日本財団 図書館


“夏” サマーキャンプだ・・・
 
 「こんにちわ!外へ行って来ます。」
 「こんにちわ!山へ行って来ます。」
 毎日毎日充分に自然を満喫している児童たちです。
 夏休みに入るとすぐに1泊2日のサマーキャンプに入ります。場所は後ろの児童公園、日頃慣れ親しんでいる場所でのキャンプですが、日程が発表されると「ワアー」と歓声が上がります。
 この2日間のプログラムは、参加者全員が話し合いの中で、それぞれの役割分担を決めながら組み立て、協力して頂けるボランティアの方々といっしょに準備にとりかかります。
 まずはみんなでテントの設営、とても大きなテント、場所を決め、向きを考え杭を打ち、飛ばされたり倒れたりしないようにしっかり止めます。
 次は材料集め、火をおこす木は近くの大工さんにお願いし、いらなくなった木材をもらい、小さく切って薪にします。
 食事の買い物、分量は毎月のクッキングで見当がつきます。包丁さばきもおてのもの、入学当時はぎこちない手つきだった一年生も、立派に役割をはたしています。苦手な仕事をしている年下児の横には、必ず年上児が補佐にまわります。分業の際、個々の遅れがみんなに迷惑がかかる事を充分に知っています。いつの間にかとてもたくましくなった年上児です。
 「さあ、これで野菜の準備よし!火がちゃんとおきているかを見てこようね。」
 一年生に優しく声をかけていました。
 キャンプ中の御飯は飯盒でたきます。御飯の係は飯盒から目が離せません。
 「シチューの次に、パチパチパチって音がしたら火から下ろして、飯盒を裏がえすんだよ、早くても、遅くてもだめなんだからね。」
 わずかな音も聞き逃すまいと、とても真剣です。
 「シューシューシュー」。御飯が炊き上がってきましたが、パチパチパチはまだです。しばらくすると、6個の飯盒から順番にパチパチパチと音が聞こえだしました。
 「あっ!音がしてる、パチパチパチって音、してるよね。」
 次々と音がしだした飯盒を火から下ろし、裏返して御飯が蒸れるのを待ちます。
 「御飯出来たね、野菜は?」
 「あっ!どうして・・・」
 網の上には真っ黒になったトウモロコシが並んでいます。
 「こんなの食べられない!どうしてちゃんと見てなかった?」
 いらだちと落胆の声が聞こえます。
 「いいんだってこれで。買い物にいった時、村田のおばさんが教えてくれたもん、『トウモロコシは皮をむかんと、洗ってそのまま焼いたら、蒸し焼きになって美味しいよ』って、皮はむくから焦げててもいいんだって・・・だからむいてみよう。」
 半信半疑、真っ黒になったトウモロコシの皮を1枚1枚むいていくと、中にはとても美味しそうな焼き色になったトウモロコシ。
 「ホラ、ちゃんと聞いてきたんだから・・・。」
 この得意げな一言でみんなが一斉に皮をむきだしました。
 「でも、ちょっと焦げ臭いね。」
 「たいしたことないよ、だって美味しいもん!」
 たくましくて、とてもおおらかです。
 児童たちはプログラム作成の段階で「いつ」「どこで」「何を」といった自分の役割をしっかり自覚し、その事についていろいろな所から知識を得てきます。家族、ボランティアの方々、そして買い出しに行ったお店のおばさんからも、しかもこれら全て自発的行為なのです。
 体験の中で得た成功や失敗の数々が、知識となり伝承され、別の機会に発揮されます。
 夏の夜の締めくくりはやはり花火のようです。大きな打ち上げ花火も豪華できれいなのですが、小さい線香花火のやわらかな光を満足そうに眺める児童たちに、今日一日の充実を垣間見たような気がします。
 賑やかだったテント内がようやく静まりだした頃、児童館周辺の方々が様子を見に訪れ、子どもたちの寝顔を見て、安心して帰って行かれました。
 昨日は昨日、今日は今日、朝から元気な児童たち、焼きおにぎりの朝食もそこそこにテントの後片付けに取り掛かり、プログラムも終わりが近い事を自覚し、2日間の活動に夢中になっています。
 締めくくりは、お母さん方特製のカレーライス、今日の味は特別、心に残る思い出の味になった事と思います。
 
キャンプ後の一言集
・楽しかったけど、ちょっと疲れた。
・なんだか忙しかったけど、おもしろかった。
・疲れた・・・でもなんだか嬉しい。
・すっごく楽しかった!また参加したい。
・今度は飯盒の係やりたい!
・テントの中、思ってたより広かったよ!
 
日本海で地引網
 
○月○日 富山湾は魚の宝庫
早朝、おにぎりを持って氷見浜に集合!
 
