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放課後児童の保育
 さて、学童保育に取り組むきっかけとなったのは前段の通りでありますが、まずは学童クラブの運営内容を報告いたしたいと思います。
 当学童クラブの名称は、『未来』といいます。これは未来を担う子どもたちの明日への夢を育むために、『遊び』の中で多様な体験をし、それを経験として体と心の健全育成の糧としてもらいたいという思いから名付けられました。
 当初、職員の配置上、小学校1年生から3年生を対象に、定員は40名を目安にスタートいたしました。しかし、翌年を待たずして定員オーバーとなり、その後、毎年定員をオーバーいたしておりますが、基本的には可能な限り受け入れてまいりました。平成15年現在では、平均して常時小学1年生28名、小学2年生22名、小学3年生8名の子どもたちの利用となっております(過去の利用児童数推移は図1のグラフを参照)。
 
図1: 学童クラブ利用者推移
 
 開所時間は学校から帰宅した時間から、夕方の6時までとなっております。それ以降は、御所保育園の延長保育を利用して保育をするということになります。これについては保育園入所児童と同様、夜10時までの利用が可能となります。このあたりが保育園に併設されている学童クラブのメリットであり、よりフレキシブルに、そして効果的に運営できる要因となっております。平成15年4月現在で、夜10時までの学童保育の登録児童が5名となっております。
 次に、学童クラブの子どもたちの具体的な活動実践例をご紹介したいと思います。
 保育所においても言えることですが、学童クラブにおいては、特に取り組むきっかけともなった『遊び』という行為に重点をおいて活動をいたしております。過去から現在まで、『遊び』という体験を通して社会性や、連帯性、主体性や自主性を育めるようなメニューを実践してまいりました。日常的には出来うる限り子どもたち同士、友だち同士の『遊び』を尊重し、児童厚生員や保育士の援助は必要最小限にとどめ、集団の中で子どもたちがもつ社会を尊重して保育するよう心がけております。
 学童クラブ『未来』に集まる子どもたちはそれぞれに異なる校区、つまり異なる小学校から集まって利用しています。正確には現在4つの異なる小学校からの子どもたちが通っています。
 時折、私は子どもたちの『遊び』を観察しておりますと、それぞれの学校で流行している遊びの内容を情報として共有し、子どもたちなりに、ときには解体し、それを工夫しながら再構築し、自分たちがより楽しめるものを創造している姿を見受けます。こうした場面に遭遇すると、やはり子どもたちの『遊び』の本質は、今も昔も変わらないのではないかと思います。と同時に、こうした異なる校区から集う学童クラブの運営形態は子どもたちにとって、学校とは違う特別な空間と時間を与えることの出来る地域の特別な『遊び場』としても機能していることを再認識いたします。また子どもたちは敷地内、館内のあちこちで、それぞれがそれぞれに遊んでいることがほとんどであります。施設という空間の中で、みんなで一緒に遊ぶ姿というものはあまり見受けられません。最近の子どもたちは集団で遊べなくなったということを拝聴いたしますが、保育園や児童館、園庭で遊ぶ学童たちは少し違うような気がいたします。それはそれぞれの子どもたちが、自分が面白いと思うものを自由な形で、誰からも干渉されずに遊んでいる姿に私には見えるのです。子どもたちの『遊び』グループはときには大きな輪となったり、もっと小さい輪となったりといったグルーピングを繰り返します。その輪の中で子どもたちは自分でコントロールしながら、自然と形成される規則の中で自由に遊んでいると感じます。私は、子どもたちの『遊び』の中にそうした自由が存在していること自体が、非常に重要であると考えています。
 小学2年生や3年生では、生活も遊びも社会的になり、ある程度の規則性を踏まえた『遊び』を行うようになります。異年齢が混在する多人数の遊びの中でも、年長児から年少児へ遊びの伝達や伝承も行われるようになっていきます。放課後児童の保育では、こうした子どもたちの発達段階に応じた遊びのメニューを、可能な限り自然な形で子どもたちに提供できるように努めています。
