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2 親と園児と保育者との交流
(1)親が保育に参加
 早朝保育、延長保育などで、保育所に委託する時間が長いと、家庭では親子の触れ合いが薄くなり勝ちです。そして親はどちらかと言えば夜の子育ての時間が長く、お互いに疲れているときです。子どもも疲れていてあまり食べない、ぐずるなど、不機嫌なこともあるでしょう。このようなことがわが子に対する育児の自信をなくしてしまったりします。しかし昼間の明るいところで元気に動き回っている子どもを見たり、また乳児の笑顔を見ればわが子を改めて見直し、親としての気持ちが深まってきます。親はできるだけ昼間の時間をとって保育園の保育に参加し、わが子を集団の中で眺める機会を持たせたいと思います。
 平均して保育は月曜日から土曜日までの6日間、親は週休2日という時代です。パートであれば更に自由な時間もあるはずです。園での生活と母親或いは父親の労働の時間など調節して、昼間の元気なときに大いに参観してもらうことは、保護者ばかりでなく、保育士にとっても触れ合いのときであります。これが保護者と保育者との心の交流となり、保育者は担当する園児への親しみがわき、また保護者も安心して子育てを保育者にまかせることができるでしょう。
 しかし実際には親のほうの都合でなかなかそのような機会がもてないようです。それでも園児の発育を考えたとき、親と保育者との親密な触れ合いは欠くことができないのですから、保育園としてもできるだけの努力をして、親の了解を得ることが必要だと思います。
 園の保育を理解して信頼を寄せるためには、保護者を保育の現場に招いて参観していただくことが必要だからです。
 
(2)保育園の催事
 園では一年を通じて数多くの催しがあります。4月の入園時には保護者の集まり、運動会、クリスマス、或いは一般的な通過儀礼として、桃の節句、端午の節句、七五三などがあり、更に地方によっては昔からの伝統的な行事があるでしょう。このようなことが人々の気持ちを一つにする大きな力となります。そして保育者と保護者との触れ合いのときでもあります。そのときの記録は子どもが成長したとき、楽しい思い出として残るでしょう。楽しい思い出はたくさんあったほうがよいと思います。
 子どもも3歳を過ぎて記憶の力が発達していくと、純真な子どもの時代を思い出して、当時の人たちとの友情を深めるし、お世話になった保育士さんを思い出すでしょう。園生活は子どもの心を発達させます。それにはこのような昔からの伝統的な催事を大切にしていきたいと思います。
 
(3)園児の散歩
a 散歩道での住民との交流
 保育園では年齢によって園外の散歩が行なわれています。およそ決まった道を歩くわけで、子ども達にとっては新しい発見が多いから楽しみの時です。その時間に乗り物を見たり、たくさんの人とすれ違ったり、草むらでは虫や小鳥など新しい発見があるでしょう。園内でのお遊びと違って、子ども達はいきいきとしています。そのようなとき、ややもすれば忘れられているのが散歩道に点在する居住者との関係です。おそらく同じ道を毎日歩むわけですから、そこに住んでいる人たちは決まった時間に通る子どもの声に親しみを感じ、窓を開けて眺めることもあるでしょう。そのようなとき一緒に歩く保育士はどのように対応をしているでしょうか。
 見慣れている風景ですが、子ども達とそこに住む人たちとの関係は、ただ知っている人がいるというだけの存在に過ぎません。せっかくの散歩道で出会ういつもの人と、何か触れ合いの機会がないでしょうか。声かけをする、或いは声をかけられることがないでしょうか。少なくとも毎日通る道ですから、保育園から散歩道に沿う民家に、「私たちは○○保育園です。お宅の家の前の道をいつも散歩させてもらっています。3歳児のクラスです。迷惑をかけないように注意していますがよろしくお願いします。もし機会があったら子ども達に声をかけてください。また私たちに伝えたいことがあれば、その折にでもまた、或いはお手紙ででもいただければ幸いです。子ども達は散歩を楽しみにしています。将来散歩道のいろいろな風景が頭の中に残っていくことでしょう。どうぞ応援してください」とでもお手紙を差し上げたらどうでしょうか。それこそ子どもが大きくなったときに、何かの機会にそこを通ったとき、ずっと昔の時代をなつかしく思い出すにちがいありません。
 
b 商店街にて
 お散歩は危険がないようにということで計画されているから、ややもすれば静かな家のないようなところを選んでいることが多いけれど、時にはお店の前を通ることもあるでしょう。そんなとき毎日見るお店に興味を示すことがあります。在宅児がお母さんと外出するときはいつもそのような場面で子どもは足を止めてしまったりします。お母さんの目的と違った行動にでるわけですから、ときには無視したりすることがありますが、子どもはそのような機会をとらえて世の中を覚えていくわけです。
 散歩道に子ども達の目をひくお店や公共機関などがあるときには、できるだけそこにふれる機会をつくっていくことは、子ども達の世界を広げていくことになるでしょう。集団での散歩では相手に迷惑をかけることがあると思いますが、少なくとも子ども達の関心を受け入れてあげるようにしたいと思います。それらのことを体験することが散歩の奥義だと思います。そして散歩は子ども達が街の中の子どもになる第一歩で、それは保育園が街に溶け込んでいくことでもあります。
 