 詳細が児童館前に掲示されると、
 「ヤッター、今年も地引網だ!」
 「大漁かな?」
 「今年は、何がいっぱいとれるかな?」
 「去年はカニも網の中に入ってたけど、今年も入ってるかな?」
 「今年の一番大きい魚、なんやろ? 去年は太刀魚やったけど」
 「覚えてる、覚えてる、ピカピカ光った、長い太刀魚やった」
 “今年も”と意気込む2年生以上の経験組、初めて参加する1年生組、どちらもその日を心待ちにする日々が始まります。
 三世代交流、ふれあい地引網、参加者全員で掛け声に合わせて、網を引きます。
 「よーいしょ!」「よーいしょ!」「よーいしょ!」
 10分、20分、30分、みんなの額に大粒の汗が光り始める頃、おだやかだった波間に水飛沫が起こりはじめ、大きくなりながら、ぐんぐん近付いてきます。
 「もうすこしだ! がんばれ」
の一声で、小さくなっていた掛け声も一段と大きくなり、網を引く手にもぐっと力が入ります。
 スピードを上げて、大きくなりながら近付いてくる水飛沫の中にピョンピョン飛び跳ねる魚の姿を見つけると、
 「ワアー」と歓声
 「すごい!」と驚き
 「いっぱいや!」と満足
 誰かが
 「あっ、僕この魚、知ってるよ!」
と、得意げな一言。
 「ねえ、お父さん、僕この魚見た事あるけど、でも名前なんやったけ?」とか、
 「ねえ、おばあちゃん、この魚、たべられるよね?」
そばでおばあさんが優しそうな目で
 「お母さんに料理してもらおうね」
と、お母さんに微笑み返しています。
 大漁です。網の中には大きい魚、小さい魚、いろいろです。漁師のおじさんに網の中を一度見てもらい、危険魚(おこぜ)がいない事を確認してからみんなで魚の選別にとりかかります。
 「こうやって食べると美味しいよ」
と、エビの踊り食いを味わうお父さん。
 「からあげにしようね」
と、豆アジを集めているお母さん。
 カニを集めて、大はしゃぎな男の子、小さいイカを大事そうに袋に入れ、母さんに見せている女の子、みんながとても無邪気に楽しんでいます。
 お昼は、魚のいっぱい入った大漁鍋です。いつもは魚と聞くと、チョッと顔をしかめてしまう子どもたち、でも今日の魚は特別。何回もおかわりをして、とても美味しそうに食べていました。
 煮ても焼いても、魚にはちゃんと骨があり、それぞれの食べ方もしっかり勉強しました。食育の世界です。
 
“秋” いきいき、のびのび、そばの里
 
 速川児童館の館名は速川地区、つまり地区名がそのまま施設名になっています。
 その昔、まだのどかな農業を営んでいた頃、この地の人々は米の不足をそばで凌いで、地区内いたるところで、白い花がなびくそば畑を見る事が出来、そば打ちはどこの家でも日常的に行われ、そばは速川地区の特産だったそうです。
 今は、飽食時代と言われ、いつでも、どこでも、すぐ手にはいる時代になりました。特産品となったそばへの思いと、技法を受け継ぐそば打ちを伝承活動の一つに取り入れる事にし、児童に話したところ、
 「うちのおばあちゃん、そば打ち上手やよ」
と児童からの返事。するとすかさず、
 「千里ちゃんちのおばあちゃん、漬物も上手やよね」
これで決まりです。さっそく千里ちゃんのおばあさんに、そば打ちの先生をお願いしたところ、快く了解の返事を頂きました。おばあちゃん先生の誕生です。
 11月3日文化の日、おばあちゃん先生は朝から大忙し。来館すると早速、手提袋からおもむろに取り出したのはなんと自然薯、
 「そばを捏ねる時、ちょっと入れると、ツルツルのそば出来るからね」
と言いながら、準備に取り掛かりました。
 そば粉とすりおろした自然薯、これをもみほぐしながら、捏ねていきます。
 そば粉はボソボソからパサパサに、それからサラサラになったら、捏ねます。捏ねて捏ねて、どんどん捏ねます。粘土遊びの得意な児童もいつもとは少し勝手が違う手の感触を楽しんでいました。
 捏ねて捏ねて、丸めて丸めての繰り返し、耳たぶよりちょっと固くなったら、板の上で、棒を使ってのばしていきます。おばあちゃん先生に教えてもらいながら、いっしょにやっているのに、なかなか伸びてくれない。そばは無理に伸ばすとひび割れてしまいます。おばあちゃん先生の助けが必要です。先生は棒を縦に横にと実に器用に扱いながらひび割れを直してくれました。
 「おばあちゃん上手!」「さすが!」
との声に、おばあちゃん先生は、
 「長いことやってきたからね」と一言。
おばあちゃん先生はとっても上手。次から次、そばを伸ばしながら、ひらひらと折りたたんでしまいます。その手さばきはついつい見とれてしまいます。
 「ワアーそばが出来た!」
 「ほんと、これ本物のそばや!」
嬉しそうな声が次々と広がります。
 おばあちゃん先生は、幅の広い包丁でトントントンと軽い音をたててそばを切っていきます。
 「やってみてね」
と言われ、代わる代わる包丁を手に、切ってはみるものの、いつもの野菜のようには進まず、軽い音は聞こえません。実に用心深くゆっくり、そっと包丁を押していきます。
 「そばを手で押さえると、そばがつぶれるから、あんまり押さえんでね」
ちょっと心配そう。体中の全神経が手元のそばに集中です。
 「さあ、茄でるよ」
大鍋に沸き上がったお湯の中へ、パラパラパラと広げながらそばを入れていきます。
 「みんなで打ったそばやからね、きっと美味しいよ。ちょっと太いのやら細いのやらあるけどね」
茄で上がったそばは、とても美味しそうにツルツルと光っていました。太いのやら細いのやら、おまけに長いのやら、短いのやら、いろんなそばの出来上がりです。
 おばあちゃん先生の思いのこもったそば、ツルツルと喉を通るとても美味しいそば、そして何よりみんなが打った手作りのそばです。
 この伝承活動は、今年は保育園児とお年寄りと児童との共同活動となりました。お年寄りと園児と児童が共に協力し合って蒔いたそばの畑には、白くて小さな花が収穫を待って秋風になびいています。
 看板には
いきいき、のびのび、そばの畑
速川児童クラブ・保育園
シニアクラブ
と書いてあります。







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