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6. 小樽と近郊の外来魚
 河川や湖沼といった閉鎖性の強い環境では、導入された外来種が、限られた空間の中で、在来種に深刻なダメージを与えることが少なくありません。ブラックバスやブルーギルといった外来魚の影響は、この数十年間で、全国の湖や川の生物相を一変させてしまうほど激しいものでした。
 北海道ではこれまでに、局地的な例も含めると20種類の外来魚が見つかっています。このうち11種は国外外来種で、9種は国内外来種です。ここでは小樽を含む後志地方で見つかっている3種類の外来魚についてご紹介します。
 
 2001年7月、道南の大沼でブラックバス(コクチバス)が北海道で初めて捕獲されました。どこか「対岸の火事」のように思えていたブラックバスの問題に、わたしたちも真正面から向き合わねばならない時代に突入してしまったようです。そしてその1年後には、小樽の隣町余市で北海道で2例目のブラックバスが見つかりました。あまりにも身近な場所に現れたブラックバスに、近郊に住む私たちはたいへんな衝撃を受けました。
 ブラックバスはもともと北アメリカ大陸に生息する魚で、オオクチバス、コクチバスの2種類が日本に導入されています。1925年に神奈川県の芦ノ湖に初めて導入され、その後、スポーツフィッシングの対象としてさまざまな地域で放流が繰り返されました。そして現在では、北海道を含めたすべての都道府県で確認されるまでになっています。
 ブラックバスは肉食性の強い魚で、小魚やエビ、水生昆虫を食べます。比較的流れの緩やかな河川や湖などに生息しますが、こうした場所にすむ在来種は、一般的に大型の肉食魚との共存の歴史をもたないため、ブラックバスに一方的に食べられてしまいます。そのため、たくさんの固有種が生息していた琵琶湖をはじめとして、各地で在来種の大量絶滅が起こってしまいました。今やブラックバスは最も深刻な「侵略的外来種」の一つといわれます。
 釣魚としての絶大な人気をもつブラックバスは、全国の湖やダム湖を中心に盛んに放流され、分布を拡大しました。さらに、川や湖の護岸整備や、ダムの造成といった環境の変化が、在来の生き物の生息地を奪い、ブラックバスのような外来魚の定着に適した環境を用意したと考えられています。
 余市や大沼のブラックバスは北海道による調査が継続され、生息状況が監視されています。また、2001年の北海道内水面漁業調整規則の改正で、北海道でのブラックバス、ブルーギルの放流は罰則規定付きで禁止されました。さらに、わたしたち一人一人が高い関心をもってこの問題に臨み、これ以上の拡散をくい止めることが求められています。
 
 ニジマスはわたしたちにとって最もなじみの深い外来魚です。現在、北海道全域に分布し、72の水系に生息しているという報告があります。もともとカムチャツカ半島から北アメリカが原産地で、日本には19世紀後半に既に導入されていました。北海道には1920年代に初めて持ち込まれ、その後1986年まで公的な移殖事業が行われました。その他に釣り人による放流も頻繁に行われています。
 これだけ古くから導入されているにもかかわらず、北海道におけるニジマスの生態に関する知見は意外に少なく、自然繁殖の状況もよくわかっていません。小樽では塩谷川で生息が確認されていますが(小樽水族館、未発表)、この川で繁殖しているかどうかは不明です。
 また、ニジマスが導入先の生き物にどのような影響を与えているのか、詳しく研究された例はあまりありません。しかし、アメリカではニジマスによって在来種の生息地が狭められる事例が報告され、日本でも、同じような場所に産卵するイトウなどの産卵床を掘り返す可能性が指摘されています。釣魚として人気が高く、北海道の風景にすっかりとけ込んでいるニジマスですが、彼らと在来種との関係については、さらなる調査と慎重な対応が必要です。
 
 ブラウントラウトは、現在北海道で最も生態系への影響が心配される外来魚です。1980年に新冠ダムで初めて記録され、これまでに道内の18水系で確認されています。後志地方を流れる尻別川水系でも多くの記録があります。
 もともとヨーロッパから西アジアが原産地ですが、日本には明治時代にアメリカからニジマスなどの卵に混じって導入されたのが、最初の持ち込みだと考えられています。その後スポーツフィッシングの対象として何度も導入され、各地に定着していきました。最近では川から海に降る個体が確認され、海を経由して分布が拡大する可能性が指摘されています。
 ブラウントラウトは成魚になると強い魚食性を示すことが知られており、支笏湖では在来種のアメマスを含め、さまざまな魚類が食べられていることがわかっています。また、自然繁殖が確認されている美笛川や千歳川の支流紋別川では、アメマスからブラウントラウトに優占種が置き換わっていることが明らかになり、捕食だけでなく産卵場所などの競合によって在来種を排除する実態もわかってきています。
 尻別川での在来種との競合は詳しい報告がありませんが、イトウをはじめとする在来の魚類への影響が心配です。
 
ニジマス
[撮影協力:小樽水族館]
 
ブラウントラウト
[撮影協力:小樽水族館]
 
 
北海道におけるブラックバスとブラウントラウトの発見地点
(ブラウントラウトの分布は鷹見・青山、1999より)







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