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III. 私たちの保育実践
1. 山形県・キンダー保育園
園長 海和 宏子
(1)保育園の概要
 当法人には二つの保育園があります。一園は山形市の北部地区に位置しますキンダー保育園、もう一園は市の南部に位置するキンダー南館保育園です。前者は昭和42年4月キンダーガーデン(子どもの園)私設保育園としてはじめ、昭和48年12月法人の認可を得ました。翌年4月社会福祉法人キンダー保育園として、3歳未満児(産休明け児から)30名の県内で第一号の小規模保育園としてスタートしました。当園のおかれている地域の環境は、昔からの歴史や伝統を大事にし、住民も昔馴染みの人達が多く、保育園の生い立ちや経緯をよく理解してくれています。また子どもたちの育つ環境も、現在は祖父母の協力を得やすい状況ですが、急激な人口増等は見られないものの、周辺の大型店進出やマンションの建築、公共施設の移転などが続き、確実に都市化をたどり、核家族の増加が見られる傾向にあります。従って地域にいる子ども、親も家庭の中で一対一の関係にあり、子どもの心身の発達についての不安や母親自身が心のケアを求めていたり、また孫育てに悩む祖父母の声など、保育園に相談するケースが多くなりました。相談にこられる方は良いのですが、なかなか一歩踏み出す事のできない地域の家庭に向けての子育て仲間作りという観点から、地域活動の一つとして取組み現在に至っています。
 また後者のキンダー南館保育園は、定員90名(生後4ヵ月児から)で昭和55年4月に開園いたしました。設立当初の田園風景は、あっという間に住宅・大型店・マンションに様変わり、山形市内では一番の都市化が進み、人口がどんどん増加している状況で、保育園の入所希望者も多く、待機児童が集中している状況です。従って小学校も市内で一番のマンモス校となり、放課後保育の児童も大勢です。昔からの住民が減少している最近は、色々の地域から集まった人たちです。又、保育園に在園している子どもはもとより、地域の家庭保育を受けている子どもたちは本当に幅広く様々の家庭環境にあります。日々めまぐるしく変化する地域と保育園の連携は、なかなか難しいものがありますが、町内の主な役割を担っている方々や、民生児童委員の方、小学校、中学校、その他の地域の方々のお力を頂きながら、保育園も地域の一員として参画し、地域の子育て支援の一端を担っている現在です。かえりみますと平成3年度から実施しました一時保育の実績等も地域活動事業の取り組みに役立ち生かせた一つの要因になったとも考えられます。急速に変化する社会状況の中、保育園における子育て支援施策については、大きな視野のもと子育てしやすい環境整備を急がなければなりません。また子どもが安心して家庭で、そして保育園で生活できるようにする事が基本です。この頃、子どもに関して、胸の痛む事件等を聞くにつけ、子どもが主役である事をいつも忘れることなく地域へ発信し、地域との交流を深め一体となり子どもの幸せを求め、子どもの将来に夢をはぐくみ、子育て・子育ちの共有が地域の方々とできるように、一歩一歩しっかりと歩み続けて参りたいという思いで、実践に取組んでいます。
 
(2)地域活動事業・放課後児童の保育の実践
(1)キンダー保育園の実践―地域活動―
 保育園に在園している園児は核家族の中で育っているとはいえ地域柄、祖父母の協力を得やすい環境にあります。したがって地域交流活動も戸外遊びや日常の保育園活動の中で自然な形で営んできていました。しかし最近になり周辺の住宅事情の変化により環境も都市型となり、ほとんど家の中で過ごしているといった状況や、初めての子育てだが周囲に知り合いがおらず手探りで子育てをしているという母親からの相談などが増えてきています。当園も現状を踏まえ保育園という存在を更に地域へ開き、子育てをしているお母さん達、又子どもも楽しい子ども時代を過ごし親も安心して子育てができるよう応援していく必要があると思い、平成14年より取り組みを開始いたしました。
 
