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5 関連機関との関係
医療機関
 保育所保育は産休明けという生後57日からの幼弱児が対象となります。この頃は感染の危険があるし、またひとたび感染症を罹患すると、症状経過が著しいから、すぐに医療の対象となります。従ってこの頃の保育の中心は病気の予防と健康づくりということになり、およそ3歳以後の保育とはかなりかけ離れた特殊性があります。
 その後の保育に当たっても、乳から離乳食そして幼児食へと、わずか1〜2年の間に食事の形態も変わっていきます。そしてこれも子どもの健康の基礎であるからだ作りに大きく関係するのですから、ここにも医学的な問題がたくさん出てきます。そこで看護師、嘱託医の協力が必要になりますが、必ずしも看護師は常駐していないし、嘱託医の対応もなかなかできないことがあります。
 一方親は自分の子どもが病気のときは小児科を受診し治療を受けたり、また日常の健康についての相談をしています。しかしそれは親子が受診する診療所との関係だけではなく、保育所保育へと引き継がれていくことがしばしばです。例えば病気の終了とともに服薬を中止して登園させるのが普通ですが、しばしば薬を使いながら、或いは処置を続けながら病気をひきずって保育園の保育に加わることがあります。保育園で薬を飲ませる、病気の経過を観察するなどです。近頃ではこれを病児保育といって普段の保育に組み込まれている施設もあります。そこで保育園としては、そのような子どもにどう対処するかということです。
 中でも特に問題となるのが保育園での薬のことです。親からこの薬を飲ませてくださいと依頼されることがしばしばです。全国統計をみてもかなりの率で多くの保育園がこのような薬の問題をかかえています。
 しかしここで考えなければいけないのは、その子どもにとって必要な薬を医者から処方してもらい服薬させるのはその子の保護者でなければならないということです。薬を飲むということは治療を続けているということであり、薬を飲ませるのは病気を治すためですから、その子どもに責任をもつ保護者が、その行為をしなければならないのです。
 医者からの薬は医療の一部として子どもに使うのですから、担当する保育士が親に代わって行なうということはできません。そのために看護師が配置されていて、医者の指示によって子どもに飲ませているのが現状です。従って看護師不在のところでは、保護者が服薬のために園に来て飲ませるのが原則です。しかしそれができないときには止むを得ず、その薬について記載された連絡票によって保育士が飲ませるという方法がとられています。しかしこれも本来なら正当な行為ではないので、できるだけ保育園で飲ませなくてもよいような方法をとってもらいたいわけです。
 そこで親が子どもを連れて診察を受けたときに、何時から何時まで親元を離れて保育園で保育されているということを話して、出来るだけ保育園で薬を飲まさなくてすむような方法をとっていただくように、保育園として保護者に周知しておくことが必要です。
 それによって保育園での服薬がかなり軽減されたというデータもあります。病気の治療上やむを得ず必要なことがあるでしょうが、できるだけ主治医の協力を得るように、親に理解を求めるようにしましょう。親は簡単には仕事を休むことはできないのですから、このような行為もまた子育て支援といえるでしょう。
 以上のようなことは保護者の理解が必要ですが、同時に保育園を取り巻く近隣の医療施設に、保育園における薬の取り扱いについての考え方を周知させておけば、保育園での薬についての問題はかなり少なくなるでしょう。
 薬に限らず医療の範囲に属するようなことを、保護者から依頼されるようなことがあると思いますが、これについても保護者と保育園との関係だけではなく、主治医との三者の話し合いのなかで、お互いの了解のもとに解決していきましょう。
 
児童相談所
 近年児童虐待が大きな問題として取り上げられてきています。そのために児童虐待防止法が制定されていますが、保育園は直接子どもを預かって保育するわけですから、子どもの様子によって虐待されているのではないかということに気付くことがあります。法律にもあるように疑いがあるときは、それを児童相談所に通報しなければならないことになっています。
 保育所としては家庭での子育てに深く立ち入ることはできないので、ふだんから相談所の臨床診療士などと話し合えるような関係をもつことが必要です。
 
