日本財団 図書館


 ここで、本園で実施している特別保育事業の紹介をいたします。
 障害児保育、休日保育、延長保育、地域活動事業(世代間交流事業、異年齢交流事業)、地域子育て支援センター(小規模)等の事業を実施しています。この他に自主事業として実施している放課後児童の受け入れも平成14年度より始めたところです。
 試行錯誤しながら実施している状況を述べてみたいと思います。
 当地は町立小学校と中学校が併設された生徒数100名足らずの実にこじんまりとした学校です。学校は温泉から徒歩30分、約2キロの地点にあります。
 
〈放課後児童の保育について〉
 保育園における低学年の放課後受け入れについては要望の声が聞こえてはいましたが、すでに実施している保育園の実施状況を尋ねたなかで、保育園の中が騒然となり収拾がつかない事がある、と言った意見が多く耳に入ってきました。ニーズの高さは感じていたものの今ひとつ踏み切れないものがあり、数年を経過した平成14年4月実施を前提にした園内における勉強会を次の内容で致しました。
 
―放課後児童健全育成実施要綱について―
(平成10年4月、当時の厚生省児童家庭局より通知された実施要綱の趣旨の理解)
 趣旨の内容によると小学校に就学しているおおむね10歳未満の児童に対し、授業の終了後、児童厚生施設等を利用して、適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るものである。とあります。
 しかし、通知の前文を読み進んでいくと、どうやら10名以上20名未満の小規模事業にたいしてはその費用を都道府県の補助の対象とするとなっています。本園の当面の希望者は5名程度。補助対象とするには、定款の変更をしたりと面倒な手続きを必要としていたし、又、利用する側も継続した利用が出来るかどうか、大いに論議したのです。
 いろいろな視点にたって検討した結果、かりに懸念された通りの結果に及んだとしても、当園を卒園したばかりの学童達が、母親のいない我が家へ帰宅してさみしい思いをするより、お帰りなさいと迎えてあげられる場を用意してあげる。そんな気持ちで、受け入れることへの意思統一をはかったのです。
 そして、受け入れは「地域活動」の事業項目である(低学年児童の受け入れ)に考え方を位置づけ、自主事業において実施の運びとなりました。それと言うのも、本園の地域活動はすでに、他の2事業を実施する事が決定し事業申請を済ませていたからです。
 さて、受け入れることの方針が決定し、希望する学童の保護者との話し合いへと進展して行きました。こころやすく話を進めることが出来たのは卒園児童の保護者という関係であったからでしょうか。受け入れ時間の事、費用の事、安全対策の事、内容に伴うことなどじっくりと話し了解を得ることとしました。
○預かり時間 下校から5時まで(但し、園の行事等で出来ない事もある)
○費用 1回単価 150円
○保険料 500円(年間)
○お迎え 原則保護者が行う。本園から徒歩で帰宅出来る児童で保護者がそれを希望する場合、一人で帰宅する。
但し、途中の事故については保護者で取り計らう事とする。
○内容 (日程)あいさつ−うがい−手洗い−自主学習−おやつ−自由時間−帰宅
 
 前記のような日程のなかで学童たちがかかわってきた活動の一端を紹介します。
4月 野菜の苗植え(トマト、ピーマンなど)
よもぎ摘みとよもぎだんごつくり
5月 花の苗植え種蒔き(ひまわり、コスモス)
6月 牛乳パックで和紙つくりの準備(細かく切る)
7月 和紙作り準備(ビニールをはぐ)
8月 夏休みで活動なし
9月、10月 読書
11月 干し柿つくり
12月 焼き芋つくり
1月 正月遊び(たこあげ、カルタ等)
2月、3月 和紙作り
 
 活動のすべてをカメラに納めることはできなかったのが残念ですが、学童のみなさんが嬉々としてかかわっている状況を伝えることができれば幸いです。
 上記の活動の他に、使った部屋は毎日拭き掃除をすることとしました。はじめのころは積極的な姿は見せなかったものの、次第に意欲が見えてきたようです。
 こうした活動を誰が担当するかが疑問になってくるかと思います。6人の保育士がローテーションを組み、保育に支障がないよう、連携を取り合い、都合よく回転していくよう心掛け、支障が生じた場合、とにかく話し合いを持ち、意思の疎通をはかる努力を致しました。
 放課後児童を受け入れて1年間を振り返ってみると、大きな課題にぶつかりました。それは安全対策であります。
 平成14年4月に通知された放課後児童等の衛生、安全対策の実施についての趣旨の中に、従事する職員の健康管理に関する事項が強調されています。当然のことと受け止め、異論の余地はありません。しかし、現場において別の視点にたって見る現実の姿には、むしろ園内における在園児への衛生管理対策に新たな問題をかかえることとなりました。
 例えばこんな事例がありました。ひどく咳込む学童がやってきました。熱や不快感はない。保育園の頃とは見違えるようにたくましくなった児童は一定時間すぎると園内を動き廻って遊びます。しかも時折咳込みながら、マスクでもはめていればまだしも、0歳児から5歳児まで同じ空間を共有している中で、さまざまな感染症に常に敏感になっている当保育園にとってみれば、とても気を揉むことでもありました。
 しかし、受け入れ側の課題としているだけでは何の解決策も見出すことも出来ないので、学校側もはいってもらい理解と協力を求めました。また、これを機に、折りにふれ話し合いの場を持つことになりました。
 その後、学校側も積極的に交流を求め、学童の事だけではなく、保育園児の生活の様子なども観察したり、本園の保育の方針などへの理解を深めていただいています。
 平成15年度に入って状況は大きく変化してきました。前年度利用していた学童たちも2年生になり、午後の授業が多くなったこともあり、下校時間が遅くなったせいか、毎日利用する児童が殆どいなくなったのです。新たな1年生は、どうやら家庭の中でだれかが待ち受けることの出来る体制が出来ていた様子でした。
 そんな中でも、毎週水曜日になると、今までと違う賑やかさにあふれます。一斉合同下校の日と言って、1年生から6年生まで一斉に下校するのです。時間も通常より早い時間が組まれています。本園に近い児童たちはランドセルを背負ったまま園庭へ集まってき、夕方まで時間を過ごして帰宅します。
 保育園へ立ち寄ってくれることは喜ばしい事ながら、家族は保育園にいることを把握しているのだろうか、という疑問が生まれたのです。しかし、児童の殆どが母親へ知らせていたらしく、私の心配は軽くなりました。この時間を有意義に過ごさせたいとの思いで、保育園児の頃たしなんだ茶道をやってみないか、と尋ねてみたのです。待ってましたとばかりに返ってきた返事は「やりたい」、意欲に満ちた答えでありました。
 早速、保護者の同意を書面でもらい、必要な経費の負担や約束についても親子同席の中で理解をしていただきました。低学年10名、高学年15名。低学年と高学年のおけいこは別に定め、毎週水曜日になると勇んでやってきます。
 茶道を保育の一環として取り入れたのは、8年前にさかのぼります。その大きなきっかけは、家庭の中の生活スペースで、畳敷きの部屋がなくなりつつある現況をまのあたりにして、焦りにも似た思いにかられたのです。今、日本の文化に触れさせておかなければ、ますます遠くなっていく。そんな思いもあり、茶道の実施に踏みきったのです。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION