日本財団 図書館


10. 鹿児島県・御所保育園
園長 中野 兵衛
保育園が所在する地域の状況
 御所保育園・御所風の子保育園(分園)及び児童館チャイルドハウス(御所保育園に併設された小型児童館)は、鹿児島県鹿児島市の南西部に位置する上福元町に所在しています。
 このあたりは、かつて清水の豊かに湧く清谿郷と呼ばれ、四方を深緑の小高い山々に囲まれ、秋になると一面が黄金色となる田園地帯でありました。御所保育園は、そうした豊かな自然と静溢な環境に恵まれた山あいに開園いたしました。しかし近年、急速に住宅開発が進み、田園地帯はその黄金色の輝きを失い、かつては掬って飲むこともできた水をたたえた小川はコンクリートで固められた側溝となり、鉄製の蓋で覆われている今では、その下に水流さえ感じることもなく、保育園周囲の環境は一変しております。
 少子化といわれて久しい昨今の社会事情は、多聞に漏れず当該地域にもあてはまるものの、保育所入所対象となる年齢5歳以下の児童の極端な人口低下は見られません。しかし、年を追うごとに、当該地域の抱える保育所待機児童問題は深刻なものになりつつあります。これは、5歳以下の児童人口が若干とはいえ減少している中、おそらくは共働き家庭の増加による待機児童の発生が主たる要因になっているものと推察されます。そして今、放課後児童の保育ニーズの高まりとも相まって、学童クラブの待機児童も発生してきているような状況にあります。
 
保育園・児童館の歴史
 母体となる社会福祉法人清豊福祉会は昭和51年8月に認可を受け、同年12月に御所保育園を開園いたしました。当初は定員60名からスタートでありました。しかし、前述したような周囲の環境の移ろいの中で、まず待機児童の発生が見られ始めた平成7年に、園舎の改築とあわせ30名の定員増を行い、90名定員といたしました。
 御所保育園では開園当初より『子どもの健やかな育ち』と『女性の社会参加と自己実現』の支援を理念として活動してまいりました。園の特色といたしましては、そうした理念のもとに、地域に開かれた保育所を目指し、また『いつでも誰でも利用できる』ように、様々な実践や特別保育事業・自主事業を全国に先駆けて行ってきたつもりであります。現在でこそ、目新しい保育事業はなくなってしまいましたが、いわゆる特別保育事業といわれるものは、国の制度にのる前から自主事業として実践してきたものもありますし、国庫補助事業となったものについては、全て制度スタートと同時に実践してまいりました。
 その中で、夜10時までの延長保育事業などは、事業開始から『親の利便性だけ追及するものになってしまう』というご意見や、『保育の長時間化による子どもへの悪影響』を鑑みる視点から、様々なご批判・疑問等を拝聴してまいりました。しかし、前理事長の『では、誰がその子どもたちを保育するのですか?』との思いを胸に、保護者の方々に延長保育をはじめとする種々の子育て支援事業の主旨と役割を、しっかりと認識・理解してもらいながら、適切な運営に努めてきたつもりでおります。
 こうして近年は待機児童解消の一端を担うべく、保育園の定員増や一時保育等に取り組んでまいりました。しかし、今また園周辺の地域では待機児童問題がクローズアップされ始めています。鹿児島市全体においては、かつてないほどの待機児童を抱え、鹿児島市全域の認可保育所では、定員の増員を中心にこの問題の解決に向け努力いたしております。当法人でも、そうした増加の一途を辿る待機児童の受け皿として、平成13年4月に国からの少子化対策特例交付金で、分園となります風の子保育園を設置いたしました。定員は29名となっております。
 風の子保育園では、待機児童の受け皿としてはもちろん、そこに積極的な保育のあり方を目指すことも付加いたしました。具体的には、分園制度を利用しての0、1歳児だけを入所対象とする乳児専門保育所として機能させていこうというものです。そこで、アパートやマンション、一戸建て住居を利用しての分園設置ではなく、新規に乳幼児の保育環境に特化した新設の保育園として設計を施し、建設、開園いたしました。同時に、本来は必要とされない給食室を設置し、園庭も配置いたしました。給食室の設置に関しては、給食の運搬に際しての衛生面の問題はもちろんですが、やはり専門保育所として機能するからには、栄養士・調理師に毎日子どもたちの生活に最も近いところで寄り添ってもらいながら、離乳食や給食を作って欲しいという前理事長の強い願いからであります。また各部屋は、最低基準面積より約1.6倍ほど広く間取りを施し、ゆったりとした空間の中で生活できるよう配慮し、アットホームで暖かな、落ち着いた環境の中で子どもたちが過ごせるよう日々努力いたしております。また、勤務している大多数の保育士は、厚生労働省が主催する乳児保育研修を修了した職員であります。
