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5. 富山県・速川保育園速川児童館
指導員 上野 佐知子
 北陸、日本海に突き出た能登半島の付け根に位置する富山県、というよりほとんど石川県との県境に近い氷見市、人口は約6万人弱。“山があり、川が流れ、晴れた日には北アルプス立山連峰を見る事が出来る”“ふる里はかくあるべきかな”。
 農業中心のこの地に、農繁期の季節託児所から、常設保育所として速川保育園を開設したのが昭和31年、経済の高度成長に伴い、農業も機械化が進み共働きの家庭が急増しました。その頃から児童の生活環境も著しく変化をきたし、いたましい事故なども起きるようになりました。
 あるときは、学校から帰った兄弟が山中に入り迷って帰れなくなったり、溜池で遊んでいて溺れてしまったり、火遊びで火災が起き家の焼失や大やけどをしたということもありました。
 このような、いたましい事故はいずれも留守家庭に起きていた。
 就学と同時に家庭の保育に欠けるという条件が解かれた児童たちは、下校途中よくランドセルのまま保育園へ立ち寄ったものです。学校での様子を聞いた後、帰宅するように促し、留守家庭へ帰る寂しい後ろ姿を見送ったこともよくありました。
 社会情勢の波に流され、漂っている児童たちを放っておくわけにはいかない。事は急を要する。地域における事業の可能性や準備、条件整備など、のんびりした事は言っていられませんでした。
 昭和42年、緊急対策として日本自転車振興会の補助を受け、速川児童館を併設しました。
 地域の協力を得て、遊園地も隣接する事が出来ました。小高い山に数基の遊具、まことに素朴な遊びの場ですが、自然の中の活動の場として人気があり、四季を通して格好かつ最高の遊びの環境を提供してくれます。ここは神社の境内、鎮守の森としても親しまれています。
 芽吹きの春、昆虫採集の夏、もみじ狩りの秋、辺り一面銀世界の冬、四季折々の自然活動が体験できます。園児と児童がいっしょに散歩する山の道は、いつの間にか「なかよし小道」と呼んでいます。大雨で、「なかよし小道」が壊れることがあります。そんな時は男の子が力を発揮します。石を積んで足場を作り、竹を切って段を作り、女の子はその脇に草花を植えて根をはらせることを考えました。雨がふると何度かこの作業がくり返されました。今は、この道がくねくね曲がってついています。水が道を伝って急に流れないように、蛇行させるように工夫しました。
 知恵を出し合い力を合わせて、大きい子から小さい子へと生活が伝承されます。
 児童館を通して、異年齢の児童たちが、コミュニティを理解し、家族的な秩序ある子ども社会を作っています。
 こうして、昭和44年に認可を受けた児童厚生施設・速川児童館が誕生しました。
 
「放課後児童の保育」への動機
 
 核家族化や共働き家庭の一般化は、家庭内での児童とのかかわりや、社会との交流等の、育ちにはなくてはならない環境を与える事が出来にくく、家庭における「子育て機能の低下」が問題視されています。
 大家族の中で育てられていた、兄弟の数が減り、児童は「一人での豊かさ」を独占出来るようになりました。家庭内での満たされた欲求の中で、実体験に基づかない、知識だけが膨らみ、五感の発達や自立の育ちのない、集団の中でコミュニケーションの取れない児童が多くなりました。
 将来の担い手が、感情が無く、言葉を持たない、一人遊びが大好きな児童、集団に入れない、馴染めない児童となってしまった今、異年齢児との集団社会の中で実体験を伴う環境を提供し続ける児童館への要望は高く、より複雑化してきました。
 地域に密着した、併設児童館である速川児童館は、開館時間の延長や、家庭の事情による一時的保育等の放課後児童クラブを事業内容に、地域活動の参加や、老人との交流(ふれあい活動)、及びさまざまな体験活動を地域内活動とし、地域全体で児童の健全育成に取り組む事にしました。
 
速川児童クラブの春夏秋冬
〔活動日記〕
“春” 地球にやさしい環境作りを!!
 
 一日の活動が終わり誰もいなくなった児童館、いろいろな物を使い充分に楽しんだ後は、きれに片付いています。
 『使った物や道具はもとの場所にきちんと片付けましょう』
 『ゴミはごみ箱に捨てましょう』
児童館の約束です。
そして今、ごみ箱は一つではなくなりました。
 『分別ゴミに、ご協力下さい』
 『ゴミのリサイクルに、ご協力下さい』
 ここ数年来よく見聞きした呼び掛けですが、この『ご協力』は地域住民一人ひとりの認識の問題となってきました。児童と言えど例外ではなく立派な社会の一員です。そこで社会の先輩であるお年寄りの方々と共に『分別』と『リサイクル』についてもう一度考え、認識を深めてもらうことにしました。
 
身近なことから環境を考える その(1)
 いろいろな地区から集まってきている児童たち、それぞれの地区に別れ、お年寄りの方とグループを作り、用意した家庭ゴミを制限時間内に分別し、その正確さを競います。審査は市のリサイクルセンターの方にお願いしました。
 「よーい、スタート」
 目の前のゴミ不燃物、可燃物、回収物、そしてプラスチックの4種類に分けます。家庭ゴミはとても細かくて複雑です。たった一個のゴミなのに素材別に分類するとその複雑な分け方に改めて驚いてしまいます。
 制限時間は10分、机上の分別されたゴミを前に審査に入ります。一瞬の静寂のあと、児童たちの
 「えー、そうなの?」とか「違った?・・・」との声。
 かたやお年寄りの方々は、
 「そこまで分けんならんとは・・・」
 そして一様に
 「むずかしいねえ・・・」との声。
 リサイクルセンターの方の細かい分別と、分かりやすい説明に「ふーん」としきりにうなずく事の連続です。
 今までの甘い分別の認識が一変しました。
 さらに、この細かい分別はゴミを少なくし、資源を再利用するためであり、日々の活動で使っている紙類もほとんどがリサイクルゴミから生まれ変わった再生紙で、日用品の中にもたくさんのリサイクル品があることに二重の驚きでした。
 児童館では、毎年夏休み中リサイクル工作で牛乳パックから葉書を作り暑中見舞いを出しています。これは趣向を凝らした手作りの葉書として、とても喜ばれています。







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