3 育児情報の発信
(1)感染症情報
 保育園はその地域の子ども達を保育する集団ですから、ここで発生する感染症をそのままその地域における子ども達の感染症の情報として受け止められます。保育園で、はしかで休む子どもが多い、手足口病に何人かかっている、というときには、おそらく保育園を中心とする地域で、同様の病気が子どもの中ではやっていると考えられます。しかし在宅のお母さんはそれを知らないわけですから、保育園の情報をその地域の子どもをもつお母さん方に知らせるために、市区町村が配布する新聞などで知らせる必要があります。
 医療機関では定点観測というのがあります。これはある地区で何箇所かの小児科診療所を決めて、その診療所が一週間でどのような感染症を診察したか、はがきで中央に報告するわけです。何月何日に何歳の子どもの何という感染症を診察したということをまとめて、一週間ごとに報告するわけです。そしてその地域全体の数字を計算し、更に厚生労働省に全国から送られます。その結果が毎週集計されて、第一線の医療機関に届けられるので、全国的にいまどのような感染症がはやっているか知ることができます。それによって予防接種をすすめたり、早期の診断のための注意などを勉強することができます。しかし報告から情報が戻ってくるまでには数日間かかるので、もはや流行が通り過ぎてしまっていることがあります。これと比較すると、保育園ではある地域に限られているから、保育園からの報告の結果は短時日の間に住民に知らせることができます。これは在宅児の子育てにとってたいへん有効な役割を果たします。
 これと同じようなことは、診療所で作成した感染症別の登園証明書の数をまとめて、いまどのような感染症がはやっているか医師会から知らせています。
 保育園からの感染症の情報は診療所からの情報とともに、感染症の予防や早期診断に大きな役割をしてくれるでしょう。
 
(2)最近の育児情報
 保育園は多数の乳幼児の保育ですから、季節の移り変わりや天候の変化、子どもの事故などについてどのようなことに注意しなければならないかということに、たえず気を配っています。気温が下がっていくので注意しましょう。最近夜更かしの子どもが多く、これが子どもの食事や遊びなどにも大きく影響します。早く寝かせるようにしましょう。など育児上の注意などを広報誌などで目につくように書いていただいたら保護者にとっては助かるでしょう。子育ては毎日のことで、それは親の生活とともにあるのですから、地元の生活版のようななかで取り上げられる内容です。このようなことは繰り返し目に付くようにすることです。園児にたいする保育園からの便りは普通に行なわれていますが、これは一般の人たちに配布するので、保育園の存在を広報で配布されるということです。
 
4 嘱託医との連携
(1)嘱託医の協力
 園児は産休開けから入学前までの乳幼児です。保育園では日々の保育とともに、子どもの健康管理、さらに幼若児については病気の予防、早期発見とかなり保健の領域にわたった仕事です。さらに障害児や軽度の病児までお預かりする時代ですから、保育にあたっては嘱託医の援助協力なしでは保育を充実することはできません。そして園児はいつどのような事態が発生するとも限らないので、普段から嘱託医との密接な関係が必要です。それはあるときは電話一本でお願いすることがありましょう。不時に何かが起こったときにこそ、連携が必要ですから、ふだんから保育所職員と嘱託医との心の触れ合いがなければなりません。
 嘱託医をお願いしたらそれですべて円滑にいくとは限りません。お互いの人間関係を結ぶためにはいろいろな機会に嘱託医と保育所職員との触れ合いの機会をもちましょう。保育園での催事の折など、できるだけ触れ合うときを持つようにしたらどうでしょうか。何気ない普段の交流がお互いの心を結びつけ、そこに人間的な交流が生まれていき、いざというときに協力をお願いすることができると思います。保育園が地域の子育て支援のために活動していくにあたって、嘱託医の協力が大きな力となることでしょう。
 
(2)嘱託医と保育所保育指針
 保育園における保育の内容については、厚生労働省が策定した保育所保育指針が基礎となります。その内容を見ると、随所に嘱託医に相談なさいという項目があります。離乳開始の時期、スキンケアでどのような外用薬を使うか、除去食の場合、そのほか、嘱託医にという項目は26箇所に見られます。それはいずれも保育園における保健の問題について嘱託医の医学的知識・技術をお借りしなさいということです。普段、保育所保健の問題や園児の健康について、どのようなことをしているかという内容は、園児の保護者ばかりでなく在宅育児でのお母さんにとっても共通の問題です。嘱託医と保育園が協力して、広報誌を作ることもできましょう。それは地域における嘱託医の存在を広報することでもあります。嘱託医と一緒に保育所保育指針の内容をお互いに理解する機会をもつようにしたらと思います。







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