 どちらの保育園でも、保育目標として
○つよいこ(健全な心身の人)
○やさしいこ(人の立場が理解できる子)
○がんばるこ(精神力の強い人)
を掲げて保育しています。
 さて、実は今回のテーマの一つである放課後児童の保育は、風の子保育園を設置する6年前の平成7年2月に、「保育所併設型民間児童館」として開館いたしました児童館チャイルドハウスにおいて行っております。チャイルドハウスは御所保育園と同じ敷地内に併設して設置いたしました。
 当時、当福祉会では、より多種多様に、そしてより複合的に拡大する保育ニーズに対応するためには、従来の保育所が持つ機能だけでは限界を感じ始めていた時期でありました。こうした地域の環境変化や、保育ニーズを鑑みて、社会福祉法人として何をなすべきかが当時の課題でありました。保育所が持つ機能を超えて具体的に取り組みたいと考えていた事業が二つありました。
 その一つが、放課後児童の保育であります。前述いたしましたが、以前はいたるところに存在した保育園周辺の放課後児童たちの中心的な遊び場、小動物の宝庫であった小川や泳げる川、凧も上げられた田んぼ、球技をしたり、駆け回れる広場はほんの15年足らずで住宅地へと変貌してしまいました。子どもたちが遊べる空間がなくなってしまったのです。そうした中で、学童たちが友達・仲間同士と外で遊ぶ姿を見かけなくなりました。少子社会と言えど、若干の推移でしか子どもの数が減少していないこの地域で、子どもたちの『遊び』がテレビゲーム中心の家庭内での『遊び』へ移行してしまったのは明らかでした。またそれと前後して、塾やお稽古ごとに時間を割かれる子どもたちの数も増えていっていた時期でもありました。
 そうした折、保育所近隣のある川で放課後児童の溺死事件がありました。既に、汚染されて泳ぐどころか、遊ぶこともできなくなっていた川での事故でした。この事故の際、前理事長の「保育に欠ける子どもたちは、5歳未満児だけではない。小学校へ進級するまでは、保育園がある。でも学校に上がってからは、何もない。遊び場もない。集まる場所もない。そして、子どもたちは『遊ぶ』時間も失いつつある。地域には放課後の学童たちの遊びに目を光らせてくれる大人たちもいなくなってしまった。遊び場を失った学童たちに、もう一度集まって遊べる場所を作ってあげたい」との思いが、学童保育に取り組むきっかけとなりました。
 そして二つ目が、保育所の周辺環境の急速な都市化の中で、地域の子育て能力の低下などにより、在宅で孤立を深めながらでの育児・子育て家庭への支援であります。これは、今回のテーマの地域活動事業の一つにもあたるのではないかと思います。ちょうど子育てに悩み、核家族であるがゆえに祖父母や、地域が持っていた子育て能力にも頼ることが出来ず、育児に疲弊しきった母親たちの育児ノイローゼや虐待などが、社会問題として取り沙汰されるようになった頃です。そうした経緯で、「母親クラブ」や「育児クラブ」などの設置を積極的に考えるようになり、地域の保育園利用者以外の方々で、子育てに悩みを持つ保護者や、在宅で子育てされている家庭で育児に悩む方々の『駆け込み寺』的な役割を果たそうとして考えました。
 そうした中で、チャィルドハウスは、こども未来財団の『保育所併設型民間児童館事業』の助成制度開始と同時に全国で最初(同時6ヶ所)に設置認可を受け、開館することとなりました。チャイルドハウスの開館の理念は、子どもを核として支えあい、育ちあう地域活動の拠点として、『子どもと共に育ちあう』『住みやすい地域づくり』をテーマに、併設された子育て総合支援センターを目指す、というものでした。
 開館してから現在に至るまで、終始一貫して運営面で努力してきたものが、より複合的で多岐にわたる地域の保育ニーズをキャッチしながら、併設されている御所保育園の持つ機能と児童館の持つ機能の相乗効果を期待し、御所保育園もチャイルドハウスも共に保育所・児童館にとどまらない福祉的機能を発揮できるように工夫するということです。また、従来の公立型の児童館ではなく、民間立児童館の熱意と創意・工夫を生かし、保育所との様々な連携を行う中で効果的かつ効率的な運営が図れるよう努力してまいりました。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION