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3 まとめ
(1)保育所地域活動について
 いわき市の民間保育園での保育所地域活動事業の実施については、平成14年度には世代間交流等事業が14ヵ所、地域の子育て家庭への育児講座が9カ所、地域における異年齢児交流事業が5ヵ所、保育所退所児童との交流が4ヵ所、子育て・仕事両立支援事業が2ヵ所、保育所体験特別事業が1ヵ所、小学校低学年児童の受け入れが1ヵ所となっていました。平成15年度には、世代間交流等事業が14ヵ所、育児講座・育児と仕事両立支援事業が9ヵ所、異年齢児交流等の事業が9ヵ所、小学校低学年児童の受け入れが3ヵ所、保育所体験特別事業が1ヵ所となっています。
 世代間交流等事業については近くに交流のできる施設が無かったり、幼稚園や他の施設でも同じようなことをしていたりして、地域における需要が少ないということもあります。
 また、講座を開くための場所の確保ができなかったりして、施設・設備の面で実施することが難しいところもあると思います。さらに在園児の保育の充実や保護者への対応だけで人手がとられてしまい、地域活動事業の企画をする時間が無かったり、地域の方たちに応対する人がいないということもあります。しかし、地域の子育て中の母親にとっては、保育所地域活動事業に取り組む保育園が身近にあるということはとても重要なことです。
 実践例で紹介した事業については、特別な担当者等がいなくても実施することができます。例えば世代間交流等事業については、はじめから地域の人との交流をするのではなく、保育のなかで園児の祖父母と遊ぶ機会を設けたりしているところもあります。その中から、祖父母の方に物作り等を指導してもらったりして、その方以外の指導のできる方を紹介してもらったりして関係を広げていくことができます。また老人施設などでは、あまり立派なものをしなくても、普段園児が歌っている歌を聞かせてあげたりするだけでも十分というところもあります。実際にいわき市では、平成15年度は全ての公立保育所で世代間交流等事業に取り組んでいます。
 育児講座については、はじめから地域の人だけを対象にするのではなく、在園児の保護者のニーズにあわせた内容で、講師も園長や主任保育士や栄養士等の保育園の職員が担当しているところも多くみられます。在園児の保護者に協力してもらいながら何回か行っていると、地域の方々も興味をもって参加するようになります。子育てについての興味や心配事などは在園児の保護者も地域の方々も変わりません。そして、同じ講座に参加することによって在園児の保護者と地域の保護者との交流も生まれ、保育園についての地域の方々の理解も深まっていくようになります。また、職員も在園児や地域の保護者の方のニーズを把握することができ、自分たちの保育を見直す機会とすることができました。
 異年齢児交流等事業についても、保育園と別になにかを企画するのではなく、保育園の行事をできるだけオープンなものにして、まずは行事に参加してもらうことから始めています。参加者は初めは卒園児や一時保育の利用者に限られてしまいがちでしたが、徐々に地域の子どもたちの参加が増えてきています。地域の子どもたちと保護者が保育園に慣れた段階で、地域の子どもたちだけを対象にした活動を実施してみようと考えています。「もりのひろば」、「もりのくらぶ」の参加者と地域の小学生が交流するようなことができればおもしろいと思います。
 
(2)放課後児童の保育について
 いわき市には現在23ヵ所の放課後児童クラブがありますが、そのほとんどが運営委員会(保護者会)によって小学校の敷地内の建物や余裕教室を使用して運営されています。保育所に関係するものとしては、保育所を運営する社会福祉法人が保育所の敷地内の建物を使用して運営しているところが2ヵ所、児童クラブの運営委員会(保護者会)が保育所の余裕教室を使用して運営しているところが3ヵ所(公立1ヵ所、私立2ヵ所)、認可外保育施設が運営しているところが2ヵ所となっています。また、小学校低学年児童の受け入れを行っている保育所は3ヵ所となっています。
 たしかに、保育園で放課後児童を保育することにはよい面がいくつかあります。一つめは、子どもたちが小学校就学前とあまり変わらない環境で生活することができることです。二つめは、その子どものことを良く知っている人がそばにいることができるということです。担任をしていた保育士にいつでも会うことができます。三つめは、他の場合よりも少人数の集団での生活ができることです。保育園の余裕教室や園庭は小学校に比べて小さいので収容できる人数も限られています。しかし、基本的には、放課後児童の保育は保育園以外のところで実施したほうが良いように思います。
 その理由は、先ずはじめに、保育園は放課後児童を受け入れるようには作られていないということです。保育室は小学生にとっては狭いものですし、机や椅子も小さすぎます。机や椅子は小学生用のものを揃えることが出来ますが、園庭の遊具はそういうわけにはいきません。もともと保育園の遊具は小さい幼児向けのもので、使用方法や構造も耐久性も小学生が十分に遊ぶようには出来ていません。次に担当者の問題もあります。保育所に併設の児童クラブの指導員はたいてい保育士資格を持っていますが、乳幼児の保育と小学生の生活の指導はまったく違うものです。乳幼児保育の経験者でも小学生の指導に慣れるまでは時間がかかります。最後に保護者の問題も感じています。児童クラブはもともと保護者の方々が自主的に集まって場所と指導員を確保して始まっているところがほとんどです。しかし、保育園に併設されている場合には、相談事が生じた場合にも運営する側と利用する側という構図になりやすくなっています。又、学校を単位とした保護者間の関係づくりにも影響を与えてしまっているようにも思います。
 法人が保育園内で運営するような形よりも、学校を単位とした保護者の集合体による運営のほうが地域に根ざした児童クラブを作っていくことにつながると思います。地域の方々の協力を得ながらそのような児童クラブ作りのお手伝いをしたいと思っています。又、保育を必要とする児童の人数が少ないなどの理由で、学校単位の児童クラブを作ることが出来ない地域の放課後児童に対しては、保育所地域活動事業の形での保育に引き続き取り組んでいきたいと考えています。
 
4 おわりに
 保育園の活動を広く地域の方々に知って頂くことも大切です。当園では保育園開放や育児講座のお知らせのチラシを作って、保健所内の「子育てサポートセンター」で配布してもらっています。又、保健所で行なう乳幼児健診の会場でも毎回お母さん方に渡して頂くようにお願いしています。さらに、活動に参加したお母さんから口コミで広がって行くことも大きな力になります。
 色々な地域活動事業を行なうことによって、保育園を拠点として多くの人たちのつながりが出来ました。今年の10月にはその人たちと一緒に保育園で「野染め」を行ないました。「野染め」とは屋外で、白くて長い木綿の布を、刷毛を使って皆で思い思いの色に染めて行く芸術です。3歳以上の園児とその家族や「もりのくらぶ」、「くらふとくらぶ」に参加している地域の親子、児童クラブの小学生、保育園の保育士等、たくさんの人たちが大きな布のまわりを囲んで、楽しく和やかに染めることが出来ました。初めて会った人たちが違和感なく共に作業することが出来たのも、利用している時間等が違っても共に保育園に集う仲間だという意識を持てたからだと思います。
 いわき市の乳幼児の4分の1が認可保育所を利用していますが、3歳未満では在園児の3倍以上の乳幼児が家庭で保育されています。現在の子育てを取り巻く状況では母親が孤立してしまうことも少なくありません。それを防ぐために様々な施策が行われていますが、その中でも保育所の地域活動事業が果たす役割は小さくありません。これからも在園児の保育の充実だけではなく、保育所の職員が地域の子育ての充実を図るために活動していくことが求められていると思います。







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