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7: 編集後記・・・実態から見た福祉の状況と私たち
大肢協 自助具の部屋
 
 今回の調査で、その目的以外に見えてきたものがあります。
 
 まず各ユーザーにアンケートへの協力要請の手紙を出し、宛先不明で返却された数の多さです。わずか20年の活動ですが、転勤族でもない限りそう簡単に住所を移すことは、ごく普通の勤めのお家ならちょっと考えにくいものです。障害者用住宅が充実しているとも思えない現状ですから、そこにはある背景が浮かんできます。つまり、経済的事情が主たる要因ではないでしょうか。
 障害者の家庭イコール貧しい、などと決め付けるつもりはありませんが、過去に自助具の依頼があって、「完成後お届けましょうか」と言っても、「来て欲しくないから送ってくれ」と言われる方が2〜3割あったと思います。ベテラン会員や障害者事情に詳しい会員の発言なので、統計的なものではなく、私たちの感覚的なことではありますが。
 私たちに住環境のお手伝いはできるはずもありませんが、その後、壊れたりして使えなくなった自助具を今どうされているのか、気がかりです。
 
 次に反省点ですが、私たちも製作依頼に対してすべてにお応えできたわけではありません。
 一番困るのは、遠方の方の依頼です。対応できるものとできないものとがあり、デリケートな適合が必要な場合、障害の状況をつぶさに観察をしないと障害者が自助具に合わせるという本末転倒のものができてしまう可能性があるからです。ただし、その方の近くにOT(作業療法士)やPT(理学療法士)など、状態を具体的に説明してくれる方がいれば作れるケースもあります。
 また、私たちは万能ではありません。すべての分野の技能者が揃っている訳でもありませんし、機器工具も完全ではありません。本当はごく限られたことしかできないのが実情です。そのため、すでに市販品としてあるものは紹介し、専門業者があるものはそちら頼むように伝えています。PL法(製造物責任法)との関連もあり、特に安全性の確保が重要と判断されるものについては、そのように対応しています。
 また、近くからの依頼であっても、技術力の及ばないものもあり、やむを得ずお断りするしかない場合があります。
 遠方の人達への対応としては、その方達の身近に製作ボランティアがいることを理想とし、そのために各地にグループを作らんと、既存グループのネットワーク化を図り、それを全国に拡げようと推進しているのが自助具製作ボランティアネットワークです。「大肢協 自助具の部屋」はその中心を成す一員でもあります。
 
 この20年の間に障害者側の意識も健常者側の意識もずいぶん変わりました。福祉機器の発達や種類の多さ、制度や施策の変化、またインフラ整備の進み具合等で、街で車椅子の人達を多く見かけるようになりました。
 積極的に物を言い行動できる障害者は、福祉機器や制度を上手く使ってQOL(生活の質)の向上を図っておられます。他方、消極的な方は、制度や機器も良く知らずに気持ちも萎えて街の片隅でひっそりと暮らしておられるように見えます。
 自助具とは、それを使ってQOLの向上を目指す方でないと意味がありません。特に高齢者は気持ちが積極的になる方が稀で、最初から進んで使う気がない人では、いくら周囲のすすめで自助具を提供しても飾り物かガラクタになってしまうケースが多いと思います。
 
 健常者の側の意識も、以前はかなり差別的な言葉や視線があったと思います。しかし今は以前と比べるとずいぶん改善されているように思えます。実際、エスカレーターやエレベーターのない駅の階段で車椅子を何人かで持ち上げて昇り降りするところをよく見かけます。障害者の側もあらかじめそれを見越して、特別に取っ手を装備している方もおられました。
 近年は鉄道会社も、サービスの一環として階段昇降機なる福祉機器を備えているところが多くなり、国の施策により一日の乗降客が一定数ある駅にはエレベーターやエスカレーターの設置を進めています。また、差別的な言葉は最近の映画やドラマや本等からは姿を消し、昔の映画やドラマからは音声を消してあるのに気が付きます。
 確かにPTもOTもヘルパーも増え、社会全体として障害者に対する理解は高まってきました。少なくとも、自助具づくりを介して障害者と接する機会を持っている私たちメンバーには、自立生活を目指す障害者に対してある程度の理解はできているという自負があります。しかし、障害者と接点のない人達は果たしてそうだろうかと、いささかの危惧の念を覚えるのも確かです。
 また、障害者より高齢者への制度が先行したため、そちらへ全体のウエイトが掛かり、ともすれば障害者の方は置いて行かれている風にも取れます。
 
 昨今は、介護保険制度が整備されたことにより福祉関係で働く人が激増していますが、その分、介護の質の低下が心配されるとの声も度々耳にします。
 私たちも、おざなりな活動にならないよう心し、これからも自立生活を目指す障害者を応援していきたいと思います。
 
