2. 外来生物って悪者なの?
外来種の急速な増加は、世界各地でさまざまな問題を引き起こしています。当初は農業や漁業への被害が問題の中心でしたが、最近では外来種が導入先の環境に与えるマイナスの影響がクローズアップされています。私たちがよく目にする新聞などの外来種の記事も、「在来種を駆逐」「生態系を破壊」といった見出しが踊るようになりました。しかし彼らを持ち込み、外来種にしてしまった人間の責任こそが重大であることも忘れてはいけないでしょう。
生物はいわゆる「天敵」と呼ばれるような、自分にとって害を与える生き物に対して、さまざまな防御システムや対抗手段を進化によって獲得してきました。そのため通常は天敵によって絶滅にまで追い込まれることはありません。しかし、本来出会うことのないはずの外来種に対しては、在来種はこのような対抗ができないまま、一方的に犠牲になることが少なくありません。
また、外来種は在来種に1対1の影響を与えるだけでなく、生態系の鍵を握るような生き物に影響を与えたり、物理的な環境を変えてしまうことで、導入先の生態系全体を狂わせてしまうこともあります。
このように生態系に大きなダメージを与えるような外来種は「侵略的外来種」と呼ばれます。すべての外来種が必ずしも侵略的外来種ではありませんが、外来種の10種に1種が環境に対し無視できない影響を及ぼしているという報告もあります。
侵略的外来種の引き起こす問題は国際的にも関心が高い環境問題の一つです。彼らが在来の環境に与える影響は複雑で、目に見えるものばかりとは限らず、その解決は容易なことではありません。
外来種が環境に与える影響のパターン
1. 在来種を食べる
導入された外来種が在来の動物や植物を餌として食べ尽くしてしまう。
ブラックバスは肉食性の強い魚で、その導入により、その場所にすむ魚類や昆虫が食べ尽くされ、種類が激減する例が数多く知られています。また、草食動物の導入により植生が大きく変化してしまった事例も少なくありません。特に、それまで強い捕食者のいなかった島々や閉鎖水域では、大きな影響が心配されます。
2. 在来種を競争によって抑圧する
生活に必要な資源(餌、生息空間、光など)をめぐる競争により、競争力の弱い在来種が排除される。
オオアワダチソウやセイタカアワダチソウなどの帰化植物は、空き地や川原などの空間を占拠し、在来種を締め出してしまうことが知られています。また、北海道のオコジョは外来種のホンドイタチによって水辺などの生活空間を追われ、生息地を狭められてしまったと考えられています。
補食性の外来魚が在来種を食べ尽くす
セイタカアワダチソウなどによる川原や草原の占拠
3. 外来種に病気や寄生虫を伝染させる
外来種に感染して入ってきた病気などが外来種にとって致命的な場合。
道東にも導入されているウチダザリガニはミズカビ病を媒介することが知られています。この病気は在来の日本ザリガニにとって致命的な病気だということがわかっています(日本での実態は不明)。
4. 物理的な環境を改変して生態系に影響を与える
外来種の定着によって土壌や地形などの物理的な環境が変化し、在来種にとって不適当な環境になってしまう。
ハリエンジュ(ニセアカシア)は根に共生する細菌の働きによって、空気中の窒素から栄養分を合成することができます。これにより、やせた土地に栄養分が増え、そこにあった在来の植物が生息できなくなることが指摘されています。
5. 生物同士の相互関係に割り込む
長い進化の歴史の中で形作られた生物と生物の間の相互関係を途切れさせたり、狂わせたりする。
大型のハチ、セイヨウオオマルハナバチが在来のマルハナバチを排除し、置き換わることで、在来マルハナバチに受粉を頼っているサクラソウなどが繁殖できなくなり、絶滅に追い込まれることが心配されています。
6. 交雑により遺伝的な多様性が失われる
地域に固有な遺伝的な特徴をもつ生物が、別な遺伝的特徴をもつ外来種と交雑し、地域の独自性を失ってしまう。
中国や朝鮮半島にすむシマリスの大陸系亜種が、公園に放されるなどして外来種となり、北海道の亜種エゾシマリスとの交雑でエゾシマリスの遺伝的な特徴が失われることが心配されています。
ウチダザリガニから他のザリガニへのミズカビ病の感染
野外のニホンザリガニへの影響は確認されていません。
ハリエンジュの根瘤菌による土壌の変質
空き地を埋め尽くしたオオアワダチソウ 2001年8月25日 勝納埠頭 |
砂浜の海岸近くに現れたハリエンジュの 群落 1998年6月 銭函海岸 |
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