講演 II
座長 西垣正憲(大阪小児科医会理事)
演題 気になる子どもの行動と対応
―発達臨床心理学の立場から―
講師 吉田 弘道(専修大学教授)
プロフィール
1976年 早稲田大学第ニ文学部心理学科卒業
1986年 早稲田大学大学院文学研究科博士課程後期心理学専攻単位取得満期退学
1984年 こどもの城小児保健部(93年から次長)
1995年 (財)東京都精神医学総合研究所 臨床心理研究部門 主任研究員
2000年 専修大学文学部教授(発達臨床心理学担当)
資格 臨床心理士((財)・日本臨床心理士資格認定協会)、日本精神分析学会「認定心理療法士」「認定心理療法士スーパーバイザー」
学会関係 日本小児保健協会評議員、日本小児精神神経学会評議員
著書(共著、分担執筆)
「こどものスリム大作戦」法研、1995(共著)。
「乳児心理学」川島書店、1997(分担執筆)。
「遊戯療法:2つのアプローチ」サイエンス杜、1997(共著)。
「幼児食の基本」日本小児医事出版社、1998(分担執筆)。
「遊戯療法の研究」誠信書房、2000(分担執筆)。
「母子の健康科学」放送大学教育振興会、2000(分担執筆)。
「新世紀の小児保健」日本小児医事出版社、2002(分担執筆)。
「実習保育学」日本小児医事出版社、2003(共同編集)
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子どもの心は人との付き合いを通して発達する。
気になる子どもの多くは、人との付き合いが普通にできず、そめため、心の発達不全がみられる子どもである。
人付き合いの問題には、親子関係の問題、器質的な問題、親子関係プラス器質的な問題が関与している。
気になる子どもの行動には必ず意味がある。その意味を理解して、発達援助的に対応することが大切である。
■乳幼児期に発達する心
心は乳幼児期の間に人との関係を通して発達する。
自己信頼と他者信頼 |
自分自身を信頼すること、親や大切な人を信頼できること。
生後1年の間に発達する。 |
分離‐個体化の達成 |
親と自分は別の人格をもっている‐個の人間であるという認識と、意識。
「真の自己」の形成にも関係する。親からの自立とも関係する。 3、4歳までの間に達成される。 |
自尊心と他者への愛情 |
自分自身を大切にすることと、人を大切にすること、自分の意志の明確化。
幼児期から児童期のはじめにかけて発達する。 |
感情の発達 |
自分自身の感情を知ること、感情を表現すること、人の気持ちをわかること、人を思いやること、感情的な興奮をコントロールすること。
基本的には幼児期の間に発達する。 |
欲望の発達 |
自分の欲望を知ること、欲望を主張することと、我慢すること、基本的な部分は幼児期の間に発達する。 |
自己・自我の発達 |
自己‐「自分」という意識、「本当の自分、真の自己、自分らしい自分」の自覚、認識、表現、主張
自我‐知覚、感覚、感情、欲望、情報や知識を自分の目的のためにまとめあげる力 感情、欲望の表出・主張と我慢のバランス、 自分を守る、自分の心を入れておく袋ができること、 約束を守る、秘密の保持、 基本的な部分は幼児期の間に発達する。 |
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■アタッチメントの形成過程
人との関係の基本を確認するために、アタッチメントという概念でみていく。
第1段階:出生から4か月まで |
人に対して関心を示す時期
人の顔を見たり、声を聞いたり、抱かれることを好む赤ちゃん |
第2段階:4か月から6か月まで |
母親のように世話してくれる人に対して関心を示し、関係を作る行動がはっきりしてくる時期
笑ったり、泣いたり、しがみついたりするのを好む赤ちゃん |
第3段階:6、7か月から2、3歳 |
心の結びつきがはっきりしてくる時期
母親のようにいつも世話してくれる人を識別して、その人に心を寄せていることが明確になる、後追いや人見知り、母親の出迎えなど、結びつきがはっきりとわかる 母親とのアタッチメントが形成されたことを具体的に示す行動 (1)母親が見えなくなると泣き出す、母親の後を追う (2)泣いているときに、他の人ではだめでも母親があやすと泣き止む (3)知らない人に出会うと母親にしがみつく (4)母親から離れて遊んでいても、不安になると母親のところにもどる、母親を安全基地として使う |
第4段階:3歳以降 |
次第に母親にまとわりつくことが減ってきて、必要なときのみ母親にまとわりつく