6 保育についての研修
園における勉強会
 担当する園児の保育については、自分だけで抱え込むのでなく、園内で勉強会をもってお互いに意見を交換し合うことが大切です。保育という専門性で自分の判断で保育しているわけですが、よりよい保育を目指すためには、第三者からの意見も必要です。自分としてはよかれと思う保育であっても、知らないで軌道からはずれた保育をしていることがあります。一人一人の子どものケースについて、お互いに話し合うことは、よりよい保育を目指すことであり、普段気付かなかったことがわかって勉強になります。
 医学は病人を対象としているので、しばしば症例検討ということで他の人の意見を聞く機会をつくっています。その結果医療はよりよい方向に向き、結果は目に見えて現れます。
 子育ても同じで一人一人のよりよい保育が、その子の将来に大きく現れてきます。その将来が医学よりずっと先なだけに、なかなか現在を見直すというところに及ぶことが少ないと思いますが、一人一人の子どもの検討を、専門職として欠かすことはできません。
 
教育機関・研究機関等との連携
 よりよい保育を目指すためには園だけにこだわらないで、関係する教育機関や研究機関などと普段からいろいろな形で連携をもち、現場からの報告、そして専門家の意見を聞くことも必要です。そういう機関の勉強中の学生などが、現場を訪れて勉強するよい機会でしょう。それはまた現場の保育士やその他の職員の刺激にもなるでしょう。
 保育は幅広く展開しています。早朝から夜遅くまで、そして低年齢児からの保育です。よりよい保育内容を目指して、よきテーマを目指して、研究していかなければならないときです。家庭との連携については、現在の保育園における昼寝をどう考えたらよいか、保育園における研究課題の一つの例です。
 
7 保育士の生涯研修
専門領域に関する自己研修
 保育所では集団保育ですが、本来子育ては一人一人の子どもの生活の中にあります。保育所保育指針にも、一人一人という言葉が70箇所もあります。そう考えたとき、保育所保育指針は大きな目標でありますが、実際には一人一人の子どもをめぐっての保育のあり方を勉強していかなければなりません。そして保育所では集団保育の中の一人であっても、家庭では親の一人の子どもの存在です。そして親はたえず子育てについての情報を求めています。母親は平均して一冊以上の育児雑誌は見ているという数字があります。育児雑誌の中には最近の育児の傾向や病気の解説や、育児をめぐるあらゆる項目が毎号掲載されています。と同時に、育児産業は育児関連用品等についての広告をのせています。親はそのような内容のなかの興味のあるところに目がいき、それをわが子の子育てに関係づけていきます。親の子育てについての情報は、このような雑誌等の他、友だちからが多いといいます。そのほか日常生活の中で目に入る他人の子育ての様子などを取り入れていき、よいこともよくないことも見聞しながら親は子育てを進めているのです。
 保育者は専門職として担当する園児にかかわるのですが、そこにはやはり親と同じような情報を吸収して、日常保育の背景におかなければならないと思います。子どもは次第に大人の生活のなかに入っていくのです。社会との触れ合いを持ちながら保育していくためには、常に自己研修をして知識技術を向上させていかなければなりません。親が日常生活の中で吸収している育児雑誌や育児書、新聞などに目を通していく必要があります。
 在園時の保育は、保育士と園児との対応です。しかし園児は家に帰ると親が育てます。園児の立場になると昼は保育士さん、夜は親ということになり、環境が変化します。そこで子どもを健やかに健康に育てていくためには、保育士と親との心の結びつきが必要です。それは保育士と親との大人の関係で、普通にいう気心がしれている人との関係です。親に接する時間は朝と夕方で短いだけに、そのときのお互いの関係は、子どもにまで及ぶことがあるでしょう。そのわずかな時間の保育士さんと親との会話を大切にしましょう。ほんの一言が子どもの心を結び、園児の幸せをもたらすでしょう。その反対を考えたときは、園児に大きな影響を及ぼすことがあるということを銘記しましょう。
 子育て支援は難しいことではありません。保育士さんの一言が親の子育てに勇気を与えるのです。







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