日本財団 図書館


■アタッチメントの質の違いに影響する子どもの側の特徴、親側の特徴
タイプB:
(乳児)後追いと人見知りがあった時期がある、人に甘えるのが上手、機嫌のよいことが多い、わかりやすい、人を見つめる時間が長い、人への関心が強い
(母親)安定している、家庭も安定している、相談相手がいる、情緒的な反応性が高い、よく抱っこをする、人との付き合いを楽しむことができる、親に暖かく養育された思い出をたくさんもっている、親との関係で苦労したこともあったが今はそのことについて心の整理ができている
タイプA:
(乳児)人見知り、後追いがなかった、あまり親に甘えてこない、あまり泣かない、おとなしい、手がかからなかった、人よりもおもちゃの方が好きである、
(母親)忙しい、情緒的な応答性が低い、抱っこすることが少ない、子どもに応えて相手をするよりも母親自身の都合で相手をする、自分自身も親から情緒的な対応を受けたことが少なかった、抱かれたことが少ない、親との関係を思い出して話すことをあまり好まない、人と距離をとって付き合う傾向、頑張りや、理知的
タィプC:
(乳児)泣きやすい、ぐずぐずいいやすい、手がかかってしょうがない、リズムが安定していない。
(母親)抱っこするのが下手である。しかし抱っこしていることは多い、子どもの要求を理解するときに幾分焦点がずれる、子どもが泣いたときに相手をするタイミングが遅れる、不安が強い、育児の手助けが得られない、家庭内の不安がある、自分の親との関係を思うと今でもいろいろ心が混乱する、
タイプD:
子ども側の特徴はわかっていない。
(母親)話がわかりにくい。現実なのか思い込みなのか区別がつきにくい話をする。
 
■安定したアタッチメントを形成している子どもと安定した自己
 安定したアタッチメントを形成している子どもは、落ち着きのある心をもっている。
 落ち着きのある心は、親子の相互作用を通して形成される安定したアタッチメントに支えられて作られる自己を中核として発達する。
 自己を中核として心がまとまっていく、子どもが自分の心を知ってまとめあげていくそのためには、上述した相互作用が有効である
まとまった心を発達させている子どもは、自分の周りの情報を処理しつつ、また自分を見つめながら・自分をモニターしながら行動する
 
図 自己の組織化
 
■気になる子どもの多くは、落ち着きのなさが特徴である
幼児期:(1)人との関わりを求めない落ち着きのない子
自分の遊びを持っていない子(常にうろうろしている)
自分の遊びをもっている子(限られた遊び、集団行動のときに落ち着きのなさが目立つ)少ない
(2)人との関わりを求める落ち着きのない子(目立ちたがり、ちょっかいを出す、話しかける、つきまとう)、
自分の遊びを持っていない子
自分の遊びを持っている子 少ない
(3)落ち着きがないことに加えて乱暴が加わる子
自分のしていることを邪魔されたときに乱暴になる
きっかけがないにもかかわらず乱暴になる
乱暴することがひとつの関わりであるという意味づけが可能な子どももいる
(4)次々と新しいものを求めて動く子ども(理解が早すぎる子ども)もいる
飽きやすいと誤解される
共通:不安になったときに親や人をつかって安心する方法を使えない
 
■落ち着きのない子どもの多くは自己の組織化が弱い子どもである
 落ち着きのない子どもの多くは、親との相互作用が十分になされておらず、安定したアタッチメントを形成できていない
 そのため、自己の組織化、心のまとまりが弱い子どもである
 情報を取り入れ処理する能力が発達していない、自分をモニターする能力が発達していない
 自分の気持ち、感情、欲求を知らない、伝えることができない
 興奮状態、体の動きを鎮めることができない
 不安なときに人を利用することができない
 
■大人が理解を組織化する必要がある
 自己の組織化を助けるためには、安定したアタッチメントの形成を図るとともに、周りの大人が子どもについて理解を深めることが大切である
 理解したことをまとまりのある構造に作り上げることを「理解の組織化」という
次のような情報を、時系列的に集めて整理する
(1)親との関係:乳幼児期における親との付き合い方
朝園につれてきたときの親からの離れ方、迎えに来たときの行動、甘え方、困ったときなどの使い方
(2)保育士、教師との関係:甘え方、困ったときなどの使い方、近づき方
(3)他児との関係:遊び、食事場面、散歩場面
(4)園への慣れ方:慣れるのに時間がかかるか、スムーズか
(5)生活習慣:食事、排泄、着替え、お昼寝、かたづけ、整理整頓、授業態度
(6)係り:お当番さん
(7)遊び:友達との遊び、一人でいるときの遊び、絵の掲示や発表、自己主張、積極性の程度、活動性
(8)その他、下の子ができた時の反応(やきもち、平気、お世話、赤ちゃん返り)
きょうだいとの親の取り合い
*これらの情報を表に書き出して整理しただけでも、子どもは変わってくる
 
