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9. アライグマがやってくる日
小樽とアライグマ
 アライグマは現在、北海道で最も注目される外来種の一つです。「アライグマ問題」は新聞やテレビでもたびたびクローズアップされ、典型的な外来種問題として広く認知されつつあるようです。
 アライグマは現在、北海道では道央圏を中心に多くの市町村から生息の情報があります(北海道資料より)。小樽市でも目撃情報が記録されていますが、今のところ小樽の山や森ではアライグマがすみついている確かな証拠は見つかっていません。しかし東部地区では最近も頻繁に目撃されており(小樽市博物館の聞き取り)、さらに隣の仁木町や余市町でアライグマが捕獲されていることから考えると(北海道新聞, 2002年8月2日)、小樽に定着するのも時間の問題といえるかもしれません。
 
外来種アライグマの誕生
 アライグマは北アメリカ大陸に広く分布する哺乳類です。アライグマを主人公としたテレビアニメの影響などもあって、ペットとして盛んに輸入されましたが、これらが野外に逃げ出したり、放されたりして外来種となりました。
 日本では1962年、愛知県犬山市で動物園から逃げ出したものが野生化し、岐阜県まで生息地を拡大したのが初めての定着だったと考えられています。北海道では1979年に恵庭市で野生化したのが最初で、その後も各地で逃亡などが続き、さらに生息地を拡大したと考えられます。
 恵庭市の調査では、逃げ出したアライグマは畜産農家の畜舎に入り込み、牛の飼料であるトウモロコシを食べ、牧草ロールの中などで繁殖を行って数を増やしたことがわかっています。アライグマの定着には酪農地帯の人為的な環境が重要な役割を果たしたようです。その後、アライグマは河川沿いに生息地をのばし、各地の山林にすみつくようになりました。また、市街地にも進出し、空き家や天井裏などで繁殖する個体も発見されています。
 
アライグマに関わる問題
 アライグマの定着によって生じる問題には、農業被害、家屋などへの侵入、寄生虫その他の病原体の媒介、そして生態系の攪乱などが挙げられます。農業被害はアライグマが好むスイートコーン畑への食害が中心で、メロンやスイカなど商品価値の高い作物、家畜の飼料や牧草ロールヘの被害も無視できません。こうした人間生活への直接的な影響の大きさは、アライグマ問題に世間の関心が向けられるきっかけとなりました。
 またアライグマに寄生するアライグマ回虫は、幼虫移行症と呼ばれる、失明や死の危険性もある病気を引き起こします。今のところ野外のアライグマからはアライグマ回虫は発見されていませんが、飼育個体からは見つかっているので、油断はできない状況です。
 また人間社会への影響だけでなく、アライグマの侵入は生態系に大きなダメージを与えることがわかってきています。雑食性のアライグマはトウモロコシなどの他に、小哺乳類から魚類、両生類、爬虫類、鳥類、カタツムリ、昆虫類などを捕食し、在来の生き物に対して無視できない影響を与えています。特に水辺にすむニホンザリガニやエゾサンショウウオなどをアライグマが好んで捕食することがわかっており、アライグマの捕食による局地的な激減が起こっていることも指摘されています。また、アオサギのコロニーが襲われた例や、フクロウなどが樹洞につくった巣を奪ってしまうといった例も報告されています。キツネやタヌキといった中型哺乳類が、生息環境をめぐる競争に負けて排除されることも心配されます。
 
アライグマがやってくる!
 このようなアライグマが引き起こす問題、特に身近な動物に対する影響は、アライグマが小樽へ侵入してきた時に起こる出来事を予測させます。小樽にまだたくさん生息しているニホンザリガニやエゾサンショウウオは、生息環境が狭まっていることも加わって、一気に絶滅へ追い込まれていくかもしれません。小樽の森は二次林が多く、樹洞ができるような大木は限られています。わずかな営巣環境を奪われたフクロウなどの鳥は姿を消していくことでしょう。春先のエゾアカガエルの合唱や、沢に住むハナカジカやフクドジョウも見られなくなるかもしれません。「侵略的外来種」によるふるさとの激変は、すぐそこにまで迫っているともいえるのです。
 
 
北海道が実施したアンケート調査(1992年・95年・98年)による、
アライグマ生息情報の分布
(池田, 2000より)







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