 『遊び』というテーマともう一つ、学童クラブの子どもたちと一緒に取り組もうと考えたものが『環境』です。学童クラブに在籍する子どもたちの主な活動に、『こどもエコクラブ』活動があります。全国で4,000クラブ、77,500人の小・中学生が登録・活動しているこの活動に、学童クラブ『未来』のメンバーは身近にある動植物に目を向け、観察活動や植物を使った『遊び』体験しながら、自然保護や地球環境について考える活動を実践することで参加しています。具体的な活動の一つに、日曜日の早朝に近隣の自然公園にて行われるバードウォッチングがあります。この活動には『野鳥の会』の方々の協力の下、年に7回ほど行われています。これは、徐々に失いつつある保育所周辺の自然環境にも、実は身近に普段見ることのない鳥獣の姿を見ることで、まず動植物に関心や興味を持たせ、ひいてはその動植物を育んでいる自然をみつめる心の芽生えを養うことを目的としています。まずは、自然にふれ、自然の中に佇む機会を作ること。そうした中で、自然の偉大さを五感で感じ、今ある自然を見つめ、その大切さを感じるきっかけとなってくれればとの思いです。学童クラブでは、こうした活動を『自然体験事業』として位置付け、実践しております。その他の『自然体験事業』としては、公共施設を利用したエコクラブ合宿や、自然観察会、ハイキングなどがあります。
 次に『こどもエコクラブ』活動の一環として、周辺地域のゴミ収拾活動『クリーン作戦』があります。これは、地域にポイ捨てされている空き缶や、ペットボトルなどを回収し、資源やリサイクルの重要性などを考えるというものです。種々の自然体験活動を通して自然の重要さを理解している子どもたちは、抵抗なく活動しています。そして、活動の度に回収されるゴミの多さに驚きを隠しません。こうした活動を通して、社会的マナーの重要性を学び、いつしか子どもたちが生活の様々な場面で地球環境の重要性を考えるきっかけとなってくれることを期待しています。
 学童クラブ『未来』では、『こどもエコクラブ』での活動以外に、もう一つ重要な活動を行っております。それが、『こどもボランティア育成支援活動』です。これは、子どもたちが主体的に、そして自主的なボランティア活動が行えるよう、周囲からサポートしていくものです。実はこの活動は『こどもエコクラブ』活動の延長線上から生まれたものであります。学童クラブの活動である『クリーン作戦』で回収されたり、それぞれの家庭から排出されたアルミ缶やダンボールは、いったん集積した後、リサイクル業者に買い取ってもらっています。そして、そのような活動で集められた収益をアイメイト協会に寄付しています。これは、エコクラブ活動を始めた当初、『このお金を何に使おうか?』との児童厚生員の問いかけに、子どもたちの中から自然と「盲導犬の育成に役立てたい。」という声が上がったことがきっかけでした。当時、職員は子どもたちの純粋な気持ちから発せられたその言葉に感動したと同時に、子どもたちの社会的な意識の高さにも驚かされたものです。こうして、その後アイメイト協会との方々と学童クラブの交流が生まれました。今では、子どもたちが主体の『こどもエコクラブ』活動が、そのまま子どもたちをサポートする側である私たちが行う『こどもボランティア育成支援活動』の一環として成立しています。
 その他での『こどもボランティア育成活動』の実践例といたしましては、近隣の福祉施設でのボランティア活動があります。学童クラブ『未来』の子どもたちは、大学生のボランティア手話サークルにより月に二度、手話の講習を中心として、お兄さん・お姉さんたちと『遊び』ながら交流を図っています。当初、小学一年生から三年生にとっては難解だと危惧された手話も、遊び感覚で吸収していくその姿に、私たち大人はしばしば圧倒されています。手話という道具を通して、自分たちの世界のコミュニケーション以外の言語世界に触れるその行為そのものが、子どもたちのもつ知的好奇心をくすぐっているようにも見受けられます。当初は手話の勉強だけをしていたのですが、子どもたちのより一層の意欲を引き出すために、聾唖学校への訪問もはじめました。これは身ににつけた手話というスキルをボランティアという形で発揮させてあげながら、同時にボランティアを通して人とつながり、人の役に立つ喜びを感じさせてあげられるようにとはじめたものです。
 この活動は、大学生ボランティアの方々との世代間交流という意味も持っています。年齢に開きのある大学生との世代間交流は、兄弟姉妹を持たなくなった今の子どもたちには、重要な刺激の一つであります。同時に児童厚生員とは異質の関係性の中で、子どもたちの『遊び』にダイナミズムと幅のある社会性みたいなものをもたせてくれているようです。
 その他の子どもたちのボランティア活動である特別養護老人ホームヘの慰問では、童謡の歌唱を披露したり、ほんの少しではありますが介護現場でのお手伝いを行ったりしています。この活動も学童クラブを発足して以来続けている活動であります。







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