■気になる子どもへの関わり方
 心がばらばらで、まとまっていない子どもに、子どものことを知っている大人が関わって、まとまるのを助ける
 感情や気持ちに触れる細やかな対応が役に立つ
 
 
子どもへの対応:まずは安定した関係を形成することがねらい。
甘えを出してきて、抱かれたり、そばにいる時間が増えるようになることがねらい。
そして人を信用できるようになること。
いらいらしないようにしながらそばに一緒にいる時間を増やす
遊びに興味をもって付き合う、体にそっと触ってみる、
次第に体に触れることを増やしていく、体を使った遊びをする(追いかけっこ、いっしょにごろごろ、くすぐり、おしくらまんじゅう)
しつこくなってくるのでそのつもりで相手をする、嫉妬、ねたみがわかりやすく表れてくる、
しっかりした枠をあたえる。そして、かかわり続ける。
だめなことは「だめ」としかり、その一方ではしっかりと付き合ってやる、しかり方はさっぱりと、
3か月、6か月適切な対応を続けないと変化はみられない。
 
母親への対応
(1)タイプA的な母親.
 人との付き合いに対して慎重な人であると認識すること。
 だから、こちらもはじめから接近し過ぎないこと。いろいろと助言しよう、指導しようという気持ちを強く持たない方が付き合いやすい。
 母親が困っているのかどうか、何か役に立ついい方法をさがしているのかをさぐりながら話をした方がいい。時には、いろいろと子どものことを言うが、子どもにかかわりたくない母親もいるので。あるいは、あまりかかわって欲しくない母親もいるので。もちろん、心のどこかでは助けを求めている。
「これこれこうした方が良いと一般的にはいわれているようですが、お母さんのできることをして下さい」
「お子さんのこの点についてはこのようなことが役に立つといわれています」
(2)タイプD的な母親
 気分の変動が激しい傾向がある。
 人と付き合いたいと思いながらうまく付き合えない。
 近づくことと離れることの間で揺れている。
 落ち着いて接する。一貫した態度で丁寧に接すること。
 
■特に落ち着きのなさに対しての対応
 落ち着ける場所の確保(保育室の中でコーナーをつくる、など)
できるだけ相手をする。
(学校であれば教師の近くに席をつくる)
枠・決まりの明確化。
伝達はできるだけ、言葉だけでなくて、視覚刺激も加えて行う(絵、写真、などの利用)。
 
■特に不安の強い子どもへの対応(多くはタイプC)
子どもへの対応:まずは安定した関係を形成することがねらい。
 安心感と自己の能力への信頼感をもたせることがねらい。
 子どもが納得いくまで抱っこしてやる、離すことを急がない、
 抱っこしながらおもちゃを持たせて遊ぶ、子どもよりも先に進むことを控える、
 子どものペースで進んでいって自分でできたという感覚を味わわせるようにする、
 ぐずぐずいうことがあるので気持ちやしたいことがわかったら言葉で「〜したいね」、「〜な気持ちがするんだ」と話しかけながらゆっくりと対応する、
母親への対応
 助けを求めていることが多い。しかし、助けを積極的に求めることが苦手である。
 子どもが自信をもてていないのと同じように、母親も自分の子育に自信をもてていないので、相談相手になりながら、慎重に、励ましながら、付き合っていくこと。静かに話す。強く指導的にならないように要注意。
 このような母親は、赤ん坊のころから、泣く子、ぐずる子を一人で抱えて苦労してきているのだ、大変な思いをしてきているのだと思って、大事にしてあげながら接すること。
 頼りがいのある相談役として機能するような心構えを。
 指導が先走らないように。良い評価を与えるように。
 母親が自信をもてるようになってくると、子どもへの対応の仕方がはっきりしてくる。
 「お母さんのできそうなことからしていきましょう」、「そのうちお子さんも落ちついてきますよ」
 「そんなふうにやって頑張っているのですね」
 
