凡例
1. 本書は、2003年7月18日から9月23日まで開催する第55回特別展の解説書である。
2. 展示資料並びに写真は、小樽市博物館所蔵のものと、巻末に記した関係協力機関及び個人提供による。
3. 本文の執筆並びに編集は、小樽市博物館学芸員山本亜生が博物館職員の協力の下、担当した。
4. 特別展開催にあたり、社団法人北海道海事広報協会・小樽市博物館友の会の後援・協力を得た。
表紙デザイン:田中真理 イラスト:田中真理・八木美樹
小樽周辺で人間の生活が始まった遅くとも8000年前から、人々はより快適な暮らしを求めてさまざまな努力を続けてきました。その中で、本州や北方の地より、食料として、生活用具の原材料として、多くの動植物がこの地にもたらされました。
しかし近年、人によって持ち込まれた生物が、北海道本来の自然を脅かす危険性が指摘されるようになりました。ブラックバスやアライグマなど、たびたび新聞紙上に登場するものだけではなく、小樽のあちらこちらで、さまざまな外来の生き物が見かけられるようになっています。
この特別展を通じて、私たちはこれらの生き物とどう接していけばいいのか、自然に対してどこまで手を伸ばしていいのか、考えるきっかけを示すことができればと願っています。
特に、児童・生徒の皆さん、教育関係者の方々にご覧いただき、外来種の問題を、身の回りの問題として考えていただければ幸いです。
最後になりますが、今回の展示会開催にあたり、ご支援をいただきました北海道海事広報協会、展示、資料解説などにご便宜を図っていただきました多くの関係機関、および関係者に心よりお礼申しあげます。
平成15年7月17日
小樽市博物館
館長 土屋 周三
外来種(外来生物)とは、人の手によって、本来生息していないはずの土地に持ち込まれ、すみついてしまった生き物たちです。「移入種」という単語も同じ意味で用いられます。また、英語では「エイリアン・スピーシーズ(alien species)」と呼ばれます。
例えば、新聞などで最近よく目にするブラックバスという魚は、もともとアメリカの魚でしたが、日本各地の湖や川に定着した外来種で、釣りの対象、あるいは食用として日本に持ち込まれました。また、アライグマはペットとしてアメリカから連れてこられ、逃げ出したものが各地で野生化しています。これも外来種の代表例です。
外来種は私たちの身近な場所でもたくさん見られます。道ばたや駐車場などで花を咲かせているタンポポやマツヨイグサなど、街の中で見られる花や雑草は、ほとんどがヨーロッパやアメリカから来た外来種です。また、クワガタムシを採りに行くと、昔は見られなかったカブトムシも一緒に採れるようになりました。カブトムシも本州から北海道に持ち込まれた外来種(国内外来種)です。
他にも、「こんなものまで...」と思わせるほど身近な生き物が外国生まれだったりします。私たちの見慣れた風景には、なんの違和感もなく、たくさんの外来種が溶け込んでいるのです。
本来、生物はそれぞれに移動できる距離に限界があり、山や海などの障壁によって、分布を無制限に広げることを妨げられています。そのため世界の各地域で、そこにしか見られない独特の生物の集団が、長い年月をかけて形作られてきました。地球の反対側である日本とブラジルでは、そこにすむ動物や植物は全くちがっています。キタキツネはブラジルにはいませんし、ピラニアも日本には(本来)すんでいません。また同じ国内でも、北海道と沖縄ではもちろん、小樽と釧路でもそこにすむ生き物の種類構成は異なります。
しかし、交通網の近代化により地球上のあらゆる地域がわずかな時間で結ばれるようになり、それに乗って生物はそれぞれの移動能力をはるかに超えた距離を運ばれるようになりました。その結果、世界のいたるところで、それらの一部が「外来種」として新しく集団に加わるようになり、地域ごとの生物の構成は次第に特徴を失いつつあります。
外来種の出現は、地域の生態系のバランスやシステムに多大な影響を与え、そのために多くの生物が絶滅に追い込まれています。外来種の増加は、今や、森林破壊や資源の枯渇などと同じくらい重要な環境問題として、国際的にも非常に関心の高い懸案事項になっています。
代表的な外来種たち 左上から セイヨウタンポポ、 アライグマ、ブラックバス |
導入と定着
外来種は文字通り「外から来た」生き物ですが、自分の力で遠くからやってきたのではありません。彼らはすべて、人間によって「連れてこられた」生き物たちです。
人間が外来種を本来の生息地から連れてくることを「導入(introduction)」といいます。導入にはさまざまなパターンがありますが、以下のようなケースが一般的です。
1. 食用のため、毛皮を採るため、あるいはペットとして飼育されていた生き物が逃げ出したり、意図的に逃がされたりした。
2. 害になる生き物を駆除するため、狩猟のため、緑化のためなど、理由があって野外に放たれた。
3. 荷物や植木に紛れたり、船底などについて無意識的に持ち込まれた。
4. 導入された別な外来種の体や体内に潜んで一緒に入ってきた。
導入には1、2のように意図的に生き物を持ち込む場合と、3、4のように無意識的に持ち込まれる場合があります。前者は「意図的導入(intentional introduction)」と呼ばれ、後者は「非意図的導入(unintentional introduction)」と呼ばれます。
また、こうして導入された生き物のすべてが外来種になるわけではありません。それらの中で、その土地の気候、環境に適応し、継続的に子孫を残しているものが「外来種」と呼ばれ、外来種として野生化することを「定着(establishment)」といいます。
現在、世界中で原生的な自然環境が消失し、農耕地や市街地などの人為的な環境が急増しています。人為的な環境の増加は、そのような環境に適応した一部の生物が外来種として定着すること進め、外来種の増加の大きな要因になっていると考えられています。
国内外来種
日本の外来種の多くは、アメリカやヨーロッパの国々のような、日本と経済的な交流が深く、さらに気候条件が比較的似ている国々から導入されたものです。しかし、日本国内で、本来の生息地外に導入された生き物も「外来種(国内外来種)」と呼ばれます。例えば、カブトムシやニホンイタチは本州から北海道に導入され、定着した生き物です。
国外外来種 外国から導入された生き物
国内外来種 国内の別の地域から導入された生き物
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