次第に母親から離れて友達と遊ぶ時間が増えてくる(例)恐いとき、不安なとき、疲れたとき、体調がわるいとき、愛情に不安を感じたとき |
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◎月齢や年齢は標準的なものです。
子どもがこの形成過程のどの段階にいるのかを理解して付き合うことが役に立ちます。
■安定した心の結びつきをつくるときに必要な親や保育者の関わり
・赤ちゃんとの身体接触が多いこと。赤ちゃんの不安や苦痛を抱いてなだめるのが上手であること。
・赤ちゃんの泣きや笑いに対して感度よく情緒的に応答するのが上手であること。
・赤ちゃんの疲れや目そらしに敏感に反応し、疲れさせないように関わること。
・赤ちゃんが何を訴えているのかを理解し、適切に対応すること。
・赤ちゃんにとってわかりやすいように一貫性のある態度で接すること。
図 安定したアタッチメントを形成する相互作用
■アタッチメントの質の違い
赤ちゃんの気質と親や家庭の環境の組み合わせによって、親子のアタッチメントの質に違いが生じる。アタッチメントの質の違いをタイプという言い方にする。
表 アタッチメントのタイプ
タイプA
不安定・回避型アタッチメント |
親に抱かれたりしがみついたりすることがなく、親との間にアタッチメントが形成されていることがわかりにくいタイプである。1、2歳の子どもは初めての場所にいくと緊張したり不安を感じたりするのが普通であるが、このタイプの子どもは、不安な様子をみせず、親が居なくなっても泣かないし、親が戻ってきても近づかないで離れている。関係を避けているようにみえる。 |
タイプB
安定型アタッチメント |
親との間に安定したアタッチメントを形成しているタイプである。不安なときに親にまとわりついたり抱かれたりして不安を鎮め、安心すると親から離れて遊ぶことができる。 |
タイプC
不安定・反対感情併存型アタッチメント |
アタッチメントが形成されているが、不安定であると判断されるタイプである。不安なときに、親にまとわりついたり抱かれたりするのであるが、なかなか安心できずに泣き続け、ときにはいらいらして親をたたいたり、親が手渡したおもちゃを投げたりする。抱きつくことと腹を立てるという、相反する二つの感情が一緒にみられる。 |
タイプD
不安定・非組織型アタッチメント |
不安定でわかりにくいアタッチメントが形成されているとみられるタイプである。たとえば、1、2歳の頃に、初めての場所で親がいなくなってもどってきたときに、ぼーっとしていたり、動きが止まっていたり、あるいは親に近づいたかと思うと急に激しく親を避けて離れたり、親から顔や目をそらしながら近づいたりするような、矛盾していて、文字通り組織化されていない、わかりにくい行動が見られる。 |
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表 |
保育の場でアタッチメントのタイプの評定に役立つ項目 (吉田、2003「実習保育学より」) |
タイプA:
・園に預けられた最初から、親から離れるときに親の方を気にしない ・親が迎えに来ても嬉しそうにしない ・保育者が抱こうとするといやがる ・保育者が手伝おうとすると邪魔されたと思う ・保育者の助けをめったに求めない(痛そうなときでも) ・親や保育者になにかをやってもらう手段として泣くことはあまりない ・前は保育者に寄って来なかったが、最近保育者の気を引くような行動をたびたびする ・最近保育者の気を引こうとわざと目立つような行動をするようになった ・失敗したら恥ずかしいので、失敗するようなことは最初から避けようとする |
タイプB:
・園に預けられた最初は泣くこともあったが比較的早目に慣れた ・親と別れるときになごりおしそうにする ・親が迎えに来ると嬉しそうにする ・保育者に振り回されることを喜ぶ ・恐がっても保育者が抱くと安心する ・困ったときには保育者の助けを求めるが、そうでないときには自分で頑張る |
タイプC:
・園に預けられた最初から泣くことが多く、なかなか園に慣れなかった ・親がいなくなると泣き続ける、怒る ・親が迎えに来ると理由もなくぐずぐずする ・わがままで気が短い ・なにかをやってもらう手段として泣くことが多い ・恐がりで、保育者が抱いても安心するのに時間がかかる ・保育者に手助けを求めることが多い ・できそうなことでも自信がない |
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