10. 在来? 外来? 小樽のザリガニ
小樽のザリガニ
北海道には現在、3種類のザリガニが生息していますが、小樽で見られるのはニホンザリガニという種類だけです。ニホンザリガニは日本にもともと生息していた唯一の在来種で、ほかの2種類のザリガニはみな、アメリカから導入された外来種です。
ニホンザリガニは、かつて市街地を含めた全道各地で見られた生き物ですが、現在は生息環境の悪化で、珍しい生き物になってしまいました。しかし、小樽ではまだ住宅地の脇にもたくさんの沢や湧き水があり、ニホンザリガニが数多く生き残っています。小樽は在来のザリガニが豊富に見られる、昔ながらの水辺の環境が残された街であるといえるでしょう。
ところで、子供向けの生き物の本にでてくるザリガニは、たいてい赤い色をして田んぼにすんでいる「アメリカザリガニ」という種類です。最近の子供たち、特にザリガニを実際に見たことがない子供たちは、本で読んだ知識から、「ザリガニ=アメリカザリガニ」という先入観をもっていることが多い気がします。せっかく在来のザリガニがたくさんすんでいる街なのに、残念なことに思えてなりません。
アメリカザリガニは1927年に神奈川県に食用蛙のエサとして導入された生き物で、北海道や沖縄も含めた日本全国に分布を広げました。アメリカザリガニは現在、日本で一番広く分布し、日本で一番数多く見られるザリガニです。しかし、北海道では基本的に冬を越すことができないので、温泉の排水などが流れ込む限られた場所にしか生息できません。博物館にも「アメリカザリガニがいた!」という情報が時々寄せられますが、これまではすべて、ニホンザリガニの誤認でした。大人でも、ザリガニというと、どうしてもアメリカザリガニを思い浮かべてしまう人が少なくないようです。
1999年7月9日 新光町
2000年6月2日 入船4丁目
日本に生息する唯一の在来のザリガニです。 冷たい水が町中に湧き出している小樽には、こうした生き物がたくさんすんでいました。しかし、街の再開発と共に側溝や湧水は整備され、彼らの生息地は年々少なくなっています。
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北海道のザリガニ3種の見分け方
左から
ニホンザリガニ
アメリカザリガニ
ウチダザリガニ
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ハサミの形と頭のツノ(額角)の形で簡単に見分けられます。 |
北海道にはニホンザリガニ、アメリカザリガニの他にもう一種類、ウチダザリガニという外来種が生息します。ウチダザリガニは現在、道東を中心に生息しており、小樽にはすんでいません。北海道では最初、摩周湖に食用として導入され、その後、釧路湿原や阿寒湖を中心に分布を広げました。阿寒湖では漁業権が設定され、漁獲が行われるほど増加しています。
ウチダザリガニはさまざまな在来種を捕食し、道東の陸水環境に大きなインパクトを与えていることが指摘されています。また、ヨーロッパでは、導入されたウチダザリガニが保菌するミズカビ病と呼ばれる病気が蔓延し、在来のザリガニが絶滅の危機に陥りました。ニホンザリガニもミズカビ病にかかると致命的であることが知られており、実態はつかめていませんが、こうした病気による影響も心配されます。阿寒湖などではかつて生息していたニホンザリガニが消失し、現在はウチダザリガニだけが見られます。詳しいことは調査中ですが、この事例は、ウチダザリガニがニホンザリガニに何らかの影響を与えた結果であるかもしれません。
ウチダザリガニは徐々に分布を広げつつあり、最近では、道北の天塩川や丸瀬布町でも見つかっているということです。小樽を含めた道央圏にも、今後侵入してくる可能性はゼロとはいえない状況です。ウチダザリガニは大きなザリガニなので、ペットとして人気があります。また、食用としても流通しており、インターネットなどで盛んに取引が行われているようです。このような経路で新しい土地に持ち込まれた個体が逃げ出し、分布をさらに広げることが心配されます。
最近は、小樽でも砂防ダムの工事などで川のかたちが変わりつつあり、ニホンザリガニが住む源流部の細流が消え、ウチダザリガニが好むような水深の深い場所が増えています。こうした人為的な環境の変化はニホンザリガニの生息地を奪うとともに、ウチダザリガニが入り込みやすい場所を用意しているとも考えられています。
小樽でもニホンザリガニの生息環境は決してよい状況とは言えません。こうしたなかで、ウチダザリガニがすみつくようになれば、ニホンザリガニはひとたまりもないかもしれません。これ以上の拡大をくい止めるためにも、「変わったザリガニ」「食用ザリガニ」というだけでなく、ウチダザリガニの外来種としての危険性を広くアピールすることが急務だと思われます。
北海道で見られる外来ザリガニ2種の分布状況
(斎藤, 1996より改変)
アメリカザリガニは温泉排水などが流れ込む特殊な場所だけで確認されています。 |
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