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2)放課後児童クラブにおける安全の確保
 「放課後児童健全育成事業実施要綱」(平成10年4月9日、児発第294号。厚生省児童家庭局長通知)、「放課後児童健全育成事業の実施について」(平成10年4月9日、児環第26号、厚生省児童家庭局育成環境課長通知)では、放課後児童クラブにおける事故防止対策に関する内容として、次のことがらを挙げています(太字・・・筆者)。
運営・・・市町村等は、利用する放課後児童の健全な育成が図られるよう、衛生及び安全が確保された設備を備える等により、適切な遊び及び生活の場を与えて実施しなければならないこと(実施要綱)。
事業の実施方法等について・・・本事業は、衛生及び安全が確保された設備を備える等により実施されなければならないものであり、その活動に要する遊具、図書及び児童の所持品を収納するためのロッカーの設備等を備えるものとすること(課長通知)。
活動内容について・・・本事業においては、次の活動を行うものとすること(課長通知)。
○放課後児童の健康管理、安全確保、情緒の安定
 
3)放課後児童クラブにおける事故事例
 事故防止対策を講ずるうえで、放課後児童クラブで発生した事故事例を収集し、その原因やその後の対応を知ることは有意義です。独立行政法人日本スポーツ振興センター注2)は、毎年度、保育所、幼稚園、小学校等の管理下における事故に関する統計を公にしていますが、全国の放課後児童クラブにおける事故事例、事故統計に関する資料は極めて少ない。【表1】は、筆者が収集した放課後児童クラブにおける事故事例の一部を紹介したものです。今後、放課後児童クラブにおける事故防止対策のあり方を検討、改善するためにも、事故事例を全国的規模で収集して、放課後児童クラブの設置・管理者、指導員(保育士)、保護者等が情報を共有し、それぞれの立場から事故防止に努められるような工夫が望まれます。
 上述の旧厚生省担当課長通知では、放課後児童クラブの実施方法等について、「市町村等は、児童の安全管理、生活指導、遊びの指導等について、放課後児童指導員の計画的な研修を実施するものとし、また児童館に勤務する児童厚生員注3)の研修との連携を図ること。なお、都道府県は、児童の安全管理、生活指導、遊びの指導等について、指導的な放課後児童指導員の計画的な研修を実施すること」を示しています。
 県や市が主催する放課後児童クラブ指導員・児童館児童厚生員合同研修会において、安全管理・安全指導に関する講義を依頼されることがあります。ある地方都市では、エンゼルプラン・新エンゼルプラン策定以降、放課後児童クラブの設置数が急増し、登録児童総数も増加したこともあり、数年前に比べて事故件数も増加しているといいます。
 
表1: 放課後児童クラブにおける事故事例
学年 性別 発生
時期
発生場所 負傷・部位 事故の状況
1年 4月 児童クラブ室 頭部/2針縫う切り傷 遊び時間中、仲間と児童クラブ室内やその周辺で追いかけっこをしていた。当日は雨天であったため、クラブ室に置いてあった衣類乾燥用のハンガー台に隠れようと本児や仲間が繰り返し出入りしていた。指導員が注意したため一旦は遊びを止めたが、その後再度、ハンガー台に出入りしていたために、追いかけてきた仲問から逃げようとして、頭を持ち上げた際に、ハンガー台のアーム付け根に頭部を強打し、出血した。
1年 4月 児童館広場―大型固定遊具 右ふくらはぎ/打撲 4月から放課後児童クラブに加入。大型固定遊具で遊んでいる最中に、身体のバランスを欠き、遊具の支柱に右足のふくらはぎ部を強打。
1年 12月 体育館入り口 右外耳/切り傷 靴下を履いて歩いていたところ滑り、石製の敷居の隙間に耳を挟み込んだ。
1年 2月 児童クラブ室 前額部/挫傷 児童クラブ室に駆け込んできたところ、つまずいて転倒し、座卓に頭部を強打。
4年 10月 遊戯室と和室の境 左腕:上腕部/骨折 鬼ごっこをしていて敷居につまずき、転倒。
 
 ある放課後児童クラブで発生した重大事故は、他のクラブでも同じような、あるいは、類似の事故が起こり得ることです。事故防止対策として、各放課後児童クラブが独自に検討、改善することが必要であることは述べるまでもありませんが、県や市町村単位での研修会の機会があれば、事故防止の基本的内容や対応のあり方を理解することのほか、参加者が互いに事例を持ち寄り、事故原因をどう考えるか、防止対策はどうあるべきか、保護者への対応のあり方などについて意見交換を行いながら、県内あるいは市町村の放課後児童クラブの全体が相互に知恵を出し合い、事故防止対策を向上させるような工夫も取り入れることが望まれます。
 
4)放課後児童クラブにおける事故防止対策
 最近、ある県の児童館館長研修会で児童館・放課後児童クラブにおける事故防止をテーマにした講義を依頼され、事故の定義、安全管理、安全指導、児童館長・児童厚生員の役割等に関する基本的な話をする機会がありました。講義後、2、3名の館長から事故防止、安全対策に関する基本的なことがらが理解できてよかったと感謝の言葉を頂いた。新採用の児童厚生員や放課後児童クラブ指導員が対象の研修会であればともかく、児童館の管理・運営、子どもの指導の責任者である館長や児童厚生員・放課後児童クラブ職員としてすでに数年の経験がある職員であれば、事故防止対策の基本を解説しなくても、既に十分な見識をもたれているであろうから、大学での学生を対象にした講義のような内容・レベルでは失礼ではないかと思いながら話をしています。ところが講義後に質疑応答の機会があると、「安全管理」を子どもの遊び・行動を規制することと誤解している人、事故防止をあまり重視していないと思われる中堅職員に出会うこともあります。
 放課後児童クラブにおける事故防止対策の基本は、保育所での事故防止対策と大きな違いはないと言えましょう。但し前述のように、放課後児童クラブの対象児は主に小学校低学年児童であることから、幼児以上に状況に応じた個別的、集団的な安全指導に重点を置いた対応が重要になってきます。
 施設設備の安全管理の具体的な実施方法、施設設備の安全点検マニュアルの作成・活用、医薬品の管理、適切な応急処置、緊急時の職員体制、事故記録簿の作成・活用などについては、日本保育協会編・出版による『特別保育実践講座:保育所における事故防止・安全保育』(平成15年)で詳述されているので、これを参考にして放課後児童クラブにおける事故防止に応用されることが望まれます。
 乳幼児を対象とする通常保育と異なる点は、言うまでもなく体格、運動能力、運動量、興味・関心などが乳幼児とは異なる小学生を対象としていることです。同じ保育室や園庭で乳幼児と小学生とが混在するような場面では、小学生の遊び・行動による乳幼児の事故にも配慮することが必要です。もう一点加えることは、通常保育の登降園は保護者の引率によりますが、放課後児童クラブの登録児童は、学校から放課後児童クラブまでを保護者なしで移動しなければなりません。下校時にマイクロバスで児童を迎えにいく放課後児童クラブもありますが、登録児童が使用する道路や周辺の鉄道・踏切、河川・水路、利用する電車やバスなどの状況についても安全を確認し、事故防止に努めることが肝要です。
 

注2)独立行政法人日本スポーツ振興センター・・・これまでの日本体育・学校健康センターの業務を引き継ぐとともに、国立競技場等のスポーツ施設の運営、スポーツ活動に対する助成事業を行う独立行政法人として平成15年10月1日に発足。
注3)児童厚生員・・・児童館、児童遊園等の児童厚生施設において、児童の遊びを指導する者をいう。







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