7. 北海道のイタチ類 外来種と在来種の盛衰
北海道には現在、6種類のイタチ科の陸上哺乳類が生息しています。そのうち在来種はオコジョ、イイズナ、エゾクロテンの3種で、ニホンイタチ(ホンドイタチ)、ミンク、テン(ホンドテン)の3種は外来種です。北海道のイタチの仲間には、明治初期にニホンイタチが定着して以来100年あまりの間に、急激な生息数や生息地の変化が起こったと考えられています。イタチ属、テン属という二つのグループに起こった、外来種の在来種への影響をそれぞれ見てみましょう。
イタチ属の在来種は中型のオコジョ、小型のイイズナの2種類です。これに外来種のニホンイタチ、ミンクの2種類が加わった4種が、現在北海道に生息するイタチ属の哺乳類です。これらは河川の流域などの水辺を好む、よく似た生態をもつ動物たちです。オコジョ、イイズナはネズミや昆虫など、ニホンイタチ、ミンクはネズミやカエル、ザリガニ、魚などを主に食べてくらします。
小樽市ではニホンイタチ、イイズナの2種類がどこにでもふつうに見られますが、オコジョは現在全く見ることができません。ミンクは長橋なえぼ地区などで記録があり、桜町で捕獲されたこと(北海道新聞小樽版、1980年4月6日)もありますが、ニホンイタチに比べて出会う機会は少ないようです。最近実施された銭函川でのトラップ調査では、ミンクは確認されず、ニホンイタチのみが見つかったといいます(阿部永博士私信)。
ニホンイタチは本州以南に広く分布しますが、北海道にはいない動物でした。明治初期に函館に入り、約70年かけて全道に分布を広げたと考えられています。また、1930年代から60年代には、造林地のネズミを退治する目的で、離島を含む各地の国有林にイタチが導入されたこともありました。
体の大きなニホンイタチの導入により、オコジョは生息地を追いやられました。また、ミンクが導入されると今度はニホンイタチが生息地を譲り渡したと考えられています。 一番小さなイイズナはこうした競争から逃れることができました。 |
北海道のアンケート調査によるニホンイタチと ミンクの確認数の比較
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(車田,2001より改変) 北海道の東部では、ミンクがニホンイタチよりも目撃頻度が高い傾向があります。
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ニホンイタチの導入は、生息環境の重なるオコジョとの競合を引き起こし、体のサイズの少しだけ小さいオコジョを、河川周辺の生息地から追いやってしまったと考えられています。現在、オコジョは山地に局地的に分布する、非常に少ない動物になってしまいましたが、北海道大学には札幌で捕獲されたオコジョの標本が残されていますので、イタチが入ってくるまでは小樽にもオコジョは間違いなく生息していたと考えられます。
さらに戦後、アメリカから毛皮生産のために輸入されたミンクが各地の飼育場から逃げ出し、1970年代に全道に定着しました。野生化したミンクが現れ始めた頃には各地で「カワウソ発見」のニュースが飛び交ったということです。
ミンクはニホンイタチよりさらに体の大きな動物です。そのため、オコジョとニホンイタチとの間に起こったような競争排除が再び生じ、今度はニホンイタチが生息地を追われていきました。現在、道内で最も勢力の強いイタチの仲間はミンクだと考えられています。
しかし、ミンクは比較的流れの緩やかな河川付近に生息するため、ミンクとの競争を逃れたニホンイタチは、河川から離れた山地や流速の早い河川の近くにすむようになりました。北海道が行った生息調査では、北海道の中部から東部ではニホンイタチよりミンクの方が勢力が強く、道南部でニホンイタチの生息が目立つ結果が得られています。これは地形が急峻な道南では、ミンクよりもニホンイタチの生息に適した環境が多いのではないかという推測がなされています。小樽にミンクが少なく、ニホンイタチが多いのも、このような地形の特徴が大きく関わっていると考えることができそうです。ちなみに札幌との境を流れる新川のような大きな川では、周辺にミンクが非常に多く見られます(阿部博士私信)。
一方、4種類のなかで一番体の小さいイイズナは、今も変わらず全道に広く分布しています。これは、イイズナの体の大きさが他の種類に比べて際だって小さいため、生息環境の競合による排除から免れたからだと考えられます。イイズナは小樽でも、住宅地も含め、いたるところに生息しています。彼らはその小ささと敏捷さを最大限に活かしながら、したたかに生き続けているのです。
北海道には在来種のエゾクロテンと外来種のテンが生息します。エゾクロテンは大陸系の動物で、日本には北海道にしか分布しません。テンは本州以南の日本本土に分布する動物で、1940年頃北海道に導入され、各地に広がっています。
エゾクロテン、テンはイタチ属よりも情報が少なく、詳しい生息状況はあまりわかっていません。テンの仲間は1920年以来、保護獣として狩猟を禁じられていますが、このことが情報が少ない理由の一つとなっています。
最近の研究では道南はテン、道央以東はエゾクロテンという、はっきりとした分布域の分離があることが報告されています。また、体の大きいテンによるエゾクロテンの排除も示唆されており、イタチ属の各種に起きた現象と同じことが起こりつつあるのかもしれません。
小樽もテンについては情報が少なく、どちらの種類が優勢かはよくわかっていません。長橋なえぼ地区における小樽市の聞き取り調査では、エゾクロテンの生息が報告されていますが、その後の聞き取りも含めさまざまな情報を総合すると、現在見られるものはおそらくほとんどがテンだと思われます。ちなみに博物館の常設展「小樽の森」のジオラマにはテンの剥製が使われています。
(Murakami & Ohtaishi, 2000より改変)
道央を境に、テンとエゾクロテンの分布が、はっきり分かれていることが読みとれます。 |
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