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II. 事故防止・安全管理の視点から「地域活動・放課後児童の保育」を考察する
埼玉県立大学教授
荻須 隆雄
はじめに
 少子高齢社会、女性(母親)の就労率の上昇、親の就労形態の多様化、都市化等を背景に、「家庭保育に欠ける乳幼児を対象に、原則8時間の保育を実施する児童福祉施設」としての保育所の役割・機能は、急激な様変わりをしつつあります。平成15年7月に公布された次世代育成支援対策推進法および児童福祉法の一部改正により、従来に増して地域における保育所の子育て支援に関わる社会的役割は大きくなってくるものと思われます。
 保育所における地域活動としては、第III章で紹介されているように、育児相談、育児講座、子育てサークル運営・支援などを中心とする地域子育て支援センターの運営、放課後児童健全育成事業や地域児童の健全育成活動、高齢者との交流(世代間交流事業)、地域の児童との行事等の交流(異年齢児童交流)などがその例です。これらの事業の運営に当たって、従来の伝統的な通園する特定の乳幼児の保育とは異なるさまざまな配慮が必要になってきます。本章では、特に事故防止・安全管理の視点から配慮すべきことがらについて触れることにします。
 
(1)事故防止・安全管理
事故の定義・・・事故は、「人と環境とのかかわりによって作用・発生し、人に身体的・心理的に障害注1)をもたらす現象」「人為的ではない急な力が作用して生じる身体的・心理的損害のみられる出来事」などと説明される。転落、転倒、落下、接触など(狭義の事故)により負傷(けが・やけど)したり、状況により死にいたる一連の出来事を事故(広義の事故)と言います。
 
安全指導・・・保育の場面、子どもの発達、個々の子どもの行動特性などに応じて、個別的な指導や保育士による話、絵本、紙芝居、ペープサート、VTRやテレビ番組を活用した安全に関する集団的な形態による指導を言います。
安全管理・・・保育士やその他の職員が、保育環境としての乳児室・保育室、廊下、手洗い場・足洗い場、便所、玄関ホール、水飲み場、室内用遊具や固定遊具、園庭(地表面、固定遊具の支柱などの基礎部の露出状態、門柱、柵、花壇、排水路・排水溝、樹木など)などの状況が、事故を発生させるような状況になっていないかを確認し、不具合に気づいた場合は、速やかに修理や使用禁止など適切に対処することが重要です。ベビーベッド・マット、机・いす、ピアノ、棚、棚に置かれているテレビ、靴箱、ドア、掲示物、敷物、床の状態などにも事故防止の目―顔・手を挟み込むような隙間、誤飲や窒息につながるような物の有無、金具の具合、転倒・落下の可能性などの有無―が注がれなくてはなりません。
 また、安全管理には、緊急時の職員配置、分担、消防署・警察署などへの連絡方法、事故発生・対応に関する記録、医薬品の管理、安全点検マニュアルの整備なども重要なことがらです。このような職員(大人)による環境の安全の確認・確保や職員体制づくりを「安全管理」と言います。
 通常保育における事故防止は、上述の安全管理のほか、保育対象の子どもの年齢・発達段階や個々の子どもの性格・行動特性に応じた安全指導が重要ですが、育児相談、育児講座、子育てサークルなどには、普段、保育所に通っていない乳児・幼児が保育所を訪れることになります。また、余裕保育室や同じ敷地内に併設された児童館で放課後児童クラブを運営している場合は、放課後児童クラブの主な対象は小学校低学年児童であることから、園舎内の廊下、便所や園庭などの共通設備を幼児が小学生に混じって使用することもあります。休日などの園庭開放では、不特定の幼児や小学生が園庭に出入りし、屋外遊具を利用することになります。さらに、世代間交流事業では、高齢者の出入りがあるでしょう。このように、地域活動、放課後児童クラブの運営に当たっては、通常保育における事故防止とは異なる配慮が必要となってきます。
 