8: 自助具製作者に望むこと
自助具製作ボランティアネットワーク(自ボネット)
会長 大岩 忠司
 
 
 今回の提供済み自助具の実態調査に当たられた皆様、本当にご苦労様でした。ご協力いただいた障害者の皆様、ご家族また関係者の皆様にも感謝申し上げます。そして、これらを支えて下さった日本財団にもお礼を申し上げます。
 
 「大肢協 自助具の部屋」は20年の歴史があり、それゆえこの調査が必要不可欠なものであったのです。かくいう私も今の立場を離れれば「大肢協 自助具の部屋」の一会員であり、この調査に携わった一人でもあります。
 グループの初期数年は、今に比べればあまりきちっとした記録も残さずに活動していたので、調査対象にはならなかったのは残念であります。
 しかし、およそ10年が過ぎた頃だったと思いますが、月例会の日に「提供した過去の自助具が今どうなっているか調査の必要性がある」と、議題に上がるようにはなっていました。グループの活動も、ただ自助具を作り提供することのみにあらず、多岐にわたっていたので、思い切った調査をする人手も時間的・経済的余裕もなかったのは、私以外のベテラン会員なら頷いてくださるものと思います。
 今回も十分な人材を配して余裕のある調査ができたのではなく、一部の会員に相当な無理をお願いしたとも聞き及んでいます。そしてこのような報告書が完成させられたことは、ご同慶の至りでもあります。
 私の立場から申せば、「大肢協 自助具の部屋」は「自ボネット」のリーダーグループとしてこの調査をする責務をいささかの自負と共にあったと思います。また、'03年の「第7回自助具フォーラム」では「アフターフォロー」をテーマとした発表があり、中堅グループもなかなかのものだと嬉しくもありました。
 「自ボネット」の加入グループは約30グループ('04年2月現在)あり、当然ながら増えつつありますが、グループの成り立ちや規模は全て同じではなく、ずいぶんと違いがあります。「自ボネット」全体ではこのような大掛かりな調査は諸般の事情を考えればできないでしょうが、グループ個々では何年かに一回はやって欲しいと思っています。
 「自ボネット」の当面の目標は、全体の製作技術や適合技術の向上を目指し、同じようなケースは前例があるならばお互いの情報交換によって同じ苦労を繰り返さずに済むよう、充実したネットワークにしたいと思っています。
 最後に「大肢協 自助具の部屋」の皆さん、積年の肩の荷を少しは降ろされたことでしょう。これで気を抜かずに「自ボネット」のリーダーグループとして益々のご活躍を期待いたします。
 
9: 終わりに
ヒューマンクラフト代表
財団法人 保健福祉広報協会(HCR)理事
自助具製作ボランティアネットワーク 顧問
前 滋賀県立福祉用具センター 所長
小嶋 寿一
 
 
 自助具は生活の中で一つの目的を果たす過程で、身体的な障害のために困難な部分を補い補助する道具です。自助具でいちばん大事なことは、本人や周りの人が不便なことに気がつくことです。不便なことが発生した場合、一つ目は、自分の身体的理由で"あきらめる"、二つ目は、誰かに"やってもらう"、そして三つ目は"どういうふうにしようかと苦労する"の答えが出ます。周囲が不便を工夫しようと言って、三つ目をすすめるべきです。
 本人も徹底的に自分の身体を使うことが、自立支援につながります。介護支援も大切ですが、自立支援でできなかった部分を介護支援で補うべきだと考えます。自立支援を忘れて介護支援をすると、できることもできなくなってしまいます。
 次に、自助具を選ぶとき、提供するときに大切なことは、使う人の身体的な機能と目的を理解した上で選ばなければなりません。この人にはどのような条件とどのような構造の道具が必要かを判断する観察と、考えから始まります。そのためには、看護師や作業療法士など身体的な機能のわかる人も必要です。また使う人のニーズと好みも取り入れて、使いやすく美しい道具にするには、工具の使い方とそれの蓄積、素材を扱う方法、そして障害者からの相談があった時に、正確に判断できるようにするなど、作る人の知識もたくさん必要とします。
 中途半端に自助具作りに慣れてくると、不自由なところ、困難な過程を自分に置き換えて判断し、技術中心、機能中心で、使う人の感性やニーズがなおざりになる危険性があります。目的さえ達せれば良いとの考えからか、雑な構造や工作で面や角、つなぎや仕上げの処理が悪く、バリや引っ掛かりがあったり、構造が大掛かりになり、安全やデザインの悪い野暮ったい物を見かけます。
 自助具は道具の一つです。機能的で美しいもの、使えているかのフォローアップがさらに大切です。







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