1)実践内容
第一回 保育園開放
 なんといっても実際の子ども達の様子を見てもらうことが、地域との連携を深める第一歩と考え、第一回目は保育園開放を行いました。当日は受付後ネームをつけてもらい遊戯室に集合。始めに朝の会を行いました。当園で力を入れているおやつや食事、これも見てほしいと、2歳児クラスの子ども達が手作りしてくれたスイートポテトのおやつを、調理師手作りのくまの顔をした紙皿に果物と共にのせてごちそうしました。つぶしきれていないさつま芋もありましたが、子ども達の思いが伝わったのか大好評でした。その後は天気も良かったので戸外遊びと室内遊びに分かれました。園庭には一時利用児と2、3歳児が集まりました。砂場用テーブルやままごとを用意すると、集中して親子で遊びを楽しみ、参加者の母親から保育士に「家の近くには同じ位の年齢のお友達がいない」といった話も聞かれました。一方遊戯室では普段家庭では遊ぶことができない遊具、大型の木製六角サークルや本物を取り入れたままごとセット等で玩具のやりとりや、窓から顔をのぞかせて「いないばあ」などとても穏やかに遊ぶ様子が見られました。参加した子どもは乳児が多く、母親同士が友達や知人であったりすると話も弾みましたが、初めての方には保育士が仲介となって好きな遊びの話や兄弟との関わりについて実例をあげて話しました。また参加者の日ごろの子育てによるストレスの声に耳を傾けました。参加した親の今おかれている立場や、核家族の中の親子の限られた中での生活ぶりが垣間見られ、改めてこのような機会を持つことの大切さを実感しました。終了後にはアンケートに協力頂き次回の参考にいたしました。
 
第二回 クリスマス会
 第2回目は、行事のクリスマス会を地域の親子と一緒にすることにしました。12月25日クリスマス当日ということもあり11組もの親子が参加となりました。初めての子ども達もお母さんの膝の上で落ち着いて会に参加することができた様子でした。ピアノに合わせ皆で歌を歌ったり、パネルシアターでプレゼント当てゲームを楽しんだり、途中サンタが登場する場面では目を丸くして驚く子ども、怖がる子ども、歓声を上げ喜ぶ子どもなど様々な姿がありました。参加した親も子どもに声をかけながらサンタの登場を一緒に喜んでいたようでした。驚いていた子どももサンタからのプレゼントに笑顔を浮かべ、記念撮影も盛り上がっていました。10時から11時までという短い時間ではありましたが、クリスマスならではのワクワク感を、参加した子ども達同様親も楽しむことができたようでした。
 
第三回 年齢別保育参加
 第二回目のアンケートから同年齢の子ども達の姿、そしてその子ども達に関わる保育士の姿を子育ての参考にしてほしいと思い、各年齢のクラスに分かれての受け入れを行うことにしました。受け入れの時期については体験を重ね、又運動会という大きな行事を経験した後であれば、在園児も初めて会う親子のことを受け入れることができるのではないだろうかという判断から決定しました(各クラスヘの参加人数は資料1を参照)。予想以上に在園児が参加者のことを受け入れることができたということがまず大きな驚きでした。私達保育士も参加者とじっくりと関わり、また普段通りの伸び伸びした在園児の姿に、母親達も育児について様々なことを見出すことができたようです。
 
2)子どもたちや保護者の反応
[0歳児]
 自然に初参加同士のお母さん同士が丸くなって、現在の子育ての様子や、これから成長するであろう姿を、在園児の姿を見て感じ取り、話に花が咲いていたようでした。保育者は具体的に在園児と共に遊ぶ様子を見せたり、雰囲気が和んできたところでおしゃべりの輪の中に加わり、相づちや、時には成長過程についてアドバイスをしたりといったことを心がけました。参加者の親は何より乳児を安心して遊ばせることができ、喜びと新しい自信を得て、開放感を感じていたようでした。
[1歳児]
 園庭遊びを行いました。「ユンボ!ユンボ」と手をショベルカーに見立てて砂を掬い上げている在園児と、車が好きな参加者の親子は、共通の遊びに盛り上がった様子です。又参加者は集団生活の経験がないことから、ルールを守ることができない事もあり、粗野な行動もありました。それに対応する保育士の姿に、参加者も学ぶものもあったようです。初めての試みに緊張もありましたが、同年齢だからこその気づきや和やかさ、楽しさがあったように思います。
 
3)キンダー保育園の活動のまとめ
 まだまだ手探りの状態での3回の地域交流でしたが、家庭で子育てをしている母親達が何を求めているのか、何に迷っているのかが少しずつ見えてきたように思います。保育園がより積極的に外に向かって発信していくことの大切さを感じながら、地域の中での子育ての中心的な役割ができるよう、様々な取り組みを、これからも行っていきたいと思います。







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