(2)地域活動における事故防止
 育児相談、育児講座、子育てサークル運営・支援などを中心とする地域子育て支援センターの運営などに共通する点は、通常保育の対象でない乳幼児・保護者が出入りすることです。乳幼児にとって、家庭とは異なる広い空間の保育室や園庭、珍しいさまざまな物が目に入り興味を誘う。室内・廊下を走ってみたり、机・椅子、棚などによじ上ろうとしたり、触ろうとすることもあります。隔週に1回あるいは毎月1回といった頻度による育児講座・サークルに継続して参加する親子は、徐々に保育所の環境に慣れ、多くの保護者は家庭と異なる場である保育所でのわが子の事故防止に配慮すべき状況を把握していくでしょう。講座・サークルの開催時は、主催者である保育所の全職員が来所する乳幼児の事故防止に配慮し、特に開催の初回には、参加者(保護者)にも子どもの事故防止への配慮について伝えておくことが必要です。
 保護者が講座・サークルに参加している最中に、幼児が親から離れてひとりで園舎内や園庭などを探索することもあります。時間帯により園舎外の園庭(池、小動物飼育小屋、花壇など)、屋外遊具、倉庫、通用門・周辺道路などは、保育士等職員の目が届かないこともあると考えられます。職員や保護者の目が届かないこれらの場所に、保護者や職員が気づかぬ間に子どもが行かないような事故防止の配慮が求められます。
園庭開放・・・公園、児童遊園等の適切な遊び場がない地域では、保育所や幼稚園が園庭を地域の幼児、小学生に開放している例も多い。特に、休日・祝祭日に園庭を開放する場合、保育所に通園し園庭や遊具に慣れている幼児の利用であっても、その環境条件は普段の状況と異なっていることに留意しなければなりません。すなわち、普段の保育では、保育士の見守りがあるが、休日はその見守りが欠けやすい。休日の保育所での園庭開放時に、固定遊具による小学生の死亡事故例があります。保育所が園庭開放を実施する場合、事故防止対策の面から園庭に職員を配置する、あるいは、保護者・地域住民の協力を得て、大人が見守る体制をつくる必要があります。
 
(3)児童福祉施設併設型児童館事業
 この事業は、児童館を保育所、児童養護施設等の児童福祉施設に併設し、保育所等の専門的な養育機能を活用して、児童の健全育成、児童養育等に関する相談援助活動、各種の子育て支援サービスの利用促進等を実施することにより、児童館事業の総合的な展開を図ることを目的とし、平成12年4月から「児童福祉施設併設型民間児童館事業実施要綱」により実施されています(従来、財団法人こども未来財団が実施してきた「保育所併設型民間児童館事業」は、12年度以降、順次上記の事業へ移行することになっています)。
 実施要綱では、併設した児童館において行う事業として、(1)放課後児童健全育成事業、(2)地域児童育成活動支援事業(地域の実情に応じて、児童の健全育成・養育に関する相談事業/延長保育等の特別保育事業、放課後児童健全育成事業等に関する情報提供、利用に関する啓発・利用の調整/子ども会・地域ボランティアに関する紹介・支援/児童相談所・福祉事務所・学校・児童委員等との連絡など/地域行事との連携)、(3)児童健全育成特別事業(子育て支援/異年齢児との交流/引きこもり・不登校等児童に対する支援/思春期児童の養育の支援)が挙げられています。
 実施要綱に例示されている事業のなかには、電話での連絡・相談や印刷物の配布程度で済むものもあれば、乳幼児、小・中学生が保育所・児童館を訪れることもある。児童館が保育所と同じ敷地内に設置されているか、あるいは、別の場所に独立して設置しているかにより、事故防止対策も異なってくる面がありますが、共通する点は、初めて保育所・児童館を訪問する子ども・保護者があること、通常保育対象の乳幼児と年齢の高い小学生等が状況により混在することがあることなどです。
 行事開催時には、一時的に多数の者が来所することなど、普段の保育環境とは異なる状況がつくり出されること、普段の保育では使わない備品(テント、ガスコンロ・炭や調理道具など)が用意されることもあるでしょう。行事の準備のために、工具や釘(くぎ)・針金などが使われることもあります。乳幼児にとって、これらは興味・関心をひく対象にもなりますが、混雑時の多数の来客を保育所職員だけで見守ることが困難な場合もあります。
 行事の準備や後片づけには、保護者や地域の関係者による協力もあるでしょう。テントの支柱をロープで引っ張る際に、地中に差し込む杭や張られたロープに子どもや大人がつまずいたりしない配慮、工具や金具の管理、折りたたみ式テーブルの脚部ストッパーをしっかりと固定すること、強風で看板や掲示物が飛ばされないように配慮すること、備品などの収納場所や方法などについて、作業分担の責任者(職員や保護者等)に、来所者の事故防止のための留意事項を事前に伝えておくことなどが肝要です。
 また、行事終了後または翌日には、通常の保育が安全に行われるために、各保育室、玄関・昇降口、廊下、便所、園庭・遊具、備品等の収納場所(例:椅子・テーブルなどに子どもが近づいて、倒れたり崩れ落ちるような状態に収納されていないか)、施錠状態などを念入りに見回ることも事故防止のための重要なことがらです。
 

注1)障害・・・事故による負傷が治癒した後の視力・眼球運動障害、各種の機能障害、精神・神経障害、外貌・露出部分の醜状障害などや心理的に恐怖感を抱くことを言います。







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