
(4)「パートナーシップ」を積極的に見ることができるようになる。
 パートナーシップは本来“愉しいもの”である、という積極的なとらえ方になるよう、この評価シートには「愉快度」という項目を導入している。往々にしてうまくいかないとパートナーシップを面倒くさいとか、対等ではないとかと考えがちになるものだが、愉しくなければ「パートナ」シップ」とは言わない、というくらいの積極的意味をこの項目には込めており、それをシートに記入することでパートナーシップ事業の意味を意識することができるようになる。
(5)事業における互いの関係を明確にすることができる。
 「NPOから見た企業評価」、「企業から見たNPO評価」をそれぞれつきあわせることで、事業における双方の関係を明確にすることができる。勝手に相手のことを推測したり、批判したりするという関係ではなく、正直に述べ合うことで現状としての関係性がみえてくる効用があるといえよう。但し、これはできれば客観的に判断できる第3者がいた方が望ましいと思われる。
(6)関係改善のためのツールとして使える。
(5)によって分かった双方の関係に基づいて、必要に応じて関係改善のためのツールとして使えるという、このシートの大きな特徴でもある。互いが「評価」したものを媒介にして、そこから互いの思いや行動を理解し、違いを認め合い、役割を見直し、齟齬をなくすために話し合いをするというプロセスが生まれることを期待している。
 
 一方、課題としては、以下のような点が挙げられました。
 
(1)第3者の評価をどう組み込むか。
 「パートナーシップ評価」では、「目的達成度」の中に「外部への影響・外部からの評価」として「影響度」の評価を採り入れたり、「発展性」や「継続性」を考慮している。ただ、まず事業当事者に焦点を当て、パートナーとしての互いを評価することを第一義としており、今後は当事者同士ばかりでなく、その事業の受益者まで視野に入れる必要がある。サービスの相手である顧客の満足度によって、評価そのもの、あるいは当事者の関係性にも変化が生じることは大いに考えられる。それらを視野に入れて評価すべきかどうか。
(2)1対複数の場合の評価とその違いへの対応をどうするか。
 企業1社対複数のNPOなどの場合における「評価」の見方、とらえ方について、果たしてすべてを視野に入れて関係づくりができるのか。このような場合、NPO間同士の関係も複雑になり、そうした場合への対応が課題として挙げられる。ただ、これらは「評価」法そのものよりは、評価のあとの対応の課題、と言った方が適切であろう。
 
8. パートナーシップ大賞の創設に向けた評価手法の検討
 私たちPSCが目指すのは、最初にも触れたように、「評価」が先にあるのではなく、あくまで協働事業の推進が目的です。そのためにどういうパートナーシップが求められるのかを常に意識してきました。
 そこで、パートナーシップのあり方について、概念的なフレームワークを整理しておきたいと思います。
 
(1)行政とNPOのパートナーシップ・タイプ
 政府と民間非営利セクター(NPO)の関係について代表的なものにベンジャミン・ギドロンらの類型化があります。
 ギドロンの分析は、「財源調達」と「サービス供給」という二つの機能とそれを担う主体という観点から、「補充型」「補完型」(以上並行モデル)、「エージェント型」「パートナーシップ型」(以上協働モデル)に分けています。
 並行モデルというのは、政府と民間非営利の両セクターが財源調達とサービス供給の両方に関わる場合です。民間非営利セクターが政府によるサービスと同質のものを受益者に対して提供するケースを「補充型」、政府が受益者のニーズを満たし切れない異質のサービスを民間非営利セクターが補うケースを「捕完型」としています。
 協働モデルは、いずれかを分担するものとして区別されています。典型的には、政府が財源調達を行い、民間非営利セクターがサービスを供給する場合で、政府がプログラム管理を行い、NPOは政府のエージェントとして機能し、裁量権を持たない場合を「エージェント型」といい、NPOが政府のパートナーとして、プログラムの管理や政治過程においてかなりの裁量権を有する場合、「パートナーシップ型」と呼んでいます、さらに、「パートナーシップ型」には、どちらかのセクターの影響力が他方より優位に働く「主導型」と両者の影響力がほぼ均等で均衡する「拮抗型」があるとされています。
 
政府とNPOの関係(ギドロンらによる類型化)
  財源調達の主体
(サービスの内容)
サービス供給の主体 プログラム管理
/裁量権の主体
(並行モデル)
補充型
補完型

政府・NPO
政府・NPO

政府・NPO(同種)
政府・NPO(異質)
 
(協働モデル)
エージェント型
パートナーシップ型

政府
政府

NPO
NPO

政府
NPO
*初谷勇「NPO政策の現状と課題」(「NPO研究の課題と展望2000」日本評論社)を参考に作成
 
(2)ドラッカー財団の3つのパートナーシップ・タイプ
 ドラッカー財団(P.F.Drucker Foundation)は、NPOと企業のパートナーシップについて「チャリティ型」「トランザクション型」「インテグレーション型」の3つのタイプを提示しています。
 一つ目の「チャリティ型」は、企業からNPOへ主に資金面での支援つまり寄付を行うケースです。企業側がチャリティという概念で、NPO側は心理的には企業に対して感謝の気持ちを抱くことが多くなります。お互いの活動はそれぞれ独立しており、協働の範囲は限られています。従って、企業がNPOに求める期待度はあまり高くありません。
 二つ目の「トランザクション型」では、企業とNPOが個々にパートナーシップの目的を持ち、結果として互いにメリットがある関係を作っているケースです。コーズリレーテッド・マーケティングなど、取引が生じる場合などがこれに当たります。互いにパートナーという意識が生まれ始め、相互理解と信用によって成り立っています。企業とNPOの間にミッションや価値観において類似点が見られ、能力を互いに交換できる関係で、どちらかといえば、リスクの低い成功を前提としたパートナーシップです。組織を通じて個人的な接触がある場合が多く、リーダーのレベルで強いつながりがある場合が多いといえます。
 3つ目の「インテグレーション型」は、企業とNPOがパートナーシップにおいて共通の目的を持ち、かつそれが社会に対して一定の役割を果たしているケースです。社会に対し常に企業とNPOがともに働きかけ、プロジェクトやサービス提供を一緒に開発していきます。「私たち」というある意味で一体化した考え方が定着し、戦略的に幅広く活動を共有する関係です。パートナーシップを戦略ツールとして使用し、ミッション・価値観を共有しています。両組織でプロジェクトを運営することもあり、企業に従業員が直接関われるような機会が幅広く提供され、組織間で深い人間関係が築かれ、互いに組織の文化に影響を与えるような関係となります。







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