■いろいろな子ども
(1)5歳のA君:一人で遊ぶのが好き、集団行動に入らない
 園では積み木やレールを使って電車で遊ぶのが上手。「ゴトーンゴトーン」と口で言いながら遊んでいる。楽しそうなので、他の子も入れて欲しいようにすることもあるが、じゃまされるのでいやがる。それでも加わろうとすると、怒って押しのける。4歳の入園当初は、そのことで、他の子を泣かしてしまうこともあったが、少し減ってきている。
 遊びを中断してみんなと一緒に行動するように言われると、怒って泣き出す。そして先生から離れたところに走っていってしまう。お母さんが連れてくるが、さようならをするときに、お母さんにさようならを言うこともない。迎えにきても、帰るのをいやがる。
 担任にだっこを求めることもない。言葉の発達は少しゆっくりに見えるが、大きく遅れているわけでない。
(2)5歳のB君:この頃乱暴になってきた
 入園当初より、母親からすんなり別れてすぐに慣れたように見えた。一人で遊んでいることが好きで、一緒の行動は苦手。4歳のころから、なにかいらいらしていることが多くなり、他の子が作っているものを壊したり、何かされたわけでもないのに他の子をつねったりする行動が目立つようになってきた。
 母親は2番目の子の妊娠中。母親にだっこされている姿は見たことがないし、担当の先生にもまとわりついていることはない。他にはこの頃、わざとしかられることをするという話も母親の方からある。
(3)4歳の女の子Cちゃん:自分から自発的に何かをすることがない、園でしゃべらない
 園にきても何もしないで人のすることをみている。何かを自分からするということがない。一つ一つ担任が声をかけると動くが、そうでないと、ぼーっとしている。話ができないわけではないというが、園では話したことがない。他の子が何かをたずねるとうなずいたり首を振ったりして答える。一人っ子だが、母親は忙しいひとで、子どものぺースでつきあうのは難しそう。それに、母親は早いテンポで動く人で、次々と子どものことをやってあげている。また、次々に子どもにやらせようとする。
(4)5歳男子D君:障害児のようには見えないが、ふらふらと落ち着きなく動いている
 家では、母親が遊び相手をするとしばらくは遊びが続くというが、園ではふらふらと動き回っている。動きは早くない。一つの遊びを続けているということもない。担任に「ニーッ」と笑いかけて何かを早口で言ってくるが、言っていることがつかみきれないうちに、また向こうに行ってしまう。
 母親に近づいて来ることもあるが、抱こうとすると、すーっと離れていってしまう。関係のつきにくい子どもである。
 
参考書
親子関係:
(1)奥山眞紀子、庄司順一、帆足英一編「小児科の相談と面接」医歯薬出版株式会社 東京 1998。
(2)J. ホームズ著 黒田実郎、黒田聖一訳「ボウルビィとアタッチメント理論」岩崎学術出版社 東京 1969
(3)吉田弘道、「安定したアタッチメントの形成を援助するには」、生活教育、45、3、31-36、2001
(4)帆足英一他編、「実習保育学」、小児医事出版杜、2003
 
ウイニッコット(小児科、精神分析家)関係:
(1)グロールニック、S. A. 著 野中 猛、渡辺知英夫訳、「ウイニッコット入門」、 岩崎学術出版社、1998
(2)ウイニッコット、D. W. 著 牛島定信訳、「情緒発達の精神分析理論」、岩崎学術出版社、1977
(3)デービス、M. ウオールブリッジD. 著 猪股丈二訳、情緒発達の境界と空間 「ウイニッコット理論入門」、星和書店、1984
 
抱くことの意義:
(1)アンジュー、D. 著 福田素子訳、「皮膚―自我」、言叢杜、1993
 
情緒発達:
(1)吉田弘道、「情緒面をどう育てるか―人との相互作用を通して―」、小児科臨床、53、増刊号、1223-1226、2000
 
声・言葉の使い方:
(1)竹内敏晴著、「子どものからだとことば」、晶文社、1983
(2)竹内敏晴著、「『からだ』と『ことば』のレッスン」、講談杜現代新書、1990
(3)竹内敏晴著、「癒える力」、晶文社、1999
(4)竹内敏晴著、「教師のためのからだとことば考」、ちくま学芸文庫、1999







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION