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―子ども総研から―
文献情報(25)
日本子ども家庭総合研究所
「保育の実践と研究」 第八巻第三号、二〇〇三年、二〇〜三〇頁、「保育の場で出会う障害児の姿から保育を再考する」 金 英珠(千葉明徳短期大学)
 
 保育の場で感じる障害児保育は、保育の原点だと言っても過言ではなく、どのような場面でそれを感じ、そして保育者に求められるものはなにか、について整理している。この中でいくつか事例を取り上げ、保育場面における実際の声かけの意味や方法、そして子どもの行動を見守る姿勢、こだわりのとらえ方について具体的に述べている。
 子どもの一見意味不明で突飛な行動をゆったり見守ることは容易ではないが、それにとことん付き合った結果、見えてくる子どもの本当の気持ちがある。保育者がこだわりとして行動を一方的に予測づけてしまうことは、子どもの理解を狭め、子どもの気持ちを見落としてしまうことになる。その子どもの世界に付き合い、寄り添うことで初めてその世界に共感し、理解できるのだと指摘する。
 障害児を保育する上では「特に配慮すべき事項」や「知っておかなければならない事項」があるが、数多くの障害がある中で、全てを学び、熟知しておくことは難しい。そこで保育者に求められるのは、障害をもった子どもと出会ったとき、誠意をもってその障害を調べ、知ろうとする姿勢であるとしている。それはその子どもの生活上で不都合が生じないよう、保育していく上での安全が保障されるようにするためである。きちんと調べる力、信頼できる専門家及び機関と連携を取れる関係をもっていることも重要である。目の前の子どもと向き合った上で必要な配慮をしていくことが保育における「理解」といえる。
 保育の場に障害児を受け入れるということは、特別なことではなく、一人の子どもとしてかかわりの中で理解し、その子なりの育ちを支えていくといったことが「保育の原点」であることを強調した。その上で、保育者が子どもを障害の有無に関わらず、ありのままのその子を理解し、思いを込めて、生き生きと集団生活の中で生活できる状況を支えていくことの大切さを述べている。
 
「家庭教育研究所紀要」第二五号、二〇〇三年、十三〜二三頁、「こころを育む親支援 −現代の子育てとこころの自立」 柳瀬洋美(稲城市子ども家庭支援センター)
 
 近年、社会的な変容と共に新たな子育ての不安やストレスが生み出され、子育て支援の必要性や重要性が叫ばれている。そのような中、本論では、真の意味での子育て支援の最終目標は「親の自立」であり、特に重要なのは「こころの自立」ではないかとしている。前半は現代の親の子育て不安とその背景に焦点をおき、後半では「こころの自立」に向けての支援のあり方と親のこころの成長や変化について、筆者の経験と臨床心理士としての立場から論じている。
 子どもの気質や発達に伴う親の悩みは今も昔も変らないが、昨今の女性を取り巻く環境の変化は特に著しく、その影響が「現代の子育て」に大きな影響を及ぼしているといわれる。現代社会における子育て不安やストレスに対する支援を考えた時、「こころの自立」に向けての「こころの支援」は重要かつ最終的な目標となる。
 現代社会の変容は、どのように子育て不安に影響を及ぼしているのか、いくつか取り上げられている。それらは(1)現実体験の希薄化、(2)知育偏重の頭の子育て、(3)個人主義的生活スタイルの定着と自分優先の親世代、(4)人間関係の希薄化と存在の不確かさ、といったさまざまな要因である。さらに、これまでの生い立ちや生き方が影響する世代間連鎖、妊娠や出産による産後うつについても取り上げ、ケアの必要性を述べている。
 子育て支援の基本は、それぞれの親子が自分たち自身で子育てや親子関係のあり方を、時間をかけて見つけ出し育んでいく、そのための道を共に探り、共に歩んでいくことであるとしている。子育てに悩む母親が安心して悩める居場所(こころの拠り所)を作り、援助者が温かく見守る中で、親は自分の「気づき」を受け入れ、変化していく勇気を得ることができる。このように親がこころの拠り所を見つけ、「気づき」を得ることで現実を受けとめ、自分と向き合い、先へ歩み出せた時に必要となる支援が「信じて待つ」ということになる。「何があっても自分を信じて待ってくれる人がいる」という心強さと、子育ての中で生じる喜びをその支援者と分かち合えることは明日への大きな力となり、最大の「子育て支援」となり得る。「こころの自立」とは「自分の人生を自分の意思で生きること」であり、困難に直面したとき悩みや不安としっかり向き合い、必要に応じて手助けを借りるという判断が自分自身でできるようになることが必要なのである。
 本論は、保育者をはじめ、子育て支援に関わる専門家に日常の支援のあり方を振り返る意味でも大切なテーマとなっている。(山内浩子)
 
「第二回二十一世紀出生児縦断調査の概況」二〇〇三年、厚生労働省大臣官房統計情報部
 
 この調査は、同客体を長年にわたって追跡調査する縦断調査として、平成十三年度から実施を始めた承認統計であり、二十一世紀の初年に出生した子の実態及び経年変化の状況を継続的に観察することにより、少子化対策等厚生労働行政施策の企画立案、実施等のための基礎資料を得ることを目的としている。
 調査の対象は、全国の二〇〇一年に出生した子とし、一月一〇日から十七日の間及び七月一〇日から十七日の間に出生した子のすべてが調査の客体となっている。
 第一回調査の一月出生児については、平成十三年八月一日、七月出生児については平成十四年二月一日(月齢六か月)に、第二回調査は、一月出生児については、平成十四年八月一日、七月出生児については平成十五年二月一日(年齢一歳六か月)に行われた。
 調査事項は、第一回調査が、保育者、同居者、父母の就業状況、父母の労働時間、父母の家事・育児分担状況、住居の状況、父母の喫煙状況、子育てで意識していること、子どもをもってよかったと思うこと、子どもをもって負担に思うこと、子育ての不安や悩みの有無、授乳の状況、父母の収入、一か月の子育て費用。
 第二回調査では、同居者、保育者、祖父母との行き来、子どもの食事で気をつけていること、子どもの就寝時間、子どもの遊びの様子、子どもの病気やけが、子どもの事故、子どもの身長・体重、父母の就業状況、父母の学歴、父母の家事・育児分担状況、父母の食習慣、父母が子どもと過ごす時間、父母の収入、一か月の子育て費用、子どもを育てていてよかったと思うこと、子どもを育てていて負担に思うこと、子育ての不安や悩みの有無、である。
 調査票の回収数は、第一回調査四七、〇一〇件、第二回調査四三、九二〇件で回収率は九〇%を越えている。
 結果の一部を紹介すると、母親の有職率は第一回が二五%、第二回で三一%と増えており、新たに職についたもののうち六五%はパート・アルバイトである。保育者については、「保育士」が第一回三・九%から、第二回一八・三%に増えている。保育者の組み合わせで見ると「保育士・保育ママ・ベビーシッター利用」が第一回の四・二%から第二回は一八・七%に増えている。
 この調査結果は、厚生労働省のホームページにも掲載されている。アドレス(http://www.mhlw.go.jp/
 
「小児保健研究」六二巻六号、平成十五年十一月、七〇一〜七〇六頁、財団法人日本小児保健協会学校保健委員会報告「未成年者の喫煙を無くすために学校無煙化推進」衛藤隆(東京大学医学員教育学研究科身体教育学コース)他
 
 この文献を取り上げた理由は、保育所においても、子どもの受動喫煙の問題に関心が寄せられ、子ども達がその被害から守られる取り組みがなされることを願うからである。すでに、保育所保育指針では「保育所職員や保護者は保育室内での禁煙を厳守する」とされていることは周知のとおりであるが、これは乳幼児突然死症候群(SIDS)の予防の項にあげられており、敷地内禁煙とはされていない。保護者会、運動会などの行事での禁煙が徹底されているか懸念される。
 ここに紹介する学校無煙化への提言からは、幼児期においても子どもと親への防煙・禁煙教育と環境整備が重要であることの示唆が得られる。
 学校内を禁煙にする理由として埼玉県行田市教育委員会の文書より五項目があげられている。
(1)健康教育推進の視点から禁煙教育の一層の充実を図る。
(2)受動喫煙の被害から子ども達を守る。
(3)子どもの喫煙は非行や薬物乱用の入り口となる可能性がある。
(4)大人が喫煙しないという望ましいモデルを子ども達に示すことは重要である。
(5)健康増進法において、施設管理者は受動喫煙を防止するための措置を講じなければならない。
 提言のまとめとして、「学校内は分煙ではなく禁煙とすることに例外をつくってはいけない」としており、その理由を「教師のたばこを吸う姿を子ども達に見せることがなくなるのは、大人のモデルとしての教師の一面を考えるとよい教育的効果となる」としている。教師を保育士に置き換えても同じである。
 また、児童福祉法の改正により保育士は「児童の保護者に対する保育に関する指導する」役割が明確になった現在、たばこによるSIDSの危険性の保護者への周知徹底はもとより、家庭での子どもの受動喫煙を防止する指導にも積極的に取り組むことが望まれよう。
(齋藤幸子)
 
事務局から
▽衆議院予算委員会(16・2・10)で野党議員の総理大臣に対する質問の中で、「総合規制改革会議が答申しているように、国の規制の基準をどちらか低い方にする。私立保育所の補助金と幼稚園関係の補助金を一本化し、一般財源化して都道府県、市町村に任せる。」「公立保育所の施設の設置基準とか職員の配置基準は、税源移譲しても変わっていない。結局、権限は手放していない。」などの発言をみると、審議会委員より理解のレベルが低いと思われる(概要は次号に掲載する予定)。
 
日保協 活動日程
2月(報告)
16月(月) 13時〜17時 日本保育協会保育問題検討委員会
〈日本保育協会資料室〉
17日(火) 13時30分〜20日(金)13時 平成15年度関東地区保育所主任保育士(初任者指導保育士)研修会
〈川崎市産業振興会館〉
20日(金) 13時〜15時 日本保育協会群馬県支部中央研修会
〈千代田区:自由民主会館〉
28日(土) 12時30分〜29日(日) 平成15年度保育所保育・保健推進セミナー(大阪開催)
〈大阪市:大阪国際交流センター〉
 
3月(予定)
24日(水) 13時〜17時 日本保育協会女性部運営委員会
〈千代田区:日本保育推進連盟会議室〉
25日(木) 11時〜13時 日本保育協会理事会
〈千代田区:ルポール麹町〉
25日(木) 13時30分〜15時30分 日本保育協会評議員会
